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巡り会い、山
第1話 五月晴れの空と山の天気
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そう、その日は、冷たい朝の空気と真っ青な空。
良い天気だった。
「みなすわん!! 山の天気は変わりやすく、気を付けましょうねぇ」
あー。ちくしょう。
天気が良かったから、天気予報を見るのを忘れたぁ。
何処の素人だよ。
「俺だよ、ち、くしゅっ」
やべえ風邪引く。
いま、初中級者向けのお山。
天気が良かったので、会社にメールを打って、ザックを装備。そのまま山に来てしまった。
登山というか、アウトドア歴二年目。
そう、一番危ないお年頃。
そうそう、二年目だと知ったかで、無茶をする奴がいるんだよ。
いま、広葉樹の木の下で雨宿り中だが、向こうに見える雲は乱層雲ではなく積雲。おおっ。その奥にも立派な積乱雲がこちらに近付いております。隊長。雷様が…… いる。
えーと、いまザックの中…… この前のキャンプのままなら、釣りのセットやタープがあった。多少土で汚れているが断熱シートもあった。
とりあえず、身を低くして、かぶってみる。
おおおっ。
稲光が。
これはやばい。
風が冷たく、強くなってきて…… これはまだ来る。
あわてて周りを見回す。最近なら、簡易トイレとか結構あるし。
銀色シートをかぶり、怪しい生き物が走り回る。
おっと、こんな所に管理小屋が。
「ごめんなさいね。どなたかいらっしゃいますか? いませんね。お邪魔します」
勝手に、避難をさせて貰う。
床はなく、掘っ立て小屋で広さは六畳ほど。
まあ十分だ。雨漏りは無し。
かぶっていたシートを、足下に敷く。
ザックから、タオルを取りだし、ジャケットを拭き、水気を取る。
「土だけど、焚き火台も無しで、火をたくのは駄目だよな」
ふと思い出し、シングルバーナーを取り出す。
「水は流石に入れてきたし、クッカーのセットはある。コーヒー豆? 何で俺はひいてないマメを持って来た? いいや味噌汁にしよう」
そうして、香り高い味噌汁で喉を潤す。
むろん、折りたたみの椅子も持っている。
畳めば棒状になる優れもの。
大体、落ち着いていると、騒動が起こる。
誰か騒ぐ声と、悲鳴。
名前を呼ぶ声。
バーナーは冷えたな。ザックに突っ込み。断熱シートをかぶって外に出る。
「きゃぁぁー」
叫ばれた何でだよ。
「どうしました? 雨宿りなら、そこに小屋が」
「あっ。人間」
俺はモンスターと思われたようだ。
「助けてください。友達が滑落をして」
「警察を呼びましょうか?」
「でも今なら、助けられるかも。早く」
「ちょっと落ち着いて、あなたまで遭難をしたらどうしようもないでしょう」
スマホを取り出す。
初心者向けの山でも、アンテナが立つとは限らない。
現在地にピン留めをする。
大きく深呼吸。
行きましょうか。クッションをかぶるのは諦め、両手の自由を優先。
見たところ、斜面はそんなにキツくない。
そうそう、叫んでいたのは、若い大学生くらいの女の子。
身長は一六〇は無いくらいかな。
帽子をかぶっているから髪型不明。
ジャケットを着ているから、着ぶくれ中。
まああ、かわいい系と言えばいえる。
木の幹を押さえながら、ゆっくり下る。
なるべく、下りやすそうな所を、横に横に九十九折れの要領で下っていく。
だけど、いない。
余り下ると、命が危ないが。
死体はいやだなあ。
そんな不謹慎なことを、考えながら降りていく。
するとだ、いやなことに川の音が聞こえる。
大体において、川の両岸は浸食されて崖が多い。
下は岩だらけ。
そうなんだよ。危ないんだよ。
危ないというのに、俺の山側。
最悪なことに、さっきの子が足を滑らす。
俺の足もすくい上げ、崖から飛ぶ羽目に。
「どわあぁ」
「きゃああぁ」
きゃあじゃねえよ。
