上 下
42 / 100
第四章 経済共和制の国

第42話 その日は、穏やかな日だった。

しおりを挟む
「こっちだ」
「三人とも亜人なんて、珍しいな」
「ばかやろう。この前、王国で亜人の解放があって、奴隷達が解放された。それでもって、ドラゴンの谷に町ができたって、今十人ばかり見に行っているだろが」
「そう言えば、商人が騒いでいて。デフェクトム達を連れて行ったな」
「ああ。戻ってきたら、大仕事が待っている。情報は重要だといつも言っているだろう」
「すまねえ」

 盗賊達が嬉しそうに、内情を教えてくれる。
 近くの町は、チトセの事だろう。
 丁度良かった。これも縁だ。壊滅して貰おう。
 手を繋いでいる二人からも、怒りの様子が伝わってくる。

 街道から、獣道を徒歩三十分。まあ良い立地。
 お買い得だな。
 意外と、まともな集落になっている。
 ただ建築技術のレベルは低い。
 隙間だらけの、掘っ立て小屋。
 入り口も、ドアでは無く毛皮が掛けられて、中での営みが見える。

「おい。客人だ、身体検査をして身ぐるみはげ。販売用の牢へ入れておけ」
「へい。って亜人じゃ無いですか。つまんねぇ」
「それでも、売れるだろう。こういうものは、堅実にコツコツとやるのが良いんだよ」
「へーい。おい、来い」

「そこで、着ているものを脱げ、その後は、牢でゆっくり休め。おまえ達、奴隷だから休みもまともになかっただろう。ゆっくりすれば良い。せっかく逃げ出したのに、また離ればなれになるんだ。今のうちに思い出を作れば良いぜ」
 その言葉の裏は、大体亜人だけでこんな所に居るのは、結婚したくて逃げ出した奴らが多いからか?

「ここは、注文の多いレストランだったのか?」
「はぁ? なんだ?」
「いや良い。ここには何人ぐらい居るんだ?」
「はっ? 知らねえな。増えたり減ったりするからな、頭達もきっと把握してないだろうよ。良いから早く脱げ。面倒をかけるな」

 周りで、幾人かうろうろしているが、亜人だし興味も無い様だ。
「どうされます?」
 二人は、さっき言った、とりあえず言うことに従おうとの言葉が効いて、脱ごうかどうしようか悩んでいる様だ。
「いや、アジトへの案内は終わったし、チトセに迷惑をかける気が満々みたいだし、潰そう。問題は、共和国が、亜人の言うことを聞くかどうかを、現状で判断できないのが辛いな。下手に生かして、連れて行った瞬間。こっちが逮捕なんていう事になったら、仕方が無いが、国単位で潰す羽目になる。それは面倒だ」
「そうですね。共和国がどうかは存じませんが、王国なら、絶対こっちが逮捕されます」
「だよね」
 多少良心が痛むが、今まで通行人を、この人数が食えるくらいは襲ってきたのだろう。まあ、今回は、運がなかったという事だ。

「ほら、何をとろとろしてやがる。亜人が裸で居ても誰も気にしやしねえよ。逆に、見せるなくらいは、言われるかもなぁ」
 その言い草が、若き日の学校での思い出を、記憶の中から呼び覚ました。

 黙って、目の前でギャアギャア言っている男に、超振動パンチを打ち込む。
 軽くだったが、それだけで腹を抱えて、前のめりに倒れる。

 あのときも、停学を食らいそうになった。
 だが内申で、きっと何か書かれたに違いない。
 そうで無ければ、公務員試験に受かっていたはず。
 あの時は悪さをしていた奴を、ちょっと数人、病院送りにしただけなのに。
 大体奴らがずっとつまらないことをするから、一年鍛えたんだよな。

 事後先生達は、うちの親の前で困っていたなら言ってくれればとか、早く相談をとか言っていたが、幾度も相談したが聞いてくれなくて、あげく武道をしているのに、怪我を負わせたお前が悪い。と言うことで叱られたし。クラスの他の奴が、奴らの方が手を出して、ちょっと何かをしたら飛んでいったと証言してくれて停学にはならなかったが、そいつらの親の一人が何かぎゃあぎゃあ言ったせいで、反省文を書かされたんだよな。むろん、反省文には奴の悪事を書き出して、複製した証拠もつけたが、どうなったんだろうな? 奴は転校したから闇の中だ。

 そんなつまらないことを思い出しながら、目に付く獣人を殴り倒していく。
 シルヴィとテレザ二人も、俺が男を殴り倒したことで、開始の合図が鳴ったらしい。
 嬉々として、切り刻んでいく。

 目標の大きな体ではなく、脚を切りつけ、頭が下がれば首を切る。
 殴ってくれば、躱して隙のできた脇腹へ一刺し。
 痛がって、頭が下がれば首を切る。
 二人とも獣人より、どうしても小柄な亜人の体型をよく理解している。

 やがて、ボスっぽい二メートル近くもある、熊の獣人が出てきてシルヴィが飛ばされたようだ。
 さすがに体格差が大きすぎるか。

「てめえら、よくも手下を。また集めるのは大変なんだぞ」
 そんな文句を言われる。

「立て札でも出して、募集すれば良いじゃ無いか。募集、肉体労働。通行人を拉致する簡単なお仕事です。そんな感じで」
 そう言うと、一瞬考えたようだが、怒りだした。

「馬鹿野郎。そんな事をすれば、捕まるじゃねえか」
 悪い事だとは、理解しているようだ。

「捕まれば良いじゃない。悪い事なんだし」
 俺がそう言うと、うがぁーという感じで、両手を挙げたので、遠慮なくボディブローをたたき込む。
 何か、べきべきと壊れる感覚が拳に感じる。

 こいつら、毛皮があるから殴っても拳を痛めなくて良いな。
 何かの演出のように、ぐはっと言って、崩れ落ちる熊さん。

 焼け付くような痛みが、内臓から広がってくる。
 盗賊のボスとして、君臨した熊さんは自分の状態を理解をする。
 脚に力が入らず倒れ込む。
 息ができない。そして、焼け付くような痛みと、目や鼻からの出血。
 やがて腕にも力が入らなくなり、ごろんと転がる。
 その見上げた空は、雲一つなく。木々の間から優しい光が降ってくる。

「あれー、まだ生きてる。とどめ」
 そんな声と共に、自身を見下ろす亜人は、嬉しそうにナイフを振り下ろした。

 そして俺は、獣人はいねえか゛ぁと、さらに集落を徘徊する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳
ファンタジー
【毎日20時更新!】 異世界に転生した主人公。 テンプレのような転生に驚く。 そこで出会った神様にある加護をもらい、自由気ままに生きていくお話。 ※不定期更新&見切り発車な点御容赦ください。 ※感想・誤字訂正などお気軽にお願い致します。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり
ファンタジー
この星は、フロンティ。 そこは新神女神が、色々な世界の特徴を混ぜて創った世界。 禁忌を破り、世界に開けた穴が騒動の元になり、一人の少年が奇跡を起こす。 ある少年の、サクセスストーリーです。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。 彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。 だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない! 強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します! ※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

処理中です...