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第二章 人? との交流

第26話 与えた、または受け取った情報は、混乱を産む。

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 数日後、オピドムの町。マスターの執務室。
 
「彼が、帰ってこない」
 ぼやくのは、言わずと知れた出張所のマスター。バルバラ・セナンクール。

 今日も、いつもの様に仕事もせず。ぼやく日々。
 ふと目線を下ろすと、束ねられた紙が目に入る。
「なんだこれ?」
 見覚えのない書類。

「よいせ」
 手元に取り、視線をその内容へ向かわせる。
「………… これは」
 燻製の作り方。
 魚の場合…… 内臓とエラ、鱗、頭を落として開きに作り、漬け込み液(ソミュール液)に一晩から一日漬ける。
 小さな魚は、エラとワタだけ抜いてまるごとでも可。
 漬け込み液は、濃度十パーセントから十五パーセントの塩水に葡萄酒二を加える。

 本当なら、あれば胡椒とかハーブを加え一煮立ちさせて作るが、この世界見当たらなかったので省いてある。

 付け込むのは、やはり一晩から一日漬け、その後一日くらい干す。
 その後燻煙だが、基本は温燻で三十度から八十度の間で数時間から一日程度燻煙をする。目安は六十度以下が好まれるようだ。

 高温で数時間燻煙をする熱燻もあるが、日持ちしないようです。

 まあそんな内容が、素材別に書かれていて、燻煙用の箱はアルトゥルが作れることも明記されていた。
 それに付随する様に、梁のかけ方やらガチンコ漁、行き止まりの囲い罠まで色々な魚の捕獲方法まで書かれていた。

 おまけまで書かれていたが、まあこれは、頼んでいたものだから分かる。

 問題はその後だ、細かなものから家の工法、道路の舗装方法まで書かれた書類。
 元商業ギルドである、セナンクールには読んでも理解できず、彼は町中を走り回ることになる。

 彼のその行動を見て、ギルド職員は驚き、天変地異の前兆ではないかと噂が立つ事になる。


 その頃、道照は救出した人々が落ち着くのを見計らった様に、セバスティヌに連れられ、旧アバルス子爵領の改革に、引っ張って行かれていた。

「さて、それでは代官の任命と、これからの方向性を決めましょう」
「えーと。セバスティヌさん。どうして俺は連れてこられたのでしょう?」
「それは、旦那様からのご命令です。斬新な知識を持った希有な人間を見つけたのですから使わないともったいないと。なんなら代官としてこの領地を治めていただいても良いと仰っておられましたから」
 そう言ってにまにまと、笑っているセバスティヌ。

「いや俺にも用事というか、都合があってですね」
「おや? エクシチウムの樹海で目覚められて、行き場も目的もなかったと記憶しておりますが?」
「それはそうだが、あのー。なんだ、ほら同じような人種も探したいし」
「亜人でしたら、王都に近付けば増えてきますし、そうでございますね。なんとかつてを見つけて、隣の大陸ヒュウマコンチネンティブに行けば、神乃様と同じような種族の国があると思われます。ですが、噂では諍いの絶えない、危険な所と聞いております」
 それを聞いて、驚く。この世界に来ての初情報。人が居る大陸があるのか。

「諍いが絶えない?」
「ええ。我々と違い、見た目など少しの違いなのですが、どうもずっと争っていると聞き及んでおります。そうは言っても、もう何年も正規では国交をしておりませんので詳細は不明ですが」
「そうなのか……」

「それに、船に乗るのでしたら、王都から街道を南に向かい山脈を越え、このコンチネンスビスタ大陸の南方。メリディウムポーツムへ行く必要があります。ただ、向こうが情勢不安定ですので、交易をしているかどうかは不明でございます。昔はギルドの連絡用魔道具も通じておりましたが、今となってはさっぱりでございます」

 この情報を聞いて、俺は随分驚き、落胆していたのだろう。

「神乃様。そう落胆をせず。ハウンド侯爵から与えられた、旧アバルス子爵領の改革に没頭し達成できれば、きっとその達成感で充足感と幸せを感じられます。頑張りましょう」
「ああ。まあそうかもな」
 ついそう答えたが、ちょっと待て。
 仕事の達成感が幸せって、凄くブラックな匂いがするぞ。
 『モチベーションは意識次第』『意識で行動が変わる』『一致団結だ』『業績が皆の幸せ』『寝る暇が無い? それはおまえが無能だからだ、文句を言う暇があれば仕事しろ』そんな根性論や精神論がセバスティヌから、漂ってくる。

 そう言えばこいつ、ハウンド侯爵家に恩義があるんだったな。

 周りを見回し、夜な夜な訪れたときより心なしか、表情の明るくなったと思われる町中を歩く。いや獣人の表情は、未だに今イチ分からないがそんな気がする。

 この町から一歩出ると、山と湖。森。

 見回すと、景色は良い。

 温泉でも出れば、それで観光資源になるがどうなんだろう?
 獣人て、温泉に入るかな?
 そう思いながら、頭の中では温泉に浸かる猿の姿が思い浮かぶ。
 そう言えば、カピバラの居る温泉もあった記憶があるな。

 ため息を付きながら、領主の館へセバスティヌと二人とぼとぼと歩いて行く。

 到着すると、いきなり歓迎の声がかかる。
「ありがとうございました」
 口々に礼を言われて周りを囲まれる。

 セバスティヌは、囲んでいる皆をなだめて奥へと進む。
 まあ良いか。喜んでいるようだし。
 そして、自らブラックなところへ足を突っ込む、道照であった。
 
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