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第二部 新たな『勇者』が現れまして

第34話 前世に警告を受けまして

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 またしても、白い光の中にボンヤリした黒い影。

『やぁ、『私』だよ』

 またおまえかい。消えたんじゃないのかよ。

『おや? もしやすでに『私』に会ったことがあるのかな、『君』は?』

 あ? 何それ、どういうことだよ?
 おまえは俺に『記憶』と『力』を受け継がせたじゃねぇか。何言ってんだ。

『ああ、なるほど、なるほど。OKだ。そちらの『私』か』

 こっちがちっともOKじゃないが?
 そちらの『私』って何だよ。じゃあ今、俺と話してる『私』はどなた様だよ。

『無論、それもまた『私』だとも。ただしそちらの『私』とこの『私』は同一ではなく、存在としての連続性は保たれていない。別の『私』と思ってほしい』

 あぁ~ん?
 つまり前の夢の方のおまえと、今話してるおまえは別個の同一人物だと?

『そういうことだ。さすがは理解が早い。『私』の『次』だけはある』
「自画自賛やめ~や。で、じゃあおまえは?」

 と、俺は目の前の『私』に向かって問いを投げる。
 前に夢に出てきた魔王が俺に『力』を受け渡すためのシステムだったと仮定する。

 じゃあ、今、夢の中に出てきているこいつは何だ。って話になる。
 前の『私』と同種で別個なら、こいつはこいつで何か役割を持ってることになる。

『『私』はね、本来であれば表に浮き出てくることのない『私』なんだよ。というか、そもそも『私』という形で出てくるものでもないんだが、どうやらまだこちらの『力』は『君』に馴染み切っていないようでね、このような登場と相なったワケだ』
「ああ、そういうことね……」

 どうやら、こいつも『魔王の力』の一部らしい。
 だが俺がまだその部分を受け入れきれてないので、魔王様の形で出てきたのか。
 つまり、こいつは『俺』になり切れてない『私』の残滓ってところか。

「それはわかった。それで、本来は出てこないってのは?」
『うむ。この『私』はいうなれば『未来予知の能力』なのだよ。驚いたかね?』

 え~? 未来予知ィ~~~~?

「胡散臭さしかないが?」
『アッハッハッハ、『次』の自分自身に言われるのって案外痛いねェ!』

 つか、魔導学的な見地においては、未来予知って実在する可能性ほぼ皆無だよな?

『確かにその通り。未来とは厳密には存在しないモノだからね。過去と現在のデータから成り立つ未来予測は魔導の中にも存在するが、未来予知はあり得ないね』
「おまえ、自分のことをあり得ないって言いきっちゃってるの、自覚ある?」

 自分で『未来予知の能力』とか言っておいて、舌の根も乾かぬうちに全否定。
 すごいな、これが『前』の『俺』なのが、またすごい。

『だが、この『私』は少々特殊なのだよ。虚空と時空に関わる能力を持っているからね。わかるだろう? 『君』もつい最近、それを使ったはずだからね』
「あー、『魔界マキナ』ね……」

 魔導の最上位技術にして、百人の『勇者』を屠った『至天の魔王』の最秘奥。
 俺と『私』とでは若干の差異は出たが、その根源は共通している。

『『私』の『魔界』は対象を時間軸の外側へと放逐し、『君』の『魔界』は対象を強制的に未来に転生させる。多少なりとも時空に関われるのだよ、我々は』

 そう言われると、まぁ、納得はできそうではあるが……。

「それはわかった。それで、何だっての……?」
『うむ、率直に言おう。この『私』は『『勇者』の誕生に対する予知能力』だ』
「あ~~~~ん?」

 つまり、何だ? 近いうちに『勇者』が生まれるってことか?

『『君』が思っている通りだよ。近く、『君』がいる街付近で『勇者』が生まれるのだろう。それを察知したことで『私』がこうして出てきたワケだ』
「へー」

 俺は反応を返す。

『……随分と、淡泊なのだね?』
「いや、別に『勇者』が生まれるなら、生まれればいいんじゃないですかね?」

 俺が『勇者』になるワケでもなし、ラーナがなるってこともないだろうし。
 周りにいる人間でその可能性がありそうなのって、ウォードさんくらいかな~?

