37 / 80
25.大輝の彼女と(1)
しおりを挟む
彼女はポニーテールの先の髪を片手でいじっている。
「私、黒川レイカ。桃山女子高の3年。あなたの名前は何ていうの」
「松村千紗。同じ3年。南くんと同じクラス」
レイカは値踏みするような目つきで千紗を見てくる。
「知ってる。駅で大輝に聞いた」
そこからはお互いに何も話さず、駅前まで歩いてきた。
話をするなら腰を据えた方がいいだろうと、ゆっくり座ることができそうな店を探す。お気に入りの喫茶店がそばにあったけれど、マスターと顔見知りのせいか、レイカとの話をほんの少しでも聞かれたくないと思った。
喫茶店の3軒隣にあるファーストフード店に入ることにした。
飲み物を買って、2階の窓際に設置されたカウンター席に並んで座る。千紗はアイスティーを一口飲んで、レイカのほうへ顔を向けた。
「で、話って何」
ストローを口に入れていたレイカは、いったん窓の外に目を向けてから千紗に目を合わしてきた。
「単刀直入に言うね。松村さん、大輝のこと振ったの?」
千紗の目と口が大きく開かれた。しばらくそのままの状態になってしまう。
「何、振ったって」
「だって、おかしいじゃない。大輝はあなたのこと本気で好きだったんでしょ。なのに、駅で会った日、つまり、あなたたちがデートした次の日、私、大輝からデートに誘われたんだよ。それから2週間くらいたつけど、今までにないくらい頻繁に連絡くるし」
千紗は、自分が『大輝が本気で好きになった子』という設定だったことを思い出す。それにしてもレイカの反応は納得がいかない。
「そうだったとして、なんでそんな反応になるの。頻繁に連絡来るようになって良かったんじゃない。私のことは放っておけばいいじゃない」
大輝のことを振ったわけではないから、そのことをはぐらかすような言葉を返す。
彼の嘘を信じているレイカのまっすぐな目を見ていることはできず、千紗は窓の外へ視線を向ける。
駅前のロータリーにはタクシーやバス、送迎だろうか自家用車が頻繁に出入りしていた。
レイカがため息をついた。不自然なくらい大きなものだったせいで、千紗は彼女のほうを見た。肘をついた手に顎をのせている。
「だって、私を求めて連絡してきてくれてるんじゃないのがわかるから。なんていうか、逃げ場にされてる感じ」
千紗の頭の中にクエスチョンマークがいくつも飛ぶ。
「何それ。なんでそう思うの」
レイカは視線だけ斜め上に向ける。
「大輝が3股かけてるのは知ってる?」
千紗は視線の合わない彼女の目を見ながら、うなずく。彼女は自嘲するように小さく笑った。
「大輝はその3人に手当たり次第に連絡してる。私が習い事で都合がつかなかったら、マリエに連絡して、マリエもバイトだったら、凛に電話してってしてる。今までそんなことなかった。どっちかっていうと、私たちのほうが大輝に連絡して都合つけてもらうって感じだったし。大輝から連絡来るときも暇つぶしの相手を探してる感じで、今みたいに必死に連絡してこなかった」
千紗は無音の中にいるように感じた。店のにぎやかなBGMや客たちの会話が自分のいる世界から消えてしまったかのようだ。
言葉を一語一語、慎重に選ぶように話す。
「マリエさんや凛さんっていうのも、彼女たち、か。でも、南くんの行動って私には関係なくないかな」
千紗はストローを口に含み、アイスティーを半分ほど一気に飲んだ。
街の喧騒が千紗の耳に戻ってきた。
「私、黒川レイカ。桃山女子高の3年。あなたの名前は何ていうの」
「松村千紗。同じ3年。南くんと同じクラス」
レイカは値踏みするような目つきで千紗を見てくる。
「知ってる。駅で大輝に聞いた」
そこからはお互いに何も話さず、駅前まで歩いてきた。
話をするなら腰を据えた方がいいだろうと、ゆっくり座ることができそうな店を探す。お気に入りの喫茶店がそばにあったけれど、マスターと顔見知りのせいか、レイカとの話をほんの少しでも聞かれたくないと思った。
喫茶店の3軒隣にあるファーストフード店に入ることにした。
飲み物を買って、2階の窓際に設置されたカウンター席に並んで座る。千紗はアイスティーを一口飲んで、レイカのほうへ顔を向けた。
「で、話って何」
ストローを口に入れていたレイカは、いったん窓の外に目を向けてから千紗に目を合わしてきた。
「単刀直入に言うね。松村さん、大輝のこと振ったの?」
千紗の目と口が大きく開かれた。しばらくそのままの状態になってしまう。
「何、振ったって」
「だって、おかしいじゃない。大輝はあなたのこと本気で好きだったんでしょ。なのに、駅で会った日、つまり、あなたたちがデートした次の日、私、大輝からデートに誘われたんだよ。それから2週間くらいたつけど、今までにないくらい頻繁に連絡くるし」
千紗は、自分が『大輝が本気で好きになった子』という設定だったことを思い出す。それにしてもレイカの反応は納得がいかない。
「そうだったとして、なんでそんな反応になるの。頻繁に連絡来るようになって良かったんじゃない。私のことは放っておけばいいじゃない」
大輝のことを振ったわけではないから、そのことをはぐらかすような言葉を返す。
彼の嘘を信じているレイカのまっすぐな目を見ていることはできず、千紗は窓の外へ視線を向ける。
駅前のロータリーにはタクシーやバス、送迎だろうか自家用車が頻繁に出入りしていた。
レイカがため息をついた。不自然なくらい大きなものだったせいで、千紗は彼女のほうを見た。肘をついた手に顎をのせている。
「だって、私を求めて連絡してきてくれてるんじゃないのがわかるから。なんていうか、逃げ場にされてる感じ」
千紗の頭の中にクエスチョンマークがいくつも飛ぶ。
「何それ。なんでそう思うの」
レイカは視線だけ斜め上に向ける。
「大輝が3股かけてるのは知ってる?」
千紗は視線の合わない彼女の目を見ながら、うなずく。彼女は自嘲するように小さく笑った。
「大輝はその3人に手当たり次第に連絡してる。私が習い事で都合がつかなかったら、マリエに連絡して、マリエもバイトだったら、凛に電話してってしてる。今までそんなことなかった。どっちかっていうと、私たちのほうが大輝に連絡して都合つけてもらうって感じだったし。大輝から連絡来るときも暇つぶしの相手を探してる感じで、今みたいに必死に連絡してこなかった」
千紗は無音の中にいるように感じた。店のにぎやかなBGMや客たちの会話が自分のいる世界から消えてしまったかのようだ。
言葉を一語一語、慎重に選ぶように話す。
「マリエさんや凛さんっていうのも、彼女たち、か。でも、南くんの行動って私には関係なくないかな」
千紗はストローを口に含み、アイスティーを半分ほど一気に飲んだ。
街の喧騒が千紗の耳に戻ってきた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる