金色竜は空に恋う

兎杜唯人

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竜の婚姻 3

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塔に戻ったノエルはまずシシリィとディディエのための部屋を用意した。
先代とノエルの戦いのせいで、修復する箇所が多くなってしまったが、あまり広い部屋だと落ち着かないという二人の要望のままに同室にしている。


「そもそも俺たち番だから部屋が分かれる意味もないよね」
「そうだな。それに」

ディディエの目が所在なさげにするノエルを見た。
この先ノエルは竜の一族の上に立つものとして様々なことを行わねばならない。
先代までで染み付いた意識の改革、都市内部の安定、それから、後継ぎ。
休まる暇はそうないだろうノエルのためにせめてシシリィとディディエといるときぐらいは甘えて安らげるようになってほしい。


「シシリィの家族にも会わなければならないな」
「いいよ、わざわざ。仲が悪いわけじゃないけど、番が見つかったって手紙書けば十分。俺もいい大人だよ?」


シシリィは笑う。
おいで、と誘えばノエルはシシリィの腕に飛び込んでくる。
ぎゅうと抱きしめればすり、と首筋に顔を埋めてくる。


「ノエル、俺多分もうすぐで発情期が再開するけど、子供欲しい?」
「子供…シシリィとの?」
「うん。その前にノエルは発情期って知ってる?」
「知らない…」

首を振るノエルは発情期など聞いたこともなかった。
シシリィとディディエは顔を見合わせる。そこまで聞いていないとは思いもしなかったのだ。
竜の一族には発情期はないのだろうかと首をかしげる。しかしもう番となった以上発情期と無縁ではいられまい。
シシリィは紙と筆を持ってくる。
αとΩと記入し、それぞれの特徴を記していった。

「αは獣族に多い性だね。能力が秀でていて力も強い。人族にも一部α性を持つ人がいるよ。そういった人はやっぱり運動神経とか頭も他よりずば抜けていい。体格もがっしりしているし、大柄なことが多いね。たいしてΩは本当に普通。特段能力が劣っているとか頭が悪いってわけではないけれど、それでもαに比べたら見劣りがする。それからどことなく線が細くて見た目がいい」
「それはわかる気がする。こういってはなんだが、シシリィはきれいだから」


ノエルの瞳にシシリィが映し出される。
耳を赤くしたシシリィに微笑みかけるノエルだがディディエに抱き上げられ、その膝に座らされると瞬きを繰り返して不満そうな顔を見上げる。


「ディディにとってはノエルがΩだからね。きれいなのは俺だけじゃないってことだよ」
「そういうことだ」
「じゃぁ続けるね。αとΩは肉体的にも異なっているけれど特に大きな違いがあるんだ。それがΩの発情期」


シシリィは、Ωと書かれたその下に大きく発情期と記入した。


「数ヶ月に一度、Ωに訪れる現象だよ。αを性的に引き寄せ興奮させるフェロモンを出す時期で、Ωはこの時期の間にのみ子供を孕むことができる。男のΩの子宮も肥大化するんだ」


紙に人の姿を描く。男と女を二人ずつ、それぞれ頭上にαとΩを描いてから、Ωの男女の下腹部に丸を書きこんだ。
Ωの下には発情、非発情とさらに追加する。
発情と書いた隣にフェロモンという文字もいれた。


「発情期のΩはαを誘う特殊なフェロモンを出す。αを誘惑し、子供を宿すための性交へと招くものなんだ。発情は薬じゃ治まらない。αの精液だけが発情を止められるんだ」


人の姿絵にどんどん文字が書き足される。
シシリィの話を聞きながらノエルはうなずいていた。

「発情期中のΩのフェロモンはα全員にきくものだけど、番ができたらその番にしか感じ取れなくなるよ」
「シシリィのフェロモンは俺とディディエに感じ取れるのか」
「ディディは俺の番じゃないよ。今の俺の番はノエルだもの。だから俺の発情期中のフェロモンはノエルにしか感じ取れないし、ノエルしかおさめられないし、ノエルだけが俺を孕ませられるの」


シシリィはペンを置くとノエルの手をとり、自分の下腹部へと当てた。
ノエルは手からシシリィの顔へと目を向けた。
シシリィはほんのりとほほを染めていた。

「ノエルがいいなら、俺のことを孕ませて」

シシリィの発情期がいつなのかノエルは知らない。
だが、どことなくシシリィから甘い香りがしているような気がした。
ごくり、と音を立ててつばを飲み込む。
いやだと言えるはずもなかった。シシリィに震えながら口づけ、よろしくお願いします、とかすれた声でつぶやくのが精いっぱいだった。
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