上 下
31 / 100
第三章 王家との対立

第31話 亜人は亜人。獣人にはなれない。

しおりを挟む
「あんっ。て、なんだよ」
「ぶったね。父上にもぶたれ……」
 あわてて口を押さえる。

「その台詞は駄目だ。言ってはいけない」
 睨み付けると、うんうんと頷く。

「とにかく。不本意だが、橋は造った。これで良いな」
 そう言い残して、その場を後にしようとすると、また飛びつかれて、ズボンを下ろされそうになる。
 こいつ、狙っているのじゃないか? そんなことが脳裏に浮かぶ。さっき『あん』とか言ったし、まさか。
 ズボンをおさえながら、後ずさる。

 そして一気に向きを変えて、走り出そうとすると、追いかけてくる。

 今の俺は、多分かなり強化されている。と思う。
 だが、しかし、トラは早かった。

 内股で、両拳は胸の前。そしてくねくねと、俗に言うお姉走り。
 だが早い。

 くっ。これでは、捕まってしまう。
 体を巡る魔力を、身体強化へと使い、一気に加速。
 だが、背後から来る気配も変わる。
 まるで、トラだ。おまえはトラになるんだと言わんばかりで、目は爛々と輝き。体も一回り大きくなる。
 そして、一気に追い抜いていった。凄い勢いで。

「あれ?」
 その場で、スピードを落とし、ぼーっと見ていると、雄叫びを上げながら、彼は道の彼方へと、ものすごいスピードで走って行った。
「あーうん。まあいいか」
 俺はとぼとぼと、歩き始める。

 遠くのほうには、まだ遠ざかっていく土煙がみえる。

 水の玉を出して、二個三個と飲み、周りの景色を眺める。
「ほう。これは麦か。あっちは、葡萄かな?」
 添え木がされた、蔓性の低木が日本のような棚仕立てではなく、垣根仕立てで栽培されている。田舎の農村。

 そこで、驚愕する。

 私、見てしまったんです。
 ええ。獣人ではない。いや獣人だが、平たい顔。だが耳はピンと立っている。まだ遠く、尻尾の有無は確認できないが、人間に近い。
 そちらへ向かい、走って行くが、その歩みは徐々に遅くなっていく。

 足にはめられた枷。
 服はぼろ布。そこから見える肌には鞭で打たれたような傷。
 そして、おっさんだった。

「おいあんた。ひどい有様だが、大丈夫か?」
 力の無い目でこちらを向くが、右目は陥没し見えていないようだ。

「珍しいな。亜人か。俺は、この有様だ。近寄ると仲間だとみられて、捕まってしまう」
 自分の状態にもかかわらず、こちらを心配してくれる。良い奴だな。

「何をしたんだ?」
「仲の良い女の子ができて、一緒に逃げただけだ。俺らは飼い主が決めた相手と適当に繁殖以外は認められない。それでまあ、彼女と逃げたら捕まってな」
「その彼女は?」
「連れて行かれてしまった」
 そう言って、力なく泣き始める。

 男のくせになんだ、連れ戻せ。そんなことを言いたくなるが、それは、無責任で傲慢だろう。彼の体に残る怪我を見れば、自分のできる範囲で抵抗し、今の状態なのだろう。
「まあ、これでも食え」
 黄色と赤の樹の実を渡す。
「先に黄色。次に赤だ」

 渡した樹の実を見て、じっと眺める。
「毒じゃない。腹の足しにはならんが、体は楽になる」
 ふっと、彼の辛そうな表情が抜け、聞いてくる。
「苦しむのか?」
 そんな訳の分からないことを聞いてきた。

「少しは、苦しいかも」
 前に与えた、ハウンド侯爵の次女、ブランシュが治るときの姿を思い出す。

「ありがとう」
 そう言って、二つともぽいっと口に放り込む。

 するとだ、少し『ぐっ』とか言って、俯いたが、短いと思っていた尻尾が生えてきた。切られていたらしい。
 囓られたようになっていた耳も、陥没していた目も復活。
 相変わらず、オオカムズミの実は凄いな。

「これは」
「楽になったか?」
「ああ。思っていたのとは違うが、楽になった」
 俺は首をひねる。

 彼は俺を見ながら、言ってくる。
「俺の姿を見て、口では毒じゃないとは言ったが、きっと毒をくれたのだと思った。まさかこんな奇跡のような。……とてもじゃないが、対価を払えない。俺は奴隷だしな」
「奴隷? いつからだ?」
 そう聞くと彼は、怪訝そうな顔をする。

「当然。ヒュウマコンチネンティブ大陸との戦争。その時に俺達の種族は半人半獣とか呼ばれ、投獄され、亜人と呼ばれる奴隷になった。どうして知らないんだ? あんたどこから来た?」
「エクシチウムの樹海と言う所だ」
 そう言った瞬間、彼の尻尾が膨らむ。

「あんた、もしかして。いや、そんな気の抜けた邪神はいないな。ちなみに、半人半獣は、人が獣人で、獣はヒューマンと呼ばれるあんたみたいな種族の事だ。戦争当初に、俺達の仲間は多く連れ攫われた。その時に獣人達は、俺らが、手引きをしたのだと思ったようだな。じいさん達に聞けば、それこそ、捕獲されたという状況だったようだが」
「あーうん。説明ありがとう。じゃあ、元気になったし、彼女を探しに行こうか?」
 そう言うと、彼の顔が曇る。

「居るところは分かっている。多分お屋敷に捕まっているはずだ」
「お屋敷?」
「ここいらは、コンストリュイール男爵の荘園だ」
「聞いた名だな。まあこれでも食え」
 この世界に来て最高の武器。魚の燻製を出す。

 猫まっしぐら。飛びついてきた。なんとなく、今度液状のおやつを作ってみたくなった。
 元の世界で、猫は仕方なく魚を食っていると聞いたが、凄い勢いだったな。
 さて、あの気持ちが悪い、ヌフ・コンストリュイールと話をする必要ができたが、奴はどこまで行ったのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...