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第二章 人? との交流

第12話 予想外は、予想できていないから予想外

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「おい。チャチャ耳を塞いでおけ」
「へっ?」
「耳だよ。塞げ」
「はい」
 チャチャが耳を塞いだのを確認し、自分たちの四方。
 角ウサギたちの集団上空に、空気を圧縮した物を作製。
 適当なところで、解放する。
 一瞬だけのつもりなので、自分たちの周りには、シールドを密閉タイプで展開。

 そして、解放。
 その瞬間、周囲では予想に反した状況が発生する。
 弾けた圧縮空気により、異常な世界が巻き起こる。周囲には、突然ギャラルホルンのようなものが鳴り響き、ラグナロクのような惨劇が突如発生。

 シールド中に居れば、空間が繋がっていないはずなのに、甲高い反響音が聞こえた。だが、外ではドンと言う音の後、音同士が干渉し、うねり、反射し、最後には甲高く硬質な音が鳴り響く。

 最初の爆発で、すでに速度は音速を超え、衝撃と共に広がった。
 魔法により、圧縮されていた空気。空気の主成分である窒素は、およそ七百倍にその体積を広げ、酸素は八百倍にもなる。その威力は、完全に予想外で道照の想像を越えた。

 
 一時的に周囲で高濃度になった酸素は、摩擦で発生した静電気により可燃物を燃焼させていく。

 昔、一九九五年に日本で起こった事故では、圧縮空気内にオイルが混じり爆発を起こした。その時には、一千五百メートル範囲内の建物に被害が発生した。
 酸素は、可燃物を燃やす補助をする。
 液化するような圧縮空気は、実は超危険なのである。

 それを、四つも一度に破裂させた。破裂させた場所は、直線距離で二十メートルは離れていたが、発生した衝撃波は、同心円に広がる。等間隔で一度に解放したため、中心に向かったものは、丁度シールドに沿って、上昇をする。

 角ウサギたちは、第一波として衝撃と音をその身に受け、身動きができなくなった。
 その後、第二波として、高濃度の酸素。そして第三波、燃焼による高温。
 すべてが、体にダメージを与え、効果範囲内にいた個体は死滅した。

 酸素も、高濃度では毒となる。

 そして、それにより発生した火柱は、いくつかの村で目撃されて、大騒ぎとなった。

 場所が悪かった。
 かのエクシチウムの樹海には、古の時代より邪神が封じられていると伝承がある。

 噂は、広がるとすぐに、調査隊が派遣されることになる。
 だが、あったのは、円形に焼け焦げた跡地のみ。
 場所も、エクシチウムの樹海まで行かず手前側。
 ひとまずそれに安心をして、調査を行うが、こんな馬鹿みたいな魔法など思いも寄らない。無論調査隊も、原因が分からず帰ることになる。


 道照はとりあえず音で、ウサギを驚かそうと思っただけだった。
 そう、本人の意識の中では『ちょっと、大きな音を出しただけなのに』である。

 だが、シールド内で見た、地獄の光景。
 渦巻く火炎と、吹き飛び燃えていく角ウサギや木々。

 結局それらが収まるまでシールド内にいて、落ち着いてからシールドを解除した。

 極悪な魔術師が赤いマントを翻し、一気に塗り替えたような風景。
 周りを見回し、一息ため息を付くと、道照は角ウサギの亡骸を収納していく。

 今回の騒動。始まりの一羽は、道照に放されたが、周辺の焦げ臭い匂いに立ちすくんでいた。
 ひょっとすると、仲間の身に起こったことを理解したのかもしれない。
 彼は小さく「キー」とだけ泣き、力なく自身の巣穴の方へ戻っていった。

「あー。ここまで凄いことになるとは、思わなかったよ」

 ぼやきながら、二時間ほど掛けて、収納が終わった。
 チャチャは、まだへたり込んでいた。

「もうすこしで、日が暮れる。この場じゃあれだから、もう少し移動しよう」
「一体、さっきのは…… 何があったの?」
「角ウサギを、脅かそうとしただけだ」
「そりゃ…… まあ、驚いたでしょ。私も驚いたもの」
 そう言って、睨んでくる。

 そうして、チャチャは立ち上がると、鼻をヒクヒクさせてつぶやく。
「美味しそうな匂い」

「言うと思ったよ。後で食わせてやる」
 ウサギがウサギを食って良いのか? ふと思ったが、チャチャは喜んでいるから良いのだろう。

 その後、その周辺では、ウサギの獣人を見ると、何故か角ウサギが逃げるようになったらしい。


 その後、いくつかの村を経由して、少し大きな町へとたどり着く。
 そこには、門番として猿の獣人がいた。
 ビシッと革鎧や、短槍を装備。
「あーなんだおまえ。妙な格好をして。まあ良いや、街へ入るなら金をよこしな。今は銀貨三枚か、それ相当のものだな」
「角ウサギでどうだ?」
 そっと、角ウサギを出す。

「角ウサギは良いが、一番値段の高い毛が燃えているじゃ無いか。うーん。ちょっと付いてこい」
 そう言って、町の入り口に近い、でかい建物へ入っていく。

 素直について行くと、ギルド総合案内と書いてあるところを抜け、別棟へ行く。
「ここは?」
「どこの田舎者だ? ハンターと傭兵、食肉と服飾、まあ毛織物商とか、他にも色々なギルド出張所だな。依頼を受けてそいつを納品か、傭兵などは達成の確認。町ごとに、ギルドの場所も違うし面倒だろ。だからこうして、町の入り口に総合の出張所があるんだ。ギルドは元々同職の互助会だが、獲物を捕ってくる依頼をハンターへ出して。捕ってきたら捕ってきたで、肉は食肉の商業ギルドに持って行って、毛皮は毛織物商とか、面倒だろう。でだ、角ウサギはあそこのカウンターに出してみろよ」

 言われたとおり、三羽ほど角ウサギを出してみる。

「こちら買い取り希望ですか?」
「ええ、そうです」
 クルクルと、ウサギを引っくり返し、ため息を付かれる。
「捌いてなくて、毛どころか皮まで焼けているし、銀貨一枚ですね」
 そう言って、銀貨三枚を出そうとするが、一人分では足りないし、町中で一銭もなしでは困る。

「おい教えてくれ、宿とかはあるのか?」
 後ろを振り向き、お猿さんに聞く。

「ああ、あるぞ」
「相場は、幾らくらいだ?」
 少し首をひねったが、指を三本立てる。

「今は、銀貨一枚から三枚くらいだな。無論安い方は素泊まりでボロい」
 口ではそう言ったが、三がおすすめなのだろう。町に入るだけで、二人で銀貨六枚。ホテルも銀貨六枚。十二羽くらいなら余裕で持っている。
 どんどんと、角ウサギを出していく。

 その時に、お猿さんも受付にいる犬のお姉さんも、引いていることに気がつかなかった。
 亜空間収納が、この後、波紋を広げることになる。
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