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31.まだ付き合っていない二人(2)

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 それから大輝は休み時間になるたび、千紗の頭や肩に手を置いて話しかけてきた。解放されるのはトイレに行くときと、男女で別れる体育のときくらいだった。

 昼休み、千紗は弁当箱とカメラを持って蓮や悠里と屋上にあがる。

 日差しがきつくなってきたとはいえ、まだ屋上の床面を熱するほどの強さはないらしい。購買へパンを買いに行った大輝の座る空間を空けて、3人で円を描くように座った。遊園地で撮った画像を見せて、別行動になったときの蓮や悠里の行動を聞きながら、昼食をとる。

 大輝と2人で過ごした時間のことを聞かれたが、当たり障りないことだけ話して、元カレで大輝の兄の恒輝と会ったことは伏せ、観覧車内で大輝と話したことも、お互いに好意を伝え合ったことを話した。両想いなのに、正式に付き合ってはいないということには、蓮も悠里も不思議そうな顔をしていたけれど、お互いがベストだと考えた結果だと伝えると、それ以上は何も言わなかった。2人が仲良くなって良かったと笑ってくれる。

 弁当を食べ終えた蓮が屋上の扉へ目を向けた。

「大輝、遅くないか。購買、そんなに混んでんのか」

 千紗と悠里も空になったお弁当箱を片付けながら、扉を見た。

 突然、扉が開き、外へ出てきた大輝が後ろ手に扉を閉めた。息を切らして肩を大きく上下させながら、ビニール袋を持った手を膝についた。落ち着いたのか、顔を上げ、前髪をかきあげながら、黙ってみている3人が座る方へ歩いてきた。

 大輝は1人分のスペースが開けられた千紗と蓮の間に倒れるように腰を下ろす。

「あー、疲れた。あんなに人に囲まれるなんて想定外だったわ」

 紙パックのコーヒー牛乳にストローを差して飲み、空を仰いでため息をついた。蓮が大輝の背中を撫でている。

「ああ。千紗ちゃんのことで女子どもに文句言われたか」

 大輝の顔をのぞきこんで、ニヤニヤしていた。そんな蓮をチラ見して、大輝は千紗へ視線を向けてきた。

「文句っていうか、質問攻めだよ」

 大輝はビニール袋から焼きそばパンを出して包みをはがし、かぶりついた。パンを持っていない方の手で千紗の髪をすく。

「『なんで松村さんなんだ』とか、『自分も好きだって言ったのに、何でダメだったんだ』とか、そんなことばっかり」

 悠里が身を乗り出して、大輝の肩をつかんだ。

「なんて答えたの」

 淡々としていることが多い悠里には珍しく強い口調だったせいか、大輝は千紗の髪から手を離して後ろにのけぞった。

「あ、ああ。『俺が好きになったんだから仕方ないだろ。アピールされたからとかじゃないからな。付き合ってるっていうか、俺が追いかけてるところなんだから、千紗に八つ当たりとかすんなよ』って」

 千紗の手に大輝の手が添えられ、優しく包んでくれる。

「朝、言ったように数日は大変だろけど我慢して」

 悠里が大輝の肩から手を離す。

「そう、はっきり言ったんならいいわ。千紗に何か言う女子がいたら、私が大輝くんの言葉を借りて言い返してやるから」

 大輝が悠里を見て口角を上げる。

「ああ、頼むよ」

 今度は蓮が大輝の肩に手を乗せた。

「走って上がってくるって、追いかけられたのか」

「いや、追いかけられたわけじゃないけど。次々とおんなじこと言ってきやがるから、きりがなくて逃げてきた。何回かおんなじことを言ったから、もう俺から言わなくても広まるだろ」

 千紗は握られたその手に力が入ったのを感じた。
 温かいものが胸に広がる一方、数日で本当におさまるのかという不安がよぎる。昨日、自信なさげだった大輝からは想像できなかった今日の行動にも疑問が浮かぶ。

 切れた息を整えながら、昼休み終了間際に昼食を取る大輝に、それらをぶつけることはできなかった。
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