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人の縁とは不思議なもの

第1話 彼女は知りあってみれば、近い人

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 今横で寝ている彼女。
 遠藤 美香えんどう みか

 知りあってから、話をすると、ものすごく近いところにずっと居たようだ。

 聞けば、故郷の町どころか、学校まで同じだった。
 これまで俺達は、幾度も関わっていたようだ。

 ただ、すれ違っていただけ……

 地方の故郷を離れ、大学は関西。
 そこを卒業して、そのまま就職。

 中堅企業の、地方採用。
 まあ、大学のランクを考えれば仕方が無い。

 だが、その時付き合っていた彼女は、東京での勤務になった様だ。

「いい。遠恋になったけれど、浮気しちゃあ駄目よ」
 大学の時から付き合い始め、今年が三年目。
 よく言われる魔の三年目。

 人に釘を刺した彼女はあっさりと浮気し、その証拠写真を間違えて俺に送ってきた。
「今こんな格好なの。待っているから。♡」
 そんな言葉の下にくっ付いていたのは、裸エプロンの彼女。

 平日の夜。
 俺は関西。彼女は関東。
 おれの既読は付いていたが、その文言ごと三十分後に消える。
 残っている、削除されましたの文字。

 俺の方で、スクリーンショットと共に保存はすぐにしている。
 写真に埋め込まれたGPSデータは、彼女の家ではない。
 まあ台所の感じだと、引っ越しを手伝った安アパートではなく、高級なのは見て判った。

 強めの酒をあおりながら待ったが、その続きも、毎晩来ていた定型連絡も無かった。
「会えなくて淋しい。ターちゃん人形を抱っこして寝ます」
 とか、まあ「今度いつ会える」とか?

 ターちゃん人形は、ゲーセンで取った狸のぬいぐるみ。
 顔が俺に似ているのだそうだ。

 逸道 大成としみち たいせい二十三歳。身長も百七十三あり、そこそこモテた。
 だが、思っていたのと違うと言って、振られるのが得意技。

 あまりベタベタとするのは嫌いで、過干渉されると鬱陶しくなってしまう。
 付き合っていても、自分の時間は、ある程度自由に欲しい。
 そう、恋人なんだから優先するのが当然とか、プライベート全部を付き合いに回せというのは違うと思う。

 友人に聞けば、関係が落ち着けばそうなってくるよ。などと言っていたが、それは人による様だ。

「連絡こんなぁ……」
 結局三時過ぎまで、飲みながら待っていたが、言い訳も無いようだ。
 ブロックして、消去する。

 翌朝は、急に休日になるわけもなく出勤。
 その時間でも、俺はまだ酔っていた。

 朝一のビデオ会議は何とかこなし…… いやまあ、そのお考えで結構だと思います。そう言っただけ。
 新入に近い社員に、重要な決定は回ってこない。

 当然頭は働かず、スマホの写真を、ちまちまと消していた。
 うちの会社、個人ブースになっているが、背後を抜けるときには見える。隣に席に座る遠藤ちゃんが、抜けるときに俺のサボりを見たようだ。

「逸道さん。スマホで遊んでいたら、オープンデスクにされますよ」

 そんな噂がある。
 遊んでいると、昔ながらの壁無し机に戻されると。
 その時は、係内全員が被害にあう。

 そう言った彼女だが、気が付いたようだ。
 いきなり、腕を引かれ、休憩コーナーへ引っ張って行かれる。
「朝から飲んだんですか?」
「いや、昨夜っから」
「お酒の匂いプンプンです。水飲んで」
 自販機で水を買い、渡される。

「そんなに匂う?」
 聞くと、すごい勢いで頷かれた。
 彼女は、正面に立つと、キスするのに丁度くらいの身長。
 少し困った顔をする、彼女の顔がかわいく見える。

「全く平日の夜に。社会人としての心構えが出来ていませんね」
 文句を言う彼女も、同期。新人だ。

「飲む気は無かったんだが、ちょっとプライベートで、深遠なる思考の沼にハマって、出てこられなかったんだ」
「中学生ですか? うちの弟もそんな時期がありましたが、もう抜けましたよ」
 呆れたように言われる。

 スクリーンショットを見せる。
 見せてからセクハラだと気が付くが、引っ込められない。

「なんですか? 彼女さんとラブラブで良いですね」
「彼女。今、東京なんだ」
 彼女はアレッという顔をする。

「いや来てほしくて、こんな写真を送ったのでは?」
「彼女のアパートとは違う。内装も違うし、写真に埋め込まれたGPSデータも知らないところだ」
 そう言うと、彼女が悩み出す。

「えーと。その…… 私、男の人とお付き合いしたことがなくて、力になれません」
 そう言って、もじもじし始める。

「へーなんで? 遠藤ちゃんモテそうだし、かわいいのに」
 そう言うと、いきなり真っ赤になる。
 もともと、色白だから目立つな。

「相談に乗りますから、食事に行きましょう。ついでに相談に乗ってください」
「おう」
「お金がないんで、ファミレスで良いですね」
「ああ。いいよ」
「じゃあ。昼に。水飲んで、お酒は抜いてください」
「判った」
 そう言うと、彼女はてててと小動物のように課へと戻っていった。


 まあ、仕事にもならないので、少しゆっくりして、自分のデスクに戻る。

 昼に、近くのファミレスにいくと、彼女は話し始める。
 高校の時から、告白はされたが、その時その時で、したい事があった。でも、付き合うと、付き合いを優先させるべきだという流れについて行けなかった。
 嬉しいのは嬉しいが、俺がこんなに君のことを考えて計画をしたのに……
 それが嫌だった。

 二度ほど、別な人と付き合ったことはある。
 でも、キスしようとかそこまで行く前に、不自由を感じて別れたらしい。
「俺と一緒だなぁ。今回付き合った彼女はそれが無かったから続いたが、離れた瞬間に浮気だ」
「むー。だめ。時間が無い。週末。少し時間を取って話をしましょう」
 なぜか、そんな事に決まった。
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