異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり

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第六章 星の救済

第87話 北の海

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 さて地図を見るが、北には海しかない。
「海の中に、土が管理するダンジョン?」
 ちょっと想像も付かない。海底だといやだな。

 火と風。
 北に土。

 位置関係を考えると、エクシチウムの樹海辺りが中心。
 じゃあと言う事で、適当に当たりを付ける。

 この世界、どうせ地図はいい加減だし、縮尺も無茶苦茶。
 地図で見ると、水の管理ダンジョンは、原初の呪いになる。
 あの時、もっと調べれば良かったのか?

「なんだろうなぁ、火の精霊。茜がぼやいていた謎の言葉も気になるし」
 地図を見ながら、ぶつぶつと考察を進める。

「あっあの。もう許してください。我が儘を言ったのは謝ります」
 シルヴィが、俺の腰の上にまたがったままで俺に抱きついた状態で懇願する。
 いま俺は、シルヴィの肩越しに地図を眺めている。

 寸止め、もう一〇回くらいだろうか? シルヴィは大洪水。

「俺に謝ってどうするの? 意地悪言ったのは、テレザに対してだろ」
「でもテレザは、気を失って」
「じゃあ、我慢だな」
「そんなぁ」

 シルヴィが焼き餅を焼いて、テレザに意地悪を言うとは思わなかった。
 二人は仲がいいと、なんとなく思っていたんだけどねえ。女の子は難しい。

 結局諦めたのか、もそもそと、シルヴィは布団に潜り、きっと自分で始めた。
 前に、自分ですると、深さと満足度が違う。全然足りないと言っていたから、どうなるかな?
 少しの意地悪。テレザも一日落ち込んだのだから、シルヴィも一日困って貰おう。

 飛行機か、船。船はいやだなあ。
 そもそも距離も位置も分からない所。
 彷徨って海賊王も良いけれど、趣味じゃないし。きっと、お宝は…… この世界ありそうだけど。

 困った末、ベネフィクスを頼る。
 部屋のドアをノックし、いきなり開ける。

 ペンを持ったまま固まるベネフィクス。
「ちっつまらん。女でも連れ込んで、盛っているかと思ったのに」
 ベネフィクスの顔は一見怖いが、美形の類い。非常にモテる。

「道照。あっいや。魔王様。あなたが一気に、構造改革と福祉とやらを始めたおかげで大忙しなんだ。帰る暇もない」
 そう言ってぼやかれる。

「そりゃまあ、失礼。だがな、道ばたで子どもが餓死しかかっているのに、何もせず。役人に言っても、まだ死んでないから、片付けられないという考えはおかしい。俺は保護するなり何なりしろと言ったつもりなんだ」
 そう、切っ掛けはこれ。

「そりゃ、ヒト族の感覚だ。子どもだろうが魔人族は、力無き者は助けてもどうせ生きられないというのが基本だ。強ければ何とかして生き残る。たとえ人の物を奪ってでもな」
 やれやれという感じで、ベネフィクスは軽く頭を振る。

「無事育てば、その内、強くなるかもしれないだろう? 大体困ったら新たなスキルを女神から貰うとか、自身の隠された能力が発現して、チート無双をするんだ」
「何の話だ? そんな事あるのか?」
 ベネフィクスの目が、驚いたのか見開かれる。
 女神と言ったが、思いだして無理だと納得する。

「ああいや。あるかもしれないだろう。慈悲というものは重要なんだ。人への施しは回り回って、自身の利となるという考え方もある」

「そんなものかね? それで何だ?」
「ああ実は、困っていてな」
 そう言うと、すごく嬉しそうな顔になるベネフィクス。
 地図を広げて、ポイントを見せる。

「ここが、獣人大陸で、此処が魔人族の大陸。この海の所にダンジョンがあるはずなんだが、調べられないか?」
「うん? ああ、それなら、魔王軍探査室にいる有翼の奴らを使えば良い」
 そうして、紹介された有翼の魔人族だが、有名なハーピーより人に近い。女性版天使。

 だけどね、さすが魔人族。
 飛ぶのにジャマだと言って、裸なんだよ。
 彼女達どういう構造か、体重もすごく軽いらしい。

「お初にお目に掛かります。魔王、神乃様」
 目の前で、膝をつかれ礼を示される。

「あっああ。よろしくね。今度から地上にいるときには服を着てね」
「お言葉ですが、脱いだ服をどうするのかと、戻ってから結局しばらくこの状態でうろつく事になります。もし、欲情されたのなら、ご自由にお使いください」
 ビシッと言われた。

 服は専用の更衣室を作り、そこから離発着をすれば良いが、手間なのかなあ?
 見た目は、完全に天使。ただ表情は乏しい。
 体の内部が省エネなのだろうか? 筋肉って重いからね。

 地図を見せながら、航空部隊隊長アビアに説明する。
 彼女達は、色も白いな。髪は羽毛ぽいし、背中も羽毛が生えている。
 正面は人間。
 つい目が行く。仕方ないだろう。

「と言う事で、この辺りに陸地があればよし、なくても仕方が無い。その場合は、水中探査隊に回すから」
 そう言った瞬間。気配が変わり、彼女の無表情な顔が、ずいっと寄ってくる。

「必ず何かを見つけます。魚などに任せる必要はありません。おわかりですか? 魔王様」
「分かった。よろしく頼むよ」
 何故か、うんうんと頷く彼女。

「そして、陸の者とは違い、この胸。子育て時以外は、拡張された肺となっていますので、風船のようだと聞いています。触ってみますか?」
「いやいい。ありがとう」
 視線を、悟られたか。だけど肺って、鳥胸って普通かなりの強さがないと羽ばたけないだろう? どうなっているんだ?

 そんな事があって、二週間後。彼女達は見事、見つけた。
 荒れ果てた、乾燥した土地で、中央に深い谷があるようだ。
 谷の左右は切り立ち、幾重にも小高い山があるそうだ。
「まるで、何者かが剣で切り裂いたようで」と、説明を受ける。

 だけど彼女の絵の問題なのか?
「切り裂いた、ああまあそうだね」
 俺は言葉を濁したが、テレザが口を挟む。

「この絵。この形エッチですね」
「まあ、アワビみたいだね」
「アワビって何ですか?」
 テレザは喰ったはずだが、料理後しか見ていないのか?

「前に海で食べただろう。ほらこんな平べったい貝でさ、うねうねとした。焼くと美味しい奴」
 そう説明すると、テレザとシルヴィが理解したようだ。

「あのえっちな奴」
「お前達」
「魔王様は、海の物がお好きですか?」
 アビアが睨んでくる。

「あーまあ。物によりだな」
「お好きなんですね」
 ずいっとくる。

「いや空も好きだよ。鳥も美味しいし、飛ぶ姿は美しいし」
「お食べになりますか?」
 また、ずいっと顔が近付く。

「いやまあ、今はいらないかな? それより君達は、転移ができるのか?」
「いいえ、我らはどこでもひとっ飛びですので。カゴに乗せ、魔王様を運びます」
「そうか、分かった。お願いしよう」
 自分で行くのを、快諾したのが失敗だった。
 炎呪でも行かせば良かった。
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