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第五章 混沌の大陸

第80話 悪心は浄化される

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 周りを囲んでいた角ありやウチョウは、その光を浴びると、なぜだか涙がとめども無く流れ始める。

「浄化の光だ。これからは心清らかに、精進をすることだ」
 記憶とともに力を解放して、瞳の色が金色に変わった道照が、静かに語る。
 時空の狭間へ行った時は、俺ではなく上役が封印でもしていたようだが、無事解放できた。

 さて、廊下にあふれる連中。
 自身が努力せず、他人の力を疎みながら、他者を蹴落とすことに注力してきた者。
 自身の行動を顧みず、失敗をすべて他人のせいとして済ませ、全く成長をしてこなかった者。
 自身の欲しいものを得るため、計略を張り巡らし、失敗すると暴力によりすべてを収めてきた者達。
 そして、幼い頃の境遇にすべてを悲観し、得た力を用いて、自分を虐げた者達と同じところへ下ってしまったもの。

 金色の光に包まれて、己が行いを反省する。
 それは表面的な反省ではなく、魂からの救済。
 濁りや傷が修復され、まともな者へと強制的に変化させられる。
 それが、まるで天の意思であるかのように。

 場に居る者達の表情が、一様にストンと、何か憑きものが落ちたかのようにすっきりとしている。

「救済終了だな」
 力を抑えても、金色の目が黒く戻ることはなく、後に少し騒動が起こった。

「えと。あの道照?」
「うん? そうだよ」
 何故か、シルヴィとテレザそれに、炎呪やラウラまでもが、少し遠巻きに様子をうかがっている。

 四人は、全く同じ理由で近づけずに居た。
 『道照が神々しい。金色の目は素敵だし。いい。でも、全体的な雰囲気が変わり、人じゃない気がする。道照は道照だけど、慈愛に満ちた落ち着きのある雰囲気。柔らかな日差しの中で、たたずむ姿。微笑まれるだけで、ふっと気が遠くなる』

 とまあ、どこかのバンドの追っかけ状態。
 シルヴィが言ったことに、三人とも同意のようだ。
「尊みが過ぎる」とか言って、騒いでいる。
 これって、向こうの言葉。それも一部の人たちの使う言葉では?
 『崇高で近寄りがたい』とか言う意味だろうが、どうしてこんな言葉? を、しゃべっているんだ?

 まあ、おかげで、あれだけへばりついてきていた炎呪が、すがりついてこないのがありがたい。
 炎呪は無自覚だろうが、シルヴィとテレザに比べ、グラマラスな体型で、非常に女を感じる。
 性格や行動に目をつぶれば、破壊力は強い。
 ラウラは若い分、まだこれから。
 シルヴィとテレザは、暗殺向きの俊敏な体。
 いや十分魅力的だよ。炎呪がおかしいだけで。

 少し背も高いしね。

 おれは、別に格好を付けて、窓の外を見ていたわけではなく、この星の現状を思い出していた。
 内部。コアの部分まで邪神が干渉して、封印を破る力を得ようとしていた。
 実際、あの時の未来予測では、十年ちょっとで封印を破り、この地を滅ぼし、何の因果だか地球へと奴が現れ、依り代となる少女へと取り憑く。そして地球は……。

 その予測もあり、俺へと話がきて、どこかで事情を知ったマガツヒが世界の理を破り、勝手に地球側へ干渉して因果をいじった。
 それを見て、これ幸いと、それに乗じて上役が再干渉して因果をいじり直し、人間としての俺は死んだ。表面上、それをマガツヒの責任として。

 天界には、他に遊んでいる奴らも居ただろうに、俺には、理不尽な話だ。特に家族には迷惑以外の何物でもない。
 取り決めにより、おおっぴらな余所への干渉はまずいとはいえ…… すべては、面倒なこちら側の管理者、マガツヒを騙すためだが。

 さて、この星。内部にも魔力の流れがあり、大気中よりもその濃度は濃い。

 たまたま、記憶の無い俺が、木の精霊である桜に干渉し、力を与えて、邪神を封じる仕組みに力を与えた。
 だが、それまでに影響を受けた物は、戻っていない。

 どうすればいいのか、全くもって案が浮かばない。
 火の精霊でも見つけて、協力を願えば良いのだろうが、星が衰えたせいなのか姿を見ていない。あっいや、契約したじゃないか。すっかり忘れていた。火の近くへ行き茜に助けて貰えば良いか。

 だけど、流れが衰えているコア付近を強制的に活性化して、影響が出ないはずはない。
 星の核は半径約三五四〇キロで火星ほどの大きさがある。鉄とニッケルが主成分で、星の質量で約三分の一を占める。

 地球なら、コアの回転は速くなったり遅くなったりしているようだが、それは普通のことで、あまり問題にはなっていない。地磁気も、地球外核における液体鉄の対流で生まれ、それも移動したり、周期的に地磁気極の反転もある様だし、それが普通なのだろう。だが地球と違い、この星では、魔力を生み出す何かがある。単純に回転数や摩擦だけの問題でも無いのだろう。
 その仕組みに、邪神が出した苦し紛れの手が届いた。

 上の人たちと監督者が、衰えていると言っている以上、何かがあるはず。先ずはそれを見つけなければいけない。
 こちら側の神々に、助力を願えれば楽なのに。

「うん? 考えに没頭していたら、どうしてこんな事に?」
 考えをしていて、ふと気がつくと、周りで、四人が床に座り込んでぐったりしていた。

「どうしたんだ?」
「とっ、尊みが過ぎて、息ができませんでした」
 シルヴィがそう言うと、テレザも賛同する。

「どうしてそんな事に、そっちの二人は?」
「私も同じで、つい息をするのを忘れて」
 ラウラも同じらしい。

「あれ? 炎呪はどうした?」
「えっ? あの、この前からおかしくて、道照を見ると、その、下半身が。その大事な所が疼くようになっちゃって、つい」
 言いたいことが分かったので、とりあえず話半分で切り捨てる。

 この前から炎呪は、自身の体が女性であることを、俺への気持ちに気がついてから、思いだしたらしく、子作りをねだるようになってきた。子どもの頃から、ひたすら強さを求め、捨てていた部分。

 そのため、自分に対して、男達が寄ってきていても、鬱陶しいとか気持ち悪いと思っていた。
 俺に負け、生物的本能が刺激されたのか、どんどんと湧いてくる欲求が強くなっているようだ。抑圧されていた本能の意趣返しのように。

 最近は、かわいそうになってきたのか、シルヴィ達も、少しならお相手しても良いですと言い始めた。
 ただし、『満足させるだけなので、全力で殺ってください』と言っている。
 物騒なことだ。そのかわり私たちは、ゆっくり愛してくださいとの事だ。

 俺が全開だと、一瞬で意識が飛ぶらしい。
 ついお遊びで創ったこの体、やり過ぎたようだ。
 そう言えば、マガツヒは元気かな? あいつはこの星の現状を知らなかったようだが。管理担当者の頭越しで決まった人事? あいつも災難だが、管理する星の現状にに気がついていないのなら、当然か。今度降格するのじゃないか?
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