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40.元カノへの疑念
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強行に及んでこないストーカーなら、リオは家族や友人に同席してもらって、直接、顔を合わせて話をしたらいいのではないだろうか。すでにストーカーが始まって2週間以上経っている。何か解決に向けて手立てを考えていないのか。考えてないというなら、それはなぜだろう。
考えれば考えるほど、疑問しか浮かばない。
千紗が考えたことを聞いた大輝は思い当たるような声を漏らした。
『それな、俺も言った。俺が一緒に行くから話し合ってみればって。だって、千紗も言ったように、何もしてこない。ただついてくるだけなんだから。俺、一人で不安なら男の友だちを何人か連れてくるって言ったんだよ。でもね、返ってきた答えは、刺激したくない、だった。俺も不思議なんだよ。しかも、週に3,4回でいいって言われてたのに、来週はほぼ毎日送ってくれって言われてさ。朝も大学が1限からあるときは駅まで送ってほしいって』
「何それ。まさかとは思うけど、リオさん、大輝とより戻したいとかじゃないよね」
自分の言葉で自分の鼓動を早くしてしまった。
耳に小さく笑う声が届く。
『あ、ヤキモチ? マジで嬉しいわ。大丈夫だって、俺にその気ないから。大体、俺の愛情表現を重いっつった人だぞ。ない、ない』
軽い返事に鼓動は穏やかになっていく。
錆びた鉄がきしむ音がする。家の門でも開けたのだろうか。
『家、着いた。悪いけど、これで切るな。あ、千紗の言ったこと、俺も考えてみる。なんなら、俺がストーカーと話してみてもいいかなって思ってるし』
「うん、傷つけてきそうな人には感じないしね。でも、一人はやめてね」
ああ、という耳に心地よい声を最後に電話は切れた。
大輝と話をするのは校内だけ、休み時間と昼休みだけになった。とはいっても、学校だから2人だけで話すということはほぼない。先日の電話で消えかけていた黒いモヤが勢いを取り戻し、心に根付き始める。
夜、電話がかかってくるかと電話を手に持ってベッドに寝転がるけれど、届くのはメッセージばかりだ。千紗から電話をかけようかと何度も考えたものの、自分の時間を削った生活をしている大輝の負担になりたくないと思い、実行できずにいる。
帰宅した後は必ずメールを送ってくれるので、千紗はそのやりとりを楽しみにしようと自分に言い聞かせていた。
先ほど送られてきたメールには、リオを家に送ってもすぐに帰れず、ストーカーが怖いと言っては引き止められ、家に上がるように言われる、と書かれていた。
先日はリオをオートロックのマンションの玄関に押し込んで、すぐ引き返してみたけれど、いつもストーカーはいなくなっていて捕まらなかったらしい。
ここ数日、このような出口の見えない話が愚痴のように送られてくるようになった。
ベッドに寝転んで携帯電話の画面を見ながら、ため息をつく。
「デートしたのって映画見に行ったのが最後だよね。あれから3週間くらい?放課後も一緒に帰れないし、何なの。付き合い立てだよ、私たち。優先する相手まちがってるよ」
大輝に届かない言葉を1人つぶやいた。
考えれば考えるほど、疑問しか浮かばない。
千紗が考えたことを聞いた大輝は思い当たるような声を漏らした。
『それな、俺も言った。俺が一緒に行くから話し合ってみればって。だって、千紗も言ったように、何もしてこない。ただついてくるだけなんだから。俺、一人で不安なら男の友だちを何人か連れてくるって言ったんだよ。でもね、返ってきた答えは、刺激したくない、だった。俺も不思議なんだよ。しかも、週に3,4回でいいって言われてたのに、来週はほぼ毎日送ってくれって言われてさ。朝も大学が1限からあるときは駅まで送ってほしいって』
「何それ。まさかとは思うけど、リオさん、大輝とより戻したいとかじゃないよね」
自分の言葉で自分の鼓動を早くしてしまった。
耳に小さく笑う声が届く。
『あ、ヤキモチ? マジで嬉しいわ。大丈夫だって、俺にその気ないから。大体、俺の愛情表現を重いっつった人だぞ。ない、ない』
軽い返事に鼓動は穏やかになっていく。
錆びた鉄がきしむ音がする。家の門でも開けたのだろうか。
『家、着いた。悪いけど、これで切るな。あ、千紗の言ったこと、俺も考えてみる。なんなら、俺がストーカーと話してみてもいいかなって思ってるし』
「うん、傷つけてきそうな人には感じないしね。でも、一人はやめてね」
ああ、という耳に心地よい声を最後に電話は切れた。
大輝と話をするのは校内だけ、休み時間と昼休みだけになった。とはいっても、学校だから2人だけで話すということはほぼない。先日の電話で消えかけていた黒いモヤが勢いを取り戻し、心に根付き始める。
夜、電話がかかってくるかと電話を手に持ってベッドに寝転がるけれど、届くのはメッセージばかりだ。千紗から電話をかけようかと何度も考えたものの、自分の時間を削った生活をしている大輝の負担になりたくないと思い、実行できずにいる。
帰宅した後は必ずメールを送ってくれるので、千紗はそのやりとりを楽しみにしようと自分に言い聞かせていた。
先ほど送られてきたメールには、リオを家に送ってもすぐに帰れず、ストーカーが怖いと言っては引き止められ、家に上がるように言われる、と書かれていた。
先日はリオをオートロックのマンションの玄関に押し込んで、すぐ引き返してみたけれど、いつもストーカーはいなくなっていて捕まらなかったらしい。
ここ数日、このような出口の見えない話が愚痴のように送られてくるようになった。
ベッドに寝転んで携帯電話の画面を見ながら、ため息をつく。
「デートしたのって映画見に行ったのが最後だよね。あれから3週間くらい?放課後も一緒に帰れないし、何なの。付き合い立てだよ、私たち。優先する相手まちがってるよ」
大輝に届かない言葉を1人つぶやいた。
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