1 / 1
1
しおりを挟むちょっと、外の世界を見てみたかっただけなんだ。
船に乗って、僕は色々な国に出かけた。
最低数ヶ月、ときには数年戻らないこともあった。
同じ商人の息子で、慎重派のマルティンは、いつも俺を引き止めた。
ずっと一緒にいてくれ、俺はお前がいないと生きていけない、と……
でも、僕は言うことを聞かなかった。
新規貿易ルート開拓と言っては、航海に出掛けた。
何度も、何度も、マルティンを裏切った。
そして、僕は海賊に捕まった……
「リカルドを殺さないでください。私は寝る間もなく働いて財産を築きましたから、いくらでも差し上げます。どうか……」
マルティンは僕を追いかけ来てくれた。それだけでなく、海賊船の船長の前に跪き、額を床につけて命乞いまでしてくれた。
船長はその様子を見て、感心したように頷く。
「貴様がこの男を思う気持ちは本物だな」
僕も目の前の醜い大男……船長と同じことを思う。
なぜ、こんなにも自分のことを愛してくれる男を何度も裏切ったのだろう……?
もう、僕はマルティンから離れない。
絶対に裏切らない……一生、側にいる。
「ところで、貴方はリカルドをどうするつもりだったのですか?」
「……わしと部下たちの慰み者にするつもりだったのさ。船に同乗させて、日夜犯してやるつもりだった」
「その言葉が聞きたかったのです」
「何?」
不審そうな船長の顔とは対照的に、マルティンの顔は喜びに輝いている。
「リカルドはきっと貴方たちの期待を裏切らないでしょう。是非そうしてください。ただし……一年に一度は、私の町にお寄りください。三日間だけ、私にお預けください。報酬は望むだけ差し上げます」
「三日間だけ? 三日しか抱けないのに、貴様は満足なのか? あとの三百六十ニ日は、わしらのものになるんだぞ?」
汚い髭の船長は、下卑た笑みを浮かべ、挑発するように言う。
嫌だ……こんな男に犯されるのは……
でも、マルティンの顔は実に晴れやかで、何の迷いもない。
「確実ではない三百六十五日よりも、確実に手に入る三日を私は選びます。私は仕事が忙しく、逃げ出さないようにずっとリカルドを見張っておくことが出来なかった……でも、貴方にお預けすれば、それが叶うのです」
「成る程。貴様は慎重な上に、海賊以上に現実的だな。よし、思い通りにしてやろう」
海賊の長、船長は、僕に付けられた手枷と足枷を解き、代わりに装飾付きの立派な首輪を付けさせた。
首輪に繋がる鎖を引かれ、僕は奥の部屋に連れて行かれる。船長が毛むくじゃらの手で扉を閉めて、二人きりになる。
三百六十二日のうちの最初の一夜を過ごすために……
最後に「愛してる」と言ってくれたマルティンの優しい……けれど僕のことを全く信用していない顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
10
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
婚約破棄されたオメガは隣国の王子に求婚される。
香田
BL
「オメガバース」「婚約破棄」をお題にしたBLの短編小説。
この後、ハンスのことを憎み切れないトーリにリチャードは嫉妬するし、ハンスは手放してしまったことを酷く後悔をする。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる