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その3
しおりを挟む「あぁ、なんかのぼせた……」
久々に湯に浸かっていたせいか、めまいがして、酸欠状態で急いで浴室のドアを開けた。
「ふぅ……」
バスタオルを巻いて、リビングに向かいソファーに寝転がる。
大きく深呼吸をくりかえす。
頬に張り付いた髪が気になり、指先でかきあげようと触れた時に気づく。
「あ、髪洗ってないや……」
なにやってるんだろ。
まぁ、いいか。
体があたたかくて目を閉じたら眠くなってきた。
ベッドはすぐそこだけど……。
「うわっ、そんな格好で寝ようとしてんの? 」
私は夏樹の声で一瞬にして目が覚めた。
バスタオルの胸元を押さえて起き上がる。
さすがに下着もつけていないので、少し焦ってしまう。
「ちょ、ちょっと」
咄嗟に言葉が出てこず慌ててるだけになってしまう。
「いや、飲み物取りにきたら、バスタオルで寝てるからさ。風邪ひくよ」
夏樹はマグカップを手に持ち冷蔵庫に向かうと取り出したペットボトルのお茶を注いでいる。
私は起き上がり、浴室の前に置いてある服を取りに急ぐ。
「また後でねー」
洋服を手にした瞬間、夏樹の声に続いて鍵が閉まる音がした。
夏樹が出て行ったと分かると私は安堵していた。
いくら夏樹が私に興味がないからと言ってもさすがに裸を見られるのは恥ずかしい。
新しい下着と服に取り替えようと、脱いだ下着と服は洗濯機に入れ、再びバスタオルで着替えに向かう。
夏樹はいないのに何故か小走りでクローゼット前に向かっている。
下着を身につけ、室内用のスウェットのロングワンピースに着替える。
「あぁ、朝から心臓に悪い……」
今日は他店の調査と趣味を兼ねて服を見に行こうと思っていたのに計算が狂った。
でも、夏樹と映画を観れるからいいのだけれど、それまでの時間が退屈だ。
またソファーに戻ると目の前にあるテレビをつけ、午後までどうするか考えていた。
特にすることもないままテレビを観ていた。
喉が渇いて、冷蔵庫に向かう。
残り少なくなった炭酸飲料を取り出しペットボトルのまま口をつける。
夏樹は炭酸飲料は飲まない。
私専用の飲み物だ。
空になったペットボトルを捨てようとゴミ箱をあけると紙がたくさん捨てられている。
「なにこれ? こんなに」
一枚取り出して見てみると物件情報だった。
間取り図、家賃、駅どれも不動産屋に貼ってある見慣れた紙だ。
もう一枚も取り出すとまた同じだ。
さらにもう一枚見ると同じだ。
引越しを考えてるなんて夏樹から聞いていない。
家賃も今の二部屋合わせたとしてももっと高いし、場所もここから1時間以上の場所だ。
ん?駅名が珍しいけれど聞いた覚えがある。
どこだっけ?
思い出した途端に背筋が凍った。
「……うそ……」
夏樹の彼氏が住んでいる場所だ。
この駅からすぐの所に住んでて良い場所だって言っていた。
夏樹は彼と暮らしたいの?
そのために家を探してるの?
ゴミ箱の中から全ての紙を取り出していた。
床に広げ全ての場所を確認する。
その駅名から徒歩数分圏内のものばかりだった。
紙を持つ指先が微かに震えていた。
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