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第五章 混沌の大陸

第76話 魔王様はむせび泣く

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「さて、死合おうか」
 魔王は、やっとの事でその言葉を告げる。

 向かい合った瞬間から、プレッシャーがすごい。
 空気が、密度を増しものすごく重い。
 呼吸すらままならない。

 道照がラノベなどの知識で魔王を怖がっているのに対し、魔王は、それを実感していた。
 どうあがいても届かない。そんな思いが、自分を支配する。

 体はこわばり、動く気配がしない。

 動いた瞬間に、自分は死ぬのではないか? そんな思いまで湧いてくる。
 その為。
「うっ。動けねえ」
 
 さて、戦闘ねえ。
 今の俺なら、そこそこいけるだろうが、相手は魔王様。
 倒しても、第二形態とか第三形態とかなるのかね。
 ふむ。こんなものか、とか言われて。

 まあいい。様子見でご挨拶からの、超振動パンチを腹と顎に入れてみるか。同じ生物なら多少は効くだろう。殺しはしたくないし。あの時の炎呪が、脳裏に浮かぶ。俺の攻撃で死にかかっていた。力なくうなだれた姿。

 余裕があるのかないのか、自分でも分からんが、行ってみよう。
 少し前傾姿勢で、力を抜き、体をしならせるように。拳へ、体の各部で発生した波を乗せていく。

 鞭を打ちつけるように、しなやかに。

「なっ早っ。ふざくっ。ぐふっ。どむっ」
 何故か魔王様、棒立ちでもろに喰らう。
 腹に攻撃を受けて、頭が下がり、その目の前へ下がってきた顎へ拳を喰らわせたら、バク転をした。

「へっ。なんで」
 攻撃をした、自分もびっくり。

 風による、ザワザワという葉ずれしか聞こえない。
「あー、魔王様。生きていますかぁ」
 向こうの、木の陰から、誰かの声が聞こえる。

 腹ばいに倒れている魔王を、ツンツンと突っつくが反応がない。
「よっ」
 肩に手を掛けて、引っくり返すと、見てはいけない状態だった。
 顔半分、ぐしゃっとね。
 何とか、赤い実を口に放り込む。

 下半身からも、何か流れ出てきたから、浄化をする。
 こそこそと、作業をしていたが、倒した後すぐに駆けつけてきた、炎呪を始め、うちのメンバーは見てしまったようだ。と言うか、炎呪は謎の魔道具を構えている。
 それってカメラか? 魔王さんの威厳が。

「あっ。がぁい」
 そう言って、飛び起きた魔王さん。目が回っているらしく、またひっくり返る。
 まだ顔も再生中で、うにょうにょしているし。

 ずっと炎呪は撮っている。

「負けたのか」
 魔王さんは、まだ呆然としながら聞いてくる。
「ああっ。体はおかしくないか?」
「ああ。大丈夫なようだ」
 座り込んだまま、体の具合を確かめている。

 体をねじり、首をひねる。
「ちょっとすまない。神乃殿だったな、俺の背中を見てくれ」
 服を捲って見る。
「何もないぞ。背中のたてがみは元からか?」
「えっ。たてがみ?」
「背中、脊柱の表面。正中線に沿って生えているぞ」
 そう言うと、泣き始める。

 落ち着いてから聞くと、度重なり炎呪に焼かれて、本来あるはずのたてがみが生えなくなっていたらしい。種族として背中を守るのと、魔力を扱うのに重要だったらしい。それに、体をねじった時に引きつる感じがなく違和感を感じて、俺に背中を見せたとの事。よく見ると腕などの火傷も治っていて、それに気がついたカイライやサンゼンも欲しがったので、赤い実を与える。

「「うおおっ、治ったぁ」」
 かなりのハイテンションで、喜んでくれた。

 そんな和気藹々としていた時、ノーブル=ナーガは気に入らなかったようで、フィーデ=ヨーシュへ殴りかかる。
 とっさに、近くに居た炎呪が投げを決め、地面に触れる前に頭を蹴ろうとしたので、炎呪の軸足を払う。
 ノーブル=ナーガは、気を失っただけのようだが、炎呪も片足の時に軸足をはらったので、頭を打ち気を失ったようだ。
 ただまあ、ひっくり返ったので、開脚後転の失敗した形で止まり巻きスカートのような物がめくれ、お尻が空を向きっぱなし。
 女の子としては、あれなので、そっと直す。
 

 気がついたノーブル=ナーガは、さすがに反省したようで、フィーデ=ヨーシュの元に下るようだ。
 そこはまあ良い。

 問題は、魔王と炎呪の婚約者サンゼンが一緒になり、俺を魔王にして、炎呪を嫁にしろと言い出して、大騒ぎとなる。
 何故か、炎呪も乗り気で、それなら私もとラウラまで言いだし大騒ぎ。

 とりあえず、保留としたが、サンゼンの言い出した炎呪との婚約解消は、二つ返事で受け入れられ一瞬喜んだサンゼンだが、その後、何故か泣き出して魔王に慰められていた。ところが魔王も負けた所を炎呪が再生し、その場にいた全員が魔王の醜態を見ることになった。

 魔王も泣き出し、『引退する。後は神乃殿に任せた』と言い残し姿を消した。

「炎呪」
「はい」
 元気に、ニコニコしながら返事をしてくる。

「すべての元凶が、お前だと分かった。反省しろ」
 俺はそう言って、魔力封じの首輪を炎呪につけ、ロープでくくる。
 首から、反省中と書いた札を下げ、旅籠の庭へ座らせた。
 そこは、俺達の部屋以外からは、見る事は出来ない。

 だが、部屋の内側で展開される。仲良く楽しそうな皆を見て泣くことになる。

 逃げようとあがいたので、『私は子どもの頃から他人の心をおもんばかることなく、好き勝手に振る舞い、皆を傷つけました。反省しています』そんな文章をひたすら読ませた。

 ラウラは、このくらいで、お姉様が反省するかなあ? とぼやいていた。
「ねえ、道照様。目の前で、私といちゃつくのが一番効くと思いますよ」
 そしてそんな、提案をしてくる。
「保留」
 こっちに来てからの常識が。シルヴィとテレザを相手をした時だって、もうどうとでもなれと開き直った結果なのに。姉妹で二人? うう胃が痛い。赤の実が効くかなあ……。
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