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1.檻の中
8.聞くに堪えない話
しおりを挟む「灯くんに何から話したら良いかしら?」
色は音に問いかける。
「まずは俺たちの自己紹介だろう。俺たちは名乗りもせずに2人が盛り上がっている最中に乗り込んだんだからな」
音の言葉に、色は驚いた顔をして手を口に当てる。
「そうね! 本当に失礼したわね」
あまり申し訳なくなさそうな声で色は言う。
「私たちはムー……昔、上天神響一郎と呼ばれていた男の双子の妹と弟なの。私は色羽で、彼は音……音二郎よ」
兄妹同士、3人で体の関係を結んでるのか……
灯はドン引きしてしまったが、それを2人に悟られないようにする。
「なんで貴方たちは『ムー』と呼んでいるんですか?」
灯は純粋に疑問に思ったことを聞く。
「なぜって……REDはもう私たちと同じ人間ではないから、呼び名も変えなきゃおかしいでしょう? 『ポチ』とか『チャッピー』とか犬っぽい名前をつける人が多いけど、私は『ムー』って付けたわ。何の役にも立たない『無』同然の存在だから」
色羽の口から出た残酷過ぎる言葉に灯はショックを受ける。
「そんな……そもそも何で響ちゃんはREDになっちゃったんですか?」
「そうねぇ……」
色羽は顎に指を当てて、考えながら話す。
「貴方はΩだから知らないかもしれないけど、αだからといって立ち位置は安泰ではないのよね。α同士でも階級差はあって、日々熾烈な争いが行われているの。その中でも、上流階級ともなると比較的安定した権力を手にすることができる……でも、それじゃ腐っちゃうよね?」
色羽は無邪気な笑顔を見せて、灯を見る。
「揺らぐことのない最上層だからこそ、私たちは自分を律し、互いに監視し合って、その立場に相応しい振る舞いをしなければならないの。だから、自分達の中で『αらしからぬ振る舞い』をした者を処刑する方法もちゃんとあるのよ……自浄作用のようなものね」
「αからΩになることはありえないことだとされている……表向きはね。でも、もう30年前にはαからΩへの転換薬は開発され、一部には出回っていたいたんだ」
医大生である龍司が口を挟む。
「選ばれたαの家系にのみ、転換薬は極秘に販売されている。管理もされていて、『処刑』以外には使えないようになっているんだ」
「あぁ、医薬品卸会社の重役が自宅に直々に持ってきてくれたよ。しっかりした作りの木箱に納められた転換薬と、顔を焼いてRED特有の見た目にするための劇物、それと登録番号の刻印された首輪……それを見て、俺たちは選ばれた人種なんだと思ったね」
音二郎は無邪気に話す。
「執事達がムーの体を押さえて、ベッドに縛りつけた。私の父が戒めの言葉を私たちに掛けた後、ムーに首輪を嵌め、『今日からお前は死ぬまでこの家のREDだ』と言って、転換薬を注射した。それからすぐに劇物を顔に満遍なくかけた……薬による体の激烈な変化と、顔の火傷による猛烈な苦痛にムーはのたうちまわったのよね……本当に、あれは楽しい見せ物だったわ」
色羽はうっとりとなって言う。
対して、響一郎は当時のことが蘇るのか、汗を大量に流しながら苦しげに呻く。
「うう……」
その様子を見て色羽は楽しそうにし、歌うように話す。
「あの日から貴方は私たち上天神家の『共有財産』となり、一切の人権を剥奪された。REDが家にいることは、お付き合いのある家に積極的に広めることが推奨されているのよ」
「いわゆるREDパーティーへの招待だな。俺も呼ばれたことがある……REDを犯しまくるんだ。呼ばれたαたちが力尽きるまで、REDは皆の肉便器さ」
龍司が当たり前のことのように言う。
「肉便器……」
灯は泣きそうになりながら呟く。
「『REDは親の、兄弟姉妹の、叔父叔母の、祖父母の、親戚の、友達の、恩師の……一定以上の階級の全てのαの肉便器となる』が決まり文句よ。そうすることで、私たちは絶対にREDにはなりたくない、と思うことができるし、REDの穴兄弟となったα達との連帯感も生まれるの」
「実の兄をレイプするのって良いもんだぜ。最近は性奴隷っぷりも板についてきたしな」
音二郎が露悪的な言葉を吐くのを青い顔で聞いていた響一郎は、突然白目を向いて倒れてしまった。
「響ちゃん!!」
檻から手を伸ばして灯は叫ぶ。
「気絶したな。その方が良いだろ。人格崩壊してもおかしくない言葉が耳に入ってくるんだからな」
音二郎は反省する様子もなく言う。
「パーティーがないときは、ムーは私たち兄妹の所有物だったわ。私は『性欲モンスター』って呼ばれる程の絶倫だし、音も私ほどじゃないけど性欲旺盛だから、オナホ代わりに愛用していたの」
「1人をフェラさせながらもう1人が後ろから突っ込む3Pもできるしな」
色羽と音二郎は笑い合う。
「ちょっと待ってください! なんで……なんで貴方たちは響ちゃんにそんな酷いことができるんですか? 一体響ちゃんが何をしたって言うんですか?」
双子のやり取りに耐えきれなくなった灯の声が笑い声を裂く。
しらけたように双子は顔を見合わせる。
「あいつは……ムーは、この上天神家が築いた揺るぎない信頼を壊そうとしたんだよ」
「そうそう。貴方と付き合っていた頃、ムーは上天神グループ内企業の専務をしていたわよね?」
2人はつまらなさそうに話す。
「ああ……」
灯の脳裏に番だった頃の響一郎の姿が蘇る。
スーツを着て精力的に仕事をする響一郎が灯は大好きだった。
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