53 / 80
30.ダブルデート~望まない再会(3)~
しおりを挟む
恒輝が両手でカオリの頬をはさみ、自分のほうへ向けた。
「お前、千紗ちゃんと会って何してんだよ。あのとき、俺には『浮気相手と別れて』としか言わなかったじゃないか。怒鳴りも殴りもしなかったくせに。千紗ちゃんに攻撃してたのかよ」
「この女が悪いんでしょ。子どものクセに恒輝に色目使って」
2人で言い合いが始まりそうだ。
千紗は、恒輝に浮気相手と言われたことが、今さらながら心に刺さる。たとえ、それがカオリの口真似だったとしても。
重苦しく黒いモヤが胸の中を占めていく。
大輝が千紗に寄り添うように体をくっつけてきた。シェイクを持たない方の手で髪を撫で、恒輝とカオリをにらんでいる。
「2人の痴話げんかは後でやって」
普段はテノールの声が低く響き、恒輝とカオリが大輝を見た。
「カオリさんが、なんで千紗が今でも兄貴をつけまわしてるって思ったかは知らないけど、いきなり頬を叩くのはダメだろ。昔も、ガム塗りつけるし。それって暴力だろ」
少し声を荒げる大輝を、カオリが目を揺らしながらも眉間にシワを寄せる。
たぶん、にらみつけているつもりなのだろう。
「大輝くんに言われたくないわよ。何人もと同時に付き合ってるくせに。彼女たちの気持ちも考えないで女を都合よく使って」
大輝は細く長く息を吐いた。
「俺の彼女に関してだけ言えば、都合よく使ってるのはお互い様だったと思うけどね。俺はちゃんと他にも彼女がいるって伝えて、それでいいっていう相手としか付き合ってなかったよ」
千紗の頭に手を乗せた状態で話すことではないような気はする。それでも、大輝は堂々としていた。
「もし黙って2股かけてたとして、相手の女に暴力ふるうような女はごめんだね。俺に言えよって思う。カオリさんだって、文句は兄貴にぶつけろよ」
カオリは唇をかんで、力のない目で大輝を見ている。
「だからってなんでこの女かばうのよ。恒輝と連絡とってないって言えないでしょ」
声が震えだしたカオリの肩を恒輝が抱く。
「連絡とってないよ。ずっと言ってただろ。ゼミ生や教授と、課題やゼミのスケジュールで頻繁にやりとりしてるって。バイトのシフト交代についてもよく連絡来るし。なんなら携帯電話見てもらっていいよ。あとでな」
カオリは恒輝の言葉に力なくうなずいた。恒輝が千紗に向き直る。
「千紗ちゃん、ごめん。カオリがそんな酷いことしてたなんて知らなかったよ。謝って済ませられることじゃないけど、ホントごめん」
千紗は揺れる程度に頭を振る。頭に乗せられたままの大輝の手からじんわりと温かさが胸に届いて、体を侵食していた黒いモヤが溶けていく気がした。
手に持ったストロベリーのシェイクを見つめる。こちらもかなり溶けているようだ。
「カオリさんって、もしかして恒輝さんから愛されてる自信がないんですか? だから不安になって、恒輝さんを疑って、見えない誰かに嫉妬して、人を攻撃してしまうんでしょうか」
思ったことを口にすると、重苦しかった気持ちも軽くなる。カオリの目がうるんできているのがわかった。
大輝が千紗の頭を軽くポンポンとたたく。
「まあ、そこは兄貴とカオリさんの問題だから。今日の千紗は巻き込まれただけだな」
頭に置いていた手を肩に回して、千紗の顔をのぞきこむようにして見てくる。
「次のアトラクションはどれにする?シェイク飲みながら選ぶぞ」
大輝は突っ立ったままの恒輝とカオリをよそに、千紗の肩を持ったまま向きを変えて歩き出す。少し歩いて、大輝は足を止めた。
「ごめん。ちょっと兄貴とカオリさんに用があるから、ここで待ってて」
振り返って走り、恒輝とカオリの元へと行った。
「お前、千紗ちゃんと会って何してんだよ。あのとき、俺には『浮気相手と別れて』としか言わなかったじゃないか。怒鳴りも殴りもしなかったくせに。千紗ちゃんに攻撃してたのかよ」
「この女が悪いんでしょ。子どものクセに恒輝に色目使って」
2人で言い合いが始まりそうだ。
