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竜の婚姻 2
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「竜の一族ってわりと柔軟な考え持ってるんだね」
シシリィは寝台に飛び込んでから口にした。
先代、ノエルの祖父が死んですぐ、ノエル、シシリィ、ディディエは竜の一族が住む塔から出ることができた。
しかし翌日には戻らなければならない。
屋敷についてすぐディディエの父と兄たちは三人の姿を見て言葉を失っていた。
ディディエは見た目からでは重傷であることはわからなかったが、シシリィは胸元を赤く染めているし、ノエルはいたるところに傷ができているのである。
さらにノエルは金色の鱗があった。
「そうか…やはり」
「俺とシシリィはノエルとともにいなければならないからあの塔にこれから住むことになる」
「ノエルが主になったのなら、もう二度と会えなくなるってことはないと思うんだ。俺も、母さんたちに会ってちゃんと話さないと」
ディディエとシシリィは各々の荷物をまとめるために戻ったに過ぎない。二人が準備をしている間ノエルはディディエの父と話をしていた。
「竜の一族の当主となったものはこの都市を守らねばならない。けれど、先代までのいろいろな慣習をなくしていこうと思っているんだ」
「慣習?」
「あぁ。例えば竜の一族は塔から出てはいけない。当主となったものが選んだ相手と交尾し、子孫を残す。子供ができても自分で抱くこともできず、愛しい相手との間に命を育むこともない。俺は当主になったからには、たとえ俺より先に生まれた一族であったとしても、心から大切に思える相手を見つけてほしい」
「それは自分がそうだから?」
ノエルは少し考えてから笑顔でうなずいた。
シシリィとディディエがいる。いつか二人との間にたくさんの命が生まれて育っていくのだろうとノエルは思った。
それを二人のそばでともに見守れるならそれに越したことはないのだ。
「この都市のことを考えるならばなおのこと。俺は、人でも獣でも幸せになってほしい。長く培われてきた考えを覆すのは容易ではないと思っている。だが残念なことに俺にはたくさんの時間があるから悲観していることもない」
ノエルは簡単に言葉にしたがそれがいかに難しいことかはわかっている。
何しろ竜の一族こそ最強であり、爪も牙もない人族はもってのほか、と考えているような、そんな相手が多い。
獣族だけではない。人族ですらそんな考えを持っているのだ。
ノエルの途方もない考えは難しいかもしれない。でも時間をかけていったらいつかは解消できるかもしれない。
「…あと、あなたには謝らなければならないと思って」
「謝る?何かしましたかな」
「…ディディエを、もう虎族には返せない」
ノエルの言葉にディディエの父は目を瞬き、それから大きな声で笑いだした。
真面目な顔をして何を言うのかと思えばそのようなことか。
いつかディディエはシシリィと番になりここを出ていくものだと思っていた。
親として、息子の独り立ちを喜ばぬ筈はない。
何よりその相手は自分自身信じられる。ノエルと一緒で、ディディエもシシリィも幸せになれるだろう。
「たまの里帰りはできるが、それ以上は無理だ…多分俺が手放せない。シシリィの家族にも謝らなければならないな」
「なに、幸せになればよいのですよ。あなたもディディエもシシリィも」
「幸せに…」
「竜の一族の新たなる当主よ、我ら虎族一族末代まで御身に忠誠を。そしてその長き生に言祝ぎを」
ディディエの父は立ち上がるとノエルのそばに膝をついて頭を垂れた。
ノエルは言葉を紡げないでいる。
だが、自分も椅子を降りれば彼の肩に手をおいた。
顔を上げた彼にかすかに笑って見せる。
「約束する。ディディエとシシリィと幸せになる。この都市に住む誰もが幸せだと口にできるように力を尽くすよ」
シシリィは寝台に飛び込んでから口にした。
先代、ノエルの祖父が死んですぐ、ノエル、シシリィ、ディディエは竜の一族が住む塔から出ることができた。
しかし翌日には戻らなければならない。
屋敷についてすぐディディエの父と兄たちは三人の姿を見て言葉を失っていた。
ディディエは見た目からでは重傷であることはわからなかったが、シシリィは胸元を赤く染めているし、ノエルはいたるところに傷ができているのである。
さらにノエルは金色の鱗があった。
「そうか…やはり」
「俺とシシリィはノエルとともにいなければならないからあの塔にこれから住むことになる」
「ノエルが主になったのなら、もう二度と会えなくなるってことはないと思うんだ。俺も、母さんたちに会ってちゃんと話さないと」
ディディエとシシリィは各々の荷物をまとめるために戻ったに過ぎない。二人が準備をしている間ノエルはディディエの父と話をしていた。
「竜の一族の当主となったものはこの都市を守らねばならない。けれど、先代までのいろいろな慣習をなくしていこうと思っているんだ」
「慣習?」
「あぁ。例えば竜の一族は塔から出てはいけない。当主となったものが選んだ相手と交尾し、子孫を残す。子供ができても自分で抱くこともできず、愛しい相手との間に命を育むこともない。俺は当主になったからには、たとえ俺より先に生まれた一族であったとしても、心から大切に思える相手を見つけてほしい」
「それは自分がそうだから?」
ノエルは少し考えてから笑顔でうなずいた。
シシリィとディディエがいる。いつか二人との間にたくさんの命が生まれて育っていくのだろうとノエルは思った。
それを二人のそばでともに見守れるならそれに越したことはないのだ。
「この都市のことを考えるならばなおのこと。俺は、人でも獣でも幸せになってほしい。長く培われてきた考えを覆すのは容易ではないと思っている。だが残念なことに俺にはたくさんの時間があるから悲観していることもない」
ノエルは簡単に言葉にしたがそれがいかに難しいことかはわかっている。
何しろ竜の一族こそ最強であり、爪も牙もない人族はもってのほか、と考えているような、そんな相手が多い。
獣族だけではない。人族ですらそんな考えを持っているのだ。
ノエルの途方もない考えは難しいかもしれない。でも時間をかけていったらいつかは解消できるかもしれない。
「…あと、あなたには謝らなければならないと思って」
「謝る?何かしましたかな」
「…ディディエを、もう虎族には返せない」
ノエルの言葉にディディエの父は目を瞬き、それから大きな声で笑いだした。
真面目な顔をして何を言うのかと思えばそのようなことか。
いつかディディエはシシリィと番になりここを出ていくものだと思っていた。
親として、息子の独り立ちを喜ばぬ筈はない。
何よりその相手は自分自身信じられる。ノエルと一緒で、ディディエもシシリィも幸せになれるだろう。
「たまの里帰りはできるが、それ以上は無理だ…多分俺が手放せない。シシリィの家族にも謝らなければならないな」
「なに、幸せになればよいのですよ。あなたもディディエもシシリィも」
「幸せに…」
「竜の一族の新たなる当主よ、我ら虎族一族末代まで御身に忠誠を。そしてその長き生に言祝ぎを」
ディディエの父は立ち上がるとノエルのそばに膝をついて頭を垂れた。
ノエルは言葉を紡げないでいる。
だが、自分も椅子を降りれば彼の肩に手をおいた。
顔を上げた彼にかすかに笑って見せる。
「約束する。ディディエとシシリィと幸せになる。この都市に住む誰もが幸せだと口にできるように力を尽くすよ」
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