金色竜は空に恋う

兎杜唯人

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君に捧げる笑顔の花束 2

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ノエルは目を輝かせていた。
その横顔は子供のようで、シシリィはくすくすと笑う。
カノーテがそのそばで、しっぽをぴん、と立たせて跳ね回っている。
色々と店を見て回るノエルを後ろから見守りながらディディエとシシリィは笑っていた。


「シシリィ、この乾燥したものは?」
「ドライフルーツだよ。それはマンゴーかな。腹持ちがいいけど食べ慣れないとお腹ゆるくするから食べるなら少し買おうか」

ノエルの指差すものを見てシシリィは答えた。
カノーテは干しぶどうを物欲しそうに見つめつつ、はっとすれば首を振ってノエルの足元に戻る。
ノエルは一度カノーテに視線を落としてからシシリィの指先にそっと触れた。



「シシリィ、その干しブドウもいいだろうか」
「干しブドウ?うん、いいよ」
「ありがとう」

カノーテの尾が勢いよく立った。
ディディエはカノーテを見てノエルの言葉の裏を悟る。



「カノーテ」

ノエルが優しく呼ぶ。
干しブドウの入った袋をカノーテに渡した。
受け取りながらもカノーテはシシリィを見た。シシリィも察したのかにこにことしてうなずきを返した。

「ノエルが欲しいって言ったから買っただけだよ」
「ありがとうございます、ノエル様、シシリィ様」

尾がブンブンと揺れる。ノエルはそれを見てシシリィに笑顔を向けた。
ノエルとシシリィは手をつないで歩いていく。ディディエも混ざりたそうな顔をしているものの街中は狭い。体の大きなディディエが二人と並んでしまうと他の迷惑にもなりかねない。
眉を寄せる顔をシシリィは見た。



「ノエル、俺はカノーテと並ぶからディディと一緒に歩いてあげてよ」
「わかった。ディディエ」


ノエルが呼べばディディエの耳がノエルのほうを向く。手を差し出してくるノエルを見下ろし、ディディエは自分の手を見つめた。
ノエルの手を傷つけてしまわないだろうかと不安になるものの自分よりもはるかに小さな手を握れば耳の先からしっぽの先まで幸せを感じた。
喜びに揺れるディディエの尾を見つめながらカノーテとシシリィは笑った。



「ねぇ、ディディ。ノエルの予備の服とか下着とかいろいろもろもろ買わないといけないんじゃない?あの部屋、俺の荷物しかないし…」
「ノエル、どうする」
「俺のための服?シシリィが選んでくれるなら俺は何でもいい」


ディディエはシシリィを無言で見つめた。
ノエルがうなずいたのを見ればシシリィはそれまでよりも更に輝く笑顔を見せた。
カノーテはさっとディディエの足元に隠れてしまう。

「ふふ、じゃぁお店に行かないとね。行き先変更、豹族の店舗が一番センスいいよ」
「ノエル、シシリィのきせかえ人形になる気か?」
「きせかえ人形?」
「あいつはいろんな服をお前に着せて着飾らせるつもりだぞ」
「ディディエはいやなのか?」


先んじて歩き出したシシリィを追いかけながらノエルは首を傾げた。
嫌なわけではない。愛しい相手が選んでくれるのならばなんだって着たい。
だがシシリィはあれもこれもと選ぶのだ。こちらがもう十分と言っても止まりはしない。
普段の自分の服のほうが適当なのに、人のものとなると楽しげに選ぶのだ。
笑顔を見ているとやめろと言うことができない。しかし疲れる。




「シシリィが選んでくれるなら間違いないな」
「シシリィは長いぞ…」
「それでも俺のために選んでくれるのなら俺は嬉しい」
「お前はどうしてそんなに優しいんだ?」


ディディエは服など着られれば何でもいいという考えを持っている。シシリィはやはり出かけるときなどはそれ相応の服を着たいという考えであるらしい。
それにシシリィは何を着てもかわいいし美人であるとディディエは思っている。
服は最終的に脱がしてしまうのだからなんだっていいのではないだろうか。
だが、とディディエは自分よりもはるかに小柄なノエルを見下ろした。ノエルが着飾った姿を見てみたいと思う自分もいた。
どんな服でも似合いそうではあるが、ノエルの肌の露出はさせたくない。その肌を見るのは自分とシシリィだけで十分だ。



「ノエル」


ディディエが低い声でノエルを呼ぶ。
ノエルは首を傾げつつディディエを見上げた。
シシリィの行きたい店にはまだ遠いらしい。

「どうした、ディディエ」
「今夜は俺が抱いていいんだよな?」
「抱く…そ、それは」
「さっきシシリィを抱いたのなら次は俺の番だよな」

ディディエの顔が近づく。
耳がほんのりと赤い。往来であるにもかかわらずその耳に舌を這わせた。
ノエルは息を止める。
握った手に力がこもった。



「抱かせろ、ノエル。たまらなくお前がほしい」


目元を赤らめ見上げる姿のなんと煽情的なことか。シシリィが待っていなければきっとどこかの部屋を取ってノエルをむさぼっていたに違いない。
それほどまでに体がノエルを求めてしまっていた。
まだ己の熱を先端ほどしか咥えこむことができないのが惜しい。
わずかに震える体を抱き寄せディディエはノエルの唇を奪った。


「ディディ…ここ人前。あと俺もいるんだけど」

シシリィの怒気を孕んだ声に我に変えれば遠巻きに獣族が見つめている。
シシリィは腰に手を当てディディエとノエルを見ていた。
ディディエの口づけに腰が砕けそうになっているノエルを見つめ、シシリィが眉を下げる。


「わ、悪い…」
「……いいよ。俺もノエルが欲しくなって求めちゃったわけだし、目はつぶってあげる。でも先に服を買ってからだよ」


シシリィの声をどこか遠くに聞きながらノエルは体の奥が熱くなっていくのを感じていた。
ノエルのための服を選ぶことを楽しみにしているシシリィに水を差すわけにはいかない。熱を追い払うかのように首を振り、ディディエが歩き出せばそれに引きずられるようにして足を動かした。
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