千紗は、恒輝に浮気相手と言われたことが、今さらながら心に刺さる。たとえ、それがカオリの口真似だったとしても。
重苦しく黒いモヤが胸の中を占めていく。
大輝が千紗に寄り添うように体をくっつけてきた。シェイクを持たない方の手で髪を撫で、恒輝とカオリをにらんでいる。
「2人の痴話げんかは後でやって」
普段はテノールの声が低く響き、恒輝とカオリが大輝を見た。
「カオリさんが、なんで千紗が今でも兄貴をつけまわしてるって思ったかは知らないけど、いきなり頬を叩くのはダメだろ。昔も、ガム塗りつけるし。それって暴力だろ」
少し声を荒げる大輝を、カオリが目を揺らしながらも眉間にシワを寄せる。
たぶん、にらみつけているつもりなのだろう。
「大輝くんに言われたくないわよ。何人もと同時に付き合ってるくせに。彼女たちの気持ちも考えないで女を都合よく使って」
大輝は細く長く息を吐いた。
「俺の彼女に関してだけ言えば、都合よく使ってるのはお互い様だったと思うけどね。俺はちゃんと他にも彼女がいるって伝えて、それでいいっていう相手としか付き合ってなかったよ」
千紗の頭に手を乗せた状態で話すことではないような気はする。それでも、大輝は堂々としていた。
「もし黙って2股かけてたとして、相手の女に暴力ふるうような女はごめんだね。俺に言えよって思う。カオリさんだって、文句は兄貴にぶつけろよ」
カオリは唇をかんで、力のない目で大輝を見ている。
「だからってなんでこの女かばうのよ。恒輝と連絡とってないって言えないでしょ」
声が震えだしたカオリの肩を恒輝が抱く。
「連絡とってないよ。ずっと言ってただろ。ゼミ生や教授と、課題やゼミのスケジュールで頻繁にやりとりしてるって。バイトのシフト交代についてもよく連絡来るし。なんなら携帯電話見てもらっていいよ。あとでな」
カオリは恒輝の言葉に力なくうなずいた。恒輝が千紗に向き直る。
「千紗ちゃん、ごめん。カオリがそんな酷いことしてたなんて知らなかったよ。謝って済ませられることじゃないけど、ホントごめん」
千紗は揺れる程度に頭を振る。頭に乗せられたままの大輝の手からじんわりと温かさが胸に届いて、体を侵食していた黒いモヤが溶けていく気がした。
手に持ったストロベリーのシェイクを見つめる。こちらもかなり溶けているようだ。
「カオリさんって、もしかして恒輝さんから愛されてる自信がないんですか? だから不安になって、恒輝さんを疑って、見えない誰かに嫉妬して、人を攻撃してしまうんでしょうか」
思ったことを口にすると、重苦しかった気持ちも軽くなる。カオリの目がうるんできているのがわかった。
大輝が千紗の頭を軽くポンポンとたたく。
「まあ、そこは兄貴とカオリさんの問題だから。今日の千紗は巻き込まれただけだな」
頭に置いていた手を肩に回して、千紗の顔をのぞきこむようにして見てくる。
「次のアトラクションはどれにする?シェイク飲みながら選ぶぞ」
大輝は突っ立ったままの恒輝とカオリをよそに、千紗の肩を持ったまま向きを変えて歩き出す。少し歩いて、大輝は足を止めた。
「ごめん。ちょっと兄貴とカオリさんに用があるから、ここで待ってて」
振り返って走り、恒輝とカオリの元へと行った。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
利用されるだけの人生に、さよならを。
ふまさ
恋愛
公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。
アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。
アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。
──しかし。
運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる