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第六章 星の救済

第84話 一歩目

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 脇道へ一歩入ると、見えない何かを通り抜ける。
 途端に気温が爆上がり。

 またいつもの様に、温度を下げようかと思ったが、周囲だけにとどめ、火の精霊。茜を呼び出す。

「お呼びでしょうか?」
「久しぶり。聞きたいことがある」
「はい」
 心持ち、嬉しそうになる。

「この星、邪神の奴が何かをして、内部が止まっていないか?」
「はい、その為かは不明です。ただ、私たちの力が落ちています。この星には管理者がいて、宇宙のエネルギーを星の力へ変換しているはずですが、その力が落ちているようです。この前主様と契約して力を得たとき、近くに居た瑠璃達とその話になりました。私たちは本来、契約がなくとも、自身である程度行動ができます。ですが、それがかないませんでした」

 ああ、影響が出ているのか。

「その場所は分かるのか? どこからいける?」
「はい。マスターは、あれ? どこに居るのでしょう?」
 そう言って、動きが止まる。
 フリーズした?

「何か、禁忌に触れたのか」
 茜の動きがおかしい。この世界の精霊は、スピリチュアルな存在じゃないのか?
「あゅ。歩め園へ、星の深淵に、楽園への扉がある。そこで理の一端を知るが良い。力を与えよう」
 そう言って、茜がふと消え、また現れる。

「あれ? 解除いたします」
 そう言って、茜が軽くダンジョンの奥へ向かい手を振る。

 なんだ? そう思ったら、シールド越しにいきなり熱気? 放射熱がやってくる。

「やばい、活性が上がった」
 周りの色が、赤から白くなってきた。

「にげろ」
 いやな予感がして、あわてて、皆で逃げ出す。

 戻ると、風穴の入り口で、まだじいさんは叫んでいた。
「入るんじゃない、戻って…… おおお、なんじゃ?」
 戻ってきたので、驚き固まったようだ。
「じいさん。逃げろ」
 俺達が走ってくるので、あわてて踵を返して、体が付いてこず、足をひねりひっくり返る。

 倒れ込んだじいさん。
「助けてくれ、動けん」
「ちぃ。これを喰え」
 定番の赤を喰わせる。
 すると、じいさん。いきなりぴょんと立ち上がり、走り去っていく。

 昔動画で見た、年寄りメイクをした、スポーツ選手のようだ。
「動きの速い年寄りは、見た目に違和感」
 思わず口に出したが、皆が頷く。


 そして、何故か火山は、見事に休止状態へ移行したのか、噴煙が止まる。
「「「あれぇ」」」

 警戒しながら見上げていたが、どんどん噴煙は止まり、消えてしまう。
「内部で活性が上がったから、漏れなくなったのか?」
 ベネフィクスが最もらしい事を言う。
「まあ良いよ」
 被害がなければ、それで良い。皆で頷く。

「火山が止まって、温泉大丈夫かな」
 テレザが温泉の心配をする。彼女は温泉がお気に入り。いや温泉でいちゃつくのがお気に入りなのかな。
「内部で活性が上がったみたいだから、良いんじゃないか?」
 適当な事を、適当に答える。 

 だが鬼の湯で、いきなり温泉の温度が上がり、さらに吹き出した。
 詰まり加減だった湯ノ花も、何かのように押し出され。ごうごうと、一メートルほど吹き上がるほど湯量も増大。
 フィーデ=ヨーシュ達が熱くて風呂から飛び出し。当然、大騒ぎが起こっていた。

 そして。
「あれ? 主はどこへ?」
 火の精霊の茜は、居なくなった主に気がつき、大事な事を伝え損ねる。
「各精霊の司るダンジョンを、できる事なら活性化してもらわないといけないのに。多分それだけで随分力は戻る。はず。どうしましょ?」
 ぶつぶつとぼやきながら、少しすねた感じで、白く光る溶岩へ消えていった。

「どうする?」
「一度魔王城へ帰るか?」
「そうするか」
 転移をして、城へ帰った。

 城へ戻り、気になってはいたので、執務室を覗き込むと、宰相が壊れ掛かっていた。

 俺たちを見ると、にまっと笑い、顔に似合わない地の底から響くような声が聞こえる。
「戻ってこられましたね」
 不敵に笑いながら、その眼光は鋭く。次の瞬間、シュバッと彼の右手が挙がる。
 どうやったのか知らないが、兵達が転移してくる。
 宰相の右手はダミー。左手には、魔道具が握られていた。
 俺達は、暴徒鎮圧用魔力封じのネットを頭からかけられる。

 そして、四天王達は、書類とともに連行されていった。
「魔王様はこれです」
 目の前に書類が積み上がる。

 それを見て、ついため息。
「なあ」
 そう言いながら振り返ると、閉まり掛かるドアの隙間から、消えていくテレザのしっぽが見えた。そして、すぐ近くにはシルヴィの優しくもかわいい顔。
「お手伝いしますから、済ませましょ。宰相さん顔色悪いし」
「いや宰相は、魔人族だから、元からあの顔色。まあいい、優しいなシルヴィ」
 頭をなでる。
 その時、一瞬。ほんの一瞬だけ、目付きが鋭くなった気がしたが、気のせいだろう。

 実は、気のせいではなかった。

 シルヴィは考える。おそらく、優しい道照は、一度受け入れた者達を、捨てはしない。
 であれば、その中での己が立ち位置というものが重要となる。

 炎呪は、力はたしかにあるが、ポンコツ。
 テレザは、昔からいい加減で、ほっておけば、自爆する。

 だが、しかーし。
 伏兵。ラウラ。
 
 こいつは良くない。
 魔人族であり、力は炎呪よりも劣るが、それは魔人族での話。
 私たち、獣人よりも力も魔力もずっと上。

 炎呪のポンコツを上手く使い、自身をよく見せる能力がある。
 己の破瓜の痛みさえ、道照への愛として受け入れ、それを道照へ直接語ったと。
 恐ろしい。

 複数の妻が居る中で、己の立場をあげるは、必定。
 何よりも優先すべきもの。

 確固たる位置を獲得すれば、他の者達に位置を知らしめるのはゆっくりできる。
 白狼族の、長である父。そして、お母様から、ずっと教えてこられた、人心掌握と房中術。今それを、発揮するとき。ふふっ。ふふふふ……

「どうした? シルヴィ。まず、自由に動くために仕事を片付け、魔人族の行政手続きを簡素化する改革をしよう。手伝ってくれ。お茶くらい入れるから」
 怪しい雰囲気から、一瞬で表情を戻す。

「いえ。その位、主人たる道照のためなら、妻として当然です。旦那様が私をねぎらうなら、お言葉と、夜その…… 存分に愛してくれれば十分です」
 上目遣いで、テレながら、そんな言葉を言ってくれるシルヴィ。

 すごくかわいいが、俺に飛びつき頭を擦り付けてきているので、いま表情は見えない。
 だが、何かが、確かに変わった。

 妻と、言葉に出し始めて、ああ、そうか。
 向こうでの結婚の時も、結婚後、恋人から妻になったので、生活のためにと張り切り、子どもが出来てからはお母さんだったものなあ。女の子は、その時々で変わるんだった。そうだ。
 俺の宿命というか、因果とはいえ、悲しませたな。
 子どもたちも、元気で居てくれれば良いが。

 そう思いながら、シルヴィの頭をなでるが、これは、俺にとっては望郷の念だが、シルヴィに対して失礼かと思い。頭を切り替える。
 言い訳がてら、軽いキスをして、仕事に入る。

 そして、ドアから、そっと覗いている、テレザを睨む。
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