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30.ダブルデート~望まない再会(3)~

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 恒輝が両手でカオリの頬をはさみ、自分のほうへ向けた。

「お前、千紗ちゃんと会って何してんだよ。あのとき、俺には『浮気相手と別れて』としか言わなかったじゃないか。怒鳴りも殴りもしなかったくせに。千紗ちゃんに攻撃してたのかよ」

「この女が悪いんでしょ。子どものクセに恒輝に色目使って」

 2人で言い合いが始まりそうだ。

 千紗は、恒輝に浮気相手と言われたことが、今さらながら心に刺さる。たとえ、それがカオリの口真似だったとしても。

 重苦しく黒いモヤが胸の中を占めていく。
 
 大輝が千紗に寄り添うように体をくっつけてきた。シェイクを持たない方の手で髪を撫で、恒輝とカオリをにらんでいる。

「2人の痴話げんかは後でやって」

 普段はテノールの声が低く響き、恒輝とカオリが大輝を見た。

「カオリさんが、なんで千紗が今でも兄貴をつけまわしてるって思ったかは知らないけど、いきなり頬を叩くのはダメだろ。昔も、ガム塗りつけるし。それって暴力だろ」

 少し声を荒げる大輝を、カオリが目を揺らしながらも眉間にシワを寄せる。
 たぶん、にらみつけているつもりなのだろう。

「大輝くんに言われたくないわよ。何人もと同時に付き合ってるくせに。彼女たちの気持ちも考えないで女を都合よく使って」

 大輝は細く長く息を吐いた。

「俺の彼女に関してだけ言えば、都合よく使ってるのはお互い様だったと思うけどね。俺はちゃんと他にも彼女がいるって伝えて、それでいいっていう相手としか付き合ってなかったよ」

 千紗の頭に手を乗せた状態で話すことではないような気はする。それでも、大輝は堂々としていた。

「もし黙って2股かけてたとして、相手の女に暴力ふるうような女はごめんだね。俺に言えよって思う。カオリさんだって、文句は兄貴にぶつけろよ」

 カオリは唇をかんで、力のない目で大輝を見ている。

「だからってなんでこの女かばうのよ。恒輝と連絡とってないって言えないでしょ」

 声が震えだしたカオリの肩を恒輝が抱く。

「連絡とってないよ。ずっと言ってただろ。ゼミ生や教授と、課題やゼミのスケジュールで頻繁にやりとりしてるって。バイトのシフト交代についてもよく連絡来るし。なんなら携帯電話見てもらっていいよ。あとでな」

 カオリは恒輝の言葉に力なくうなずいた。恒輝が千紗に向き直る。

「千紗ちゃん、ごめん。カオリがそんな酷いことしてたなんて知らなかったよ。謝って済ませられることじゃないけど、ホントごめん」

 千紗は揺れる程度に頭を振る。頭に乗せられたままの大輝の手からじんわりと温かさが胸に届いて、体を侵食していた黒いモヤが溶けていく気がした。

 手に持ったストロベリーのシェイクを見つめる。こちらもかなり溶けているようだ。

「カオリさんって、もしかして恒輝さんから愛されてる自信がないんですか? だから不安になって、恒輝さんを疑って、見えない誰かに嫉妬して、人を攻撃してしまうんでしょうか」

 思ったことを口にすると、重苦しかった気持ちも軽くなる。カオリの目がうるんできているのがわかった。
 大輝が千紗の頭を軽くポンポンとたたく。

「まあ、そこは兄貴とカオリさんの問題だから。今日の千紗は巻き込まれただけだな」

 頭に置いていた手を肩に回して、千紗の顔をのぞきこむようにして見てくる。

「次のアトラクションはどれにする?シェイク飲みながら選ぶぞ」

 大輝は突っ立ったままの恒輝とカオリをよそに、千紗の肩を持ったまま向きを変えて歩き出す。少し歩いて、大輝は足を止めた。

「ごめん。ちょっと兄貴とカオリさんに用があるから、ここで待ってて」

 振り返って走り、恒輝とカオリの元へと行った。
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