「でも、ウォードさんも『英雄』になる気はないって言ってたしなー。あの人も実のところ堅実で安定志向っぽい部分、結構あるし。……『勇者』にゃなるまい」

 つまり、俺の周りで『勇者』になりそうなヤツはいないってコトだ。
 ミミコとか絶対なるはずないし。『勇者』の対義語は魔王じゃなくてミミコだよ。

「『勇者』なんてしょっちゅうどっかで生まれてんじゃん。それが一人増えるからなんだってのよ。俺に関わらなきゃどうでもいいわ。こっちから関わる気ないし」
『『君』は実に『次』として思い描いた理想通りの『私』だなぁ』

 そこで感心されても別に嬉しかないやい。
 こちとら、ただの中堅冒険者で生涯を終えたい、一般的な小市民でござい。

『だが『私』が出てきたということは、生まれるのはただの『勇者』ではないのだよ。『君』にはそこを気をつけてもらいたくてね。警告、または警報だね、これは』
「何じゃそりゃ……?」

 まるで意味がわからず、俺は首をかしげるしかない。
 すると『私』は詳細な説明をしてくれる。

『よいかね。『勇者』とは神より使命と加護を授かった『英雄』のことをいう。彼らにそれを授ける神は百八柱のいずれかで、場合によっては複数関わることもある』
「はぁ、それは何となく『記憶』の中にもあるけど……」

『『私』は、その中でも『一番タチが悪い神が関わった勇者』が誕生するとき、発動される能力なのだよ。ただの『勇者』ではない。それは『最悪の勇者』だ』
「最悪の……」

 オイオイオイオイ、ちょっと物騒な話になってきてんな。オイ。

『生前の『私』は、この『最悪の勇者』の存在を危惧し、この『私』を自ら編み出した。今、こうして『君』と話しているということは、近く生まれる『勇者』は――』
「その『最悪の勇者』ってコトなワケね……」

 う~~~~ん、そういう話を聞かされると、ちょっと無視しづらくなってくるな。

「だが待て、その『最悪の勇者』とやらが俺の近くで生まれるとして、別に俺がそれに関わらなけりゃ問題ないんじゃないのか。いや、絶対関わらんけど」
『そうとも言う。この『私』とて、単に『最悪の勇者』が現れる未来に対して発動したものでしかないからね。『君』にどうこう、ということでもないのだよね』

 だよね? そうだよね?
 いちいち関わってられるかっつーの、そんなめんどくさいヤツ。
 だが、一応は注意しておくくらいはするか~?

「ちなみに、その『最悪の勇者』って誰?」
『わからん』

「ああ、そう。じゃあ、いつ現れるの?」
『わからん』

「……ああ、そう。じゃあ、どこに現れるの?」
『わからん』
「…………。…………」

 ブン殴ってやろうか、この魔王。

『この『私』はあくまで『そういう未来が来るよ』ということを知らせるための能力でしかないからね。こうして未来を知らせてる時点で大したものだと思うがね』
「ぐぬぅ……」

 腹は立つが、言ってることに筋は通っている。
 魔導学的に考えれば、限定的でも未来予知できてるのは奇跡そのものなんだよな。
 でもさぁ、警告とか警報とかいうなら、もうちょっと情報寄越せよッ!

『ああ、そうだ。何の神の加護を授かった『勇者』かは教えられるぞ。元々、そのための能力でもあるからね、この『私』は。これだけでも知ってほしい』
「そうだな。せめてそのくらいは教えてくれ」

 そんな程度の情報でも、あるとないとでは大違いだろうからな。

『うむ、その『最悪の勇者』に加護を授ける神は――、あ、申し訳ない。時間が来たようだ。『私』は消えるが『君』のことをいつでも見ているよ。さらばだ!』
「おまえええええええええェェェェェェェェェェェ――――ッ!?」

 そ、そこまで……、そこまで言いかけて消えるのか……!?
 って、本気で気配消えやがった!
 ウソだろ、オイ。マジで一切情報なしかよォォォォォォォォォ――――ッ!

 そして俺は目覚めた。
 次に『私』が出てきたら、絶対顔面パンチしてやる。という決意と共に。
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