金色竜は空に恋う

兎杜唯人

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獣と人 2

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「シシリィ、探したぞ」

後ろからの声にシシリィは振り向いた。
肩口で切りそろえた黒い髪が揺れ、日の光に青灰色の瞳が煌めいた。
自分を呼んだ姿を見止めればシシリィの唇が笑みを浮かべる。
通りを行く他の人よりも頭二つ分ほど高い姿があった。



「ディディ、俺のこと探したって?今夜も俺をお呼び?」
「お前が空いてるならな」
「ディディを相手にするなら空いてなくても空けるよ」


自分を呼んだ相手にすぐさま駆け寄りシシリィは毛深い腕にほほを寄せる。
シシリィよりもはるかに太い腕には白い毛がびっしりと生えていた。
ところどころに黒い毛もある。顔を見上げればこれまた毛深い顔である。
耳は丸く、鼻先も少し尖る。
こちらを見下ろす瞳は金色。
シシリィの腰に縞模様のしっぽを巻き付ける。
紛れもなく、獣人。

「ねぇ、ディディ、俺人族だよ?」
「知ってる」

獣人に対してシシリィは毛など生えていない。
手の先に長い爪もなく、牙もない。
偽りようのない純粋な人族だった。

「ディディ」
「なんだ」

腰に巻き付いた尻尾の先がシシリィの腹を撫でる。くすぐったさに笑いを漏らしてから金色の瞳を見上げた。
彼は変わらない。初めて体を重ねたときからずっと優しくシシリィを見つめてくる。

「好き」
「俺もだ。愛してる」

笑みとともに告げられた言葉にシシリィは嬉しくなった。
獣族のような牙や爪のない人族は古代こそ優位な立場にあったが、今では獣族よりも下に位置する。

「俺は、Ωだよ。それでも?」
「変わらない。Ωがなんの問題になる。俺はαだ」

長い爪がシシリィの頬を滑る。傷つけぬように優しく、見下ろす瞳に熱情を込めて、シシリィは胸が一杯になった。


「ディディエ、俺の大好きな虎さん、ずっとそばにいてくれる?」
「あぁ…」


牙をむき出した口が近づく。
目を閉じ生暖かな息を感じた。唇を割って肉厚の舌が入り込む。
まるで肉棒を咥えているかと錯覚するほどに太い。
人との違いをこんなところで自覚するとは思ってもいなかった時期がある。
しかしネコ科特有のざらついた舌が口内を犯すたびに悪い痺れが頭の天辺からつま先まで全身を駆け巡る。
往来であることを忘れて求めてしまいそうになる。



「甘い匂いがしてきたな。今夜が楽しみだ。行くぞ」
「うん…」


鋭い爪先がシシリィの首を撫でる。僅かな痛みが走るが気にはしない。
再び腕に体を寄せて歩きだそうとした。
たが片割れの足が止まれば顔をあげた。頭の上の耳がピクピクと動いている。
自分にはわからない何かを聞き取っているのだろうか。
振り向く。わずかに牙をむき出したかと思えばそれまでのんびりと歩いていたほかの人族が悲鳴を上げた。
人が二つに割れ黒いローブの塊がぶつかってくる。

「っ!なに?」
「…近衛隊に追われているのか」
「近衛隊って竜族の?」

シシリィの言葉にうなずきローブ姿の塊を自分の後ろに追いやる。
シシリィはその塊を覗き込んだ。
赤い瞳がある。

「きれい、ルビーだね。それに、…鱗?」

顔をあげたことで差し込んだ光が輝きを灯す。
自分と同じ人族の顔がある。だが、その顔の半分には点々と鱗があった。
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