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44.元カノに待ち伏せされる
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塾の無機質な部屋で整然と並べられた机に向かい、教科書とノートを広げる。正面のホワイドボードの上にある時計を見る。19時だった。千紗は大きくため息をつく。
この後、会うリオのことが気になる。大輝はきちんと話をつけるために会うと言っていたが、すんなり終わるのだろうか。目的はわからないものの、大輝と縁をつなぐためにストーカーまででっちあげるような女性だ。あっさり終わるとは千紗には思えない。
待ち合わせの時間が近づくにつれ、そんな考えが頭の大部分を占めるようになっていく。
広げた教科書の文字を読む目が滑る。首を左右に振って、今考えてもどうにもならないことを頭から追い出す。肩を上下させて息を吐き、教科書に向かう。そんな行動を10分おきに繰り返して、1時間半、千紗は塾を出ることにした。
自転車に鍵を差して、ハンドルを握る。
待ち合わせの時間まで1時間もある。ファーストフード店までは自転車に乗れば10分で着いてしまうので、のんびりと押していくことにした。
目的のファーストフート店の前にある駐輪場に自転車を置く。鍵を抜いてリュックサックのポケットに入れ、代わりに携帯電話を取り出す。画面には20時50分と表示されていた。
ー 先に店に入っとくね。着いたら連絡ください ―
大輝あてにメッセージを送り、店の入り口へ向かった。
入り口ドアの横に腕を組んで立っている女性がいた。
千紗は、どこかで見たことがあると思いつつ、顔を見つめすぎないように意識して、入り口へ近づく。女性とほぼ横に並んだくらいで、その女性に肩をつかまれた。
「あなた、大輝の彼女よね」
肩に乗っているほっそりとした手を見て、そのままたどって手の持ち主の顔を見る。ドアの横に立っていた女性だ。千紗よりも2、3歳年上だろうか。
「大輝って、南大輝くんのことですか?」
明るすぎない茶髪のボブヘアの女性は、顎をあげて見下ろすように千紗を見て、うなずいた。
かわいらしい顔ににらみつけられ、一瞬、身震いしてしまう。
すぐに気を取り直して、千紗は肩に乗った手をとって下ろさせた。
「そうですけど。どなたですか?どこかでお会いしたことありましたっけ」
「私、吉田リオ。大輝の元カノ。もうすぐ恋人に戻るかもしれないけど」
千紗は目を見開いて、リオと名乗った女性をまじまじと見る。
彼女は21時までバイトのはずではなかっただろうか。どうして、今の時間にここにいるのだろう。疑問が次々と浮かぶ。
それを口にする前に、数週間前の記憶がよみがえってきた。
「あ、大輝くんがリオさんからの電話を受けたとき、喫茶店の外にいましたよね」
リオは口元に笑みを浮かべながら、ファーストフード店とは逆方向を指さし、千紗についてくるよう促して歩き出した。
「そうよ。電話をしながら、あなたの様子を見てたわ。大輝が出て行った喫茶店の入り口からは見えない位置だったから、彼は私に気づかなかったみたいだけどね」
どこに向かっているのだろうか。ファーストフード店を背中にして、自転車やバイクが横切るのを待ち、通りを渡る。歩道を少し歩いて、道に沿うように作られた公園に入るらしく、数段の階段を上った。
この後、会うリオのことが気になる。大輝はきちんと話をつけるために会うと言っていたが、すんなり終わるのだろうか。目的はわからないものの、大輝と縁をつなぐためにストーカーまででっちあげるような女性だ。あっさり終わるとは千紗には思えない。
待ち合わせの時間が近づくにつれ、そんな考えが頭の大部分を占めるようになっていく。
広げた教科書の文字を読む目が滑る。首を左右に振って、今考えてもどうにもならないことを頭から追い出す。肩を上下させて息を吐き、教科書に向かう。そんな行動を10分おきに繰り返して、1時間半、千紗は塾を出ることにした。
自転車に鍵を差して、ハンドルを握る。
待ち合わせの時間まで1時間もある。ファーストフード店までは自転車に乗れば10分で着いてしまうので、のんびりと押していくことにした。
目的のファーストフート店の前にある駐輪場に自転車を置く。鍵を抜いてリュックサックのポケットに入れ、代わりに携帯電話を取り出す。画面には20時50分と表示されていた。
ー 先に店に入っとくね。着いたら連絡ください ―
大輝あてにメッセージを送り、店の入り口へ向かった。
入り口ドアの横に腕を組んで立っている女性がいた。
千紗は、どこかで見たことがあると思いつつ、顔を見つめすぎないように意識して、入り口へ近づく。女性とほぼ横に並んだくらいで、その女性に肩をつかまれた。
「あなた、大輝の彼女よね」
肩に乗っているほっそりとした手を見て、そのままたどって手の持ち主の顔を見る。ドアの横に立っていた女性だ。千紗よりも2、3歳年上だろうか。
「大輝って、南大輝くんのことですか?」
明るすぎない茶髪のボブヘアの女性は、顎をあげて見下ろすように千紗を見て、うなずいた。
かわいらしい顔ににらみつけられ、一瞬、身震いしてしまう。
すぐに気を取り直して、千紗は肩に乗った手をとって下ろさせた。
「そうですけど。どなたですか?どこかでお会いしたことありましたっけ」
「私、吉田リオ。大輝の元カノ。もうすぐ恋人に戻るかもしれないけど」
千紗は目を見開いて、リオと名乗った女性をまじまじと見る。
彼女は21時までバイトのはずではなかっただろうか。どうして、今の時間にここにいるのだろう。疑問が次々と浮かぶ。
それを口にする前に、数週間前の記憶がよみがえってきた。
「あ、大輝くんがリオさんからの電話を受けたとき、喫茶店の外にいましたよね」
リオは口元に笑みを浮かべながら、ファーストフード店とは逆方向を指さし、千紗についてくるよう促して歩き出した。
「そうよ。電話をしながら、あなたの様子を見てたわ。大輝が出て行った喫茶店の入り口からは見えない位置だったから、彼は私に気づかなかったみたいだけどね」
どこに向かっているのだろうか。ファーストフード店を背中にして、自転車やバイクが横切るのを待ち、通りを渡る。歩道を少し歩いて、道に沿うように作られた公園に入るらしく、数段の階段を上った。
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