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第二章 人? との交流

第28話 我は天才、ヤロミール・コビール

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 ヤロミール・コビール男爵は、とぼとぼと歩きながら考えていた。
 偉そうで、独善的。あの嫌なアバルス子爵が失脚をして、ミクス・マーキス・ハウンド侯爵がこの領も管理をする事になった。
 彼は温厚で、やり手だとの話は聞いている。

 だがしかし、彼はきっと忙しいはず。きっと私が代官として任命され、明るい代官生活がこれから始まるだろう。
 家族にもその事を喜ばれ、ほとんど口をきいてもらえなかった娘や妻も、『おっさん。まあ頑張れ。小遣いを稼いで』そう言って、励ましてくれた。
 息子は、勉強中で姿を見ていないが、きっと父として尊敬をしてくれるだろう。

 そして、暫定だがもくろみ通り、ハウンド侯爵家から任命の通知が来た。

 だがその通知には、おまけがあり『貴殿にその領の管理を行うにあたり、監査を行う。私だと思い、監査に向かう二人に従うように。ミクス・マーキス・ハウンド侯爵』

 監査。監査だと。
 やばいではないか。与える情報の取捨選択を行わないと、私まで更迭(こうてつ)されてしまう。

 アバルス子爵がやって来た悪事が目立つよう、命令書の類いを探すが、存在していない。すべて発令が私の名前だ。うん。廃棄しよう。
 財務関係の書類と、人員。領内の管理費。こんなもので良いか? 住民の台帳と、流動人口も付けておこう。

 そしてやって来た。
 やって来たのは、ハウンド侯爵の懐刀である、家宰モルガン・セバスティヌ殿。
 個人で、一小隊クラスの武力と言われて、確か白金級ハンターでもあったはず。
 決して逆らってはいけない。だが、横に居る小僧はなんだ? 亜人か?
 亜人は確か、小ずるく力も無い種族だったはず。
 体毛も少なく、病人のように皮膚が露出している。

 汚らわしい。

 ……と、思ったときもありました。
「神乃様。さてどういたしましょうか?」
 セバスティヌ殿が、意見を求めている。それも様付け。

「まず、資料を見させてくれ。改善なり廃止なり見てから決めよう」
 そう言って、亜人。いや、神乃様は資料を見始める。

「このすべてに対して、雑費が計上されているが、この細目はどこだ?」
 雑費だと? 雑費は、書きにくいものに対して割り振られている文言。
 そんなもの、細目などあるはずがない。

 何とか言い逃れをすると彼は、諦めてくれたようだ。

 だが、そこからがひどかった。
 セバスティヌ殿と相談をしながらごそごそやっていたと思ったら、またいきなり話がこっちに来る。

「各方面について支出を纏める必要があるから、各部門に概算でいいから早急に要求を出させて。出せるなら根拠の明細も付けて」
「ええと、そこに確か請求分がありますが」
 その事を伝えると、彼は言う。

「この子どもがお小遣いをねだるような陳情書か? 防具の新型が出ました。兵の安全のために装備を購入します。それならそれで、古い方の引き取り価格並びに新型の価格。それに性能について、どのくらい差があるのか。随意契約では無くて必要性能を明記して入札でもしろ」
 どこの世界に陳情書を書いて、お小遣いをせがむ子どもがいる。
 そんな奴が居れば、見てみたい。それにしても随意契約とか、入札は初めて聞く言葉。一体何だろう?

「随意契約とか、入札とはなんでございましょう?」
 悔しいが教えを請う。

「購入時に、相手を指名するのが随意契約。入札は性能を示して、対応できるいくつかの企業。いや、ここなら職人に依頼を出し、価格を適正な価格内で安く受けるところに発注をする。安ければ良いなんてすると、実績を作るため馬鹿をする奴らが出てくるから、材料費や人件費から適正値を出せ」
 なんだと、それでは仕入れに対する、うま味がなくなってしまう。
 物品の購入とは、その事をちらつかせ、貢ぎ物を得るのが上手な役人としての仕事。その立ち回りが、うまければうまいほど私腹が肥やせるというのに。
 それが出来なければ、面倒ばかりではないか。何故、人のために走り回らねばならんのだ。

「大変な仕事になりますけれど」
 嫌みをちょっと混ぜてみる。すると、彼は理解したのだろう。
「給料は労働に対する対価だと思っている。仕事に応じて変えるから仕事を減らすならそれに応じて給料を減らすよ」
 ああ。だめだ。下手なことを言うと、今以上に報酬が減ってしまう。
 そんな事になれば、娘達に何を言われるか分からん。何とかせねば。

 頭を下げて、部屋を辞すと、歩きながら考える。
 なんだ。一緒じゃないか。
 口をきいて、良い物をくれた奴に、入札価格を教えれば良い。

 その完璧な発想に、自身でも驚いてしまった。
 所詮、亜人の浅知恵。
 我ら獣人族には及ばんよ。


 出ていくコビール男爵を見送りながら、道照はセバスティヌに説明する。
「絶対システムを作っても、悪用する奴らは出てくる。金銭を受け取り、入札額の漏洩とかな。そんな、内部監査システムを作り人員を配置する。物品入札があると公示した日から、対象者をマークさせよう」
「ほう、それは秘密の間者的なものでしょうか? それならば、私の子飼いが居ますので役目を与えましょう」
「すでに居るなら任せよう。この手の者は、信用できる人員の確保が面倒だからな」
 そう言って、セバスティヌと改革を進めていく。
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