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25.大輝の彼女と(1)

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 彼女はポニーテールの先の髪を片手でいじっている。

「私、黒川レイカ。桃山女子高の3年。あなたの名前は何ていうの」

「松村千紗。同じ3年。南くんと同じクラス」

 レイカは値踏みするような目つきで千紗を見てくる。

「知ってる。駅で大輝に聞いた」

 そこからはお互いに何も話さず、駅前まで歩いてきた。
話をするなら腰を据えた方がいいだろうと、ゆっくり座ることができそうな店を探す。お気に入りの喫茶店がそばにあったけれど、マスターと顔見知りのせいか、レイカとの話をほんの少しでも聞かれたくないと思った。

 喫茶店の3軒隣にあるファーストフード店に入ることにした。
 飲み物を買って、2階の窓際に設置されたカウンター席に並んで座る。千紗はアイスティーを一口飲んで、レイカのほうへ顔を向けた。

「で、話って何」

 ストローを口に入れていたレイカは、いったん窓の外に目を向けてから千紗に目を合わしてきた。

「単刀直入に言うね。松村さん、大輝のこと振ったの?」

 千紗の目と口が大きく開かれた。しばらくそのままの状態になってしまう。

「何、振ったって」

「だって、おかしいじゃない。大輝はあなたのこと本気で好きだったんでしょ。なのに、駅で会った日、つまり、あなたたちがデートした次の日、私、大輝からデートに誘われたんだよ。それから2週間くらいたつけど、今までにないくらい頻繁に連絡くるし」

 千紗は、自分が『大輝が本気で好きになった子』という設定だったことを思い出す。それにしてもレイカの反応は納得がいかない。

「そうだったとして、なんでそんな反応になるの。頻繁に連絡来るようになって良かったんじゃない。私のことは放っておけばいいじゃない」

 大輝のことを振ったわけではないから、そのことをはぐらかすような言葉を返す。
 彼の嘘を信じているレイカのまっすぐな目を見ていることはできず、千紗は窓の外へ視線を向ける。

 駅前のロータリーにはタクシーやバス、送迎だろうか自家用車が頻繁に出入りしていた。
 レイカがため息をついた。不自然なくらい大きなものだったせいで、千紗は彼女のほうを見た。肘をついた手に顎をのせている。

「だって、私を求めて連絡してきてくれてるんじゃないのがわかるから。なんていうか、逃げ場にされてる感じ」

 千紗の頭の中にクエスチョンマークがいくつも飛ぶ。

「何それ。なんでそう思うの」

 レイカは視線だけ斜め上に向ける。

「大輝が3股かけてるのは知ってる?」

 千紗は視線の合わない彼女の目を見ながら、うなずく。彼女は自嘲するように小さく笑った。

「大輝はその3人に手当たり次第に連絡してる。私が習い事で都合がつかなかったら、マリエに連絡して、マリエもバイトだったら、凛に電話してってしてる。今までそんなことなかった。どっちかっていうと、私たちのほうが大輝に連絡して都合つけてもらうって感じだったし。大輝から連絡来るときも暇つぶしの相手を探してる感じで、今みたいに必死に連絡してこなかった」

 千紗は無音の中にいるように感じた。店のにぎやかなBGMや客たちの会話が自分のいる世界から消えてしまったかのようだ。
 言葉を一語一語、慎重に選ぶように話す。

「マリエさんや凛さんっていうのも、彼女たち、か。でも、南くんの行動って私には関係なくないかな」

 千紗はストローを口に含み、アイスティーを半分ほど一気に飲んだ。
 街の喧騒が千紗の耳に戻ってきた。
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