死ぬか怪我を覚悟する。
ドボーンと落水。
その上に女の子が振ってくる。
ぐえっ。
息をしようと顔を出したとこを、お尻で潰され、しこたま水を飲み、死にそうになる。
何とか、顔を出すと、まだお尻が目の前だ。
なんとか、押しのける。
流れに任せて、岩に取り付く。
そして、岩の所で、変な方に曲がった腕を抱え泣いている美人と目が合った。
「君が落ちた子?」
「えっ。ええ、多分そうです」
泣きながら、答えてくれる。
その時、一緒に来た、かわいい風な子のことを、すっかりと忘れていた。
「たすけて」
「あっ」
一応手を伸ばす。
そして、一緒に流されるが、俺は頑張る。
すぐ近くの岩を掴み、こちらへ何とか引き寄せる。
「ぶわー。死ぬかと思ったぁ」
鼻水とかすごいが、見なかったことにする。
岩に取り付かせて、先に上がり、また引き上げる。
いかん。さっきのかわいい子。
げはげは言っているが、岩の上だ。こっちは大丈夫。
放置して、さっきの子を見に行く。
そう、いま絶好調で雨が降っているんだよ。
こんな小さな沢は、増水すると一気だ。
何とか、逃げないとやばい。
「おい。足とかは大丈夫か?」
「はい。でも、手が…… 頭のてっぺんまで痛みが」
「そりゃそうだろう。折れているからな。とりあえず添え木をして固定すれば、少しはましになる」
そう言って騙す。
単純骨折で、皮膚を突き破ったりしているなよ。
そう祈り、見せて貰う。
なんとなく大丈夫そう。
なるべく真っ直ぐにして、適当な枝をあて、荷物をまとめるのに使っていた、面ファスナー付きの平織ロープで固定する。
「さて、もう一人は……」
良い天気だった。
「みなすわん!! 山の天気は変わりやすく、気を付けましょうねぇ」
あー。ちくしょう。
天気が良かったから、天気予報を見るのを忘れたぁ。
何処の素人だよ。
「俺だよ、ち、くしゅっ」
やべえ風邪引く。
いま、初中級者向けのお山。
天気が良かったので、会社にメールを打って、ザックを装備。そのまま山に来てしまった。
登山というか、アウトドア歴二年目。
そう、一番危ないお年頃。
そうそう、二年目だと知ったかで、無茶をする奴がいるんだよ。
いま、広葉樹の木の下で雨宿り中だが、向こうに見える雲は乱層雲ではなく積雲。おおっ。その奥にも立派な積乱雲がこちらに近付いております。隊長。雷様が…… いる。
えーと、いまザックの中…… この前のキャンプのままなら、釣りのセットやタープがあった。多少土で汚れているが断熱シートもあった。
とりあえず、身を低くして、かぶってみる。
おおおっ。
稲光が。
これはやばい。
風が冷たく、強くなってきて…… これはまだ来る。
あわてて周りを見回す。最近なら、簡易トイレとか結構あるし。
銀色シートをかぶり、怪しい生き物が走り回る。
おっと、こんな所に管理小屋が。
「ごめんなさいね。どなたかいらっしゃいますか? いませんね。お邪魔します」
勝手に、避難をさせて貰う。
床はなく、掘っ立て小屋で広さは六畳ほど。
まあ十分だ。雨漏りは無し。
かぶっていたシートを、足下に敷く。
ザックから、タオルを取りだし、ジャケットを拭き、水気を取る。
「土だけど、焚き火台も無しで、火をたくのは駄目だよな」
ふと思い出し、シングルバーナーを取り出す。
「水は流石に入れてきたし、クッカーのセットはある。コーヒー豆? 何で俺はひいてないマメを持って来た? いいや味噌汁にしよう」
そうして、香り高い味噌汁で喉を潤す。
むろん、折りたたみの椅子も持っている。
畳めば棒状になる優れもの。
大体、落ち着いていると、騒動が起こる。
誰か騒ぐ声と、悲鳴。
名前を呼ぶ声。
バーナーは冷えたな。ザックに突っ込み。断熱シートをかぶって外に出る。
「きゃぁぁー」
叫ばれた何でだよ。
「どうしました? 雨宿りなら、そこに小屋が」
「あっ。人間」
俺はモンスターと思われたようだ。
「助けてください。友達が滑落をして」
「警察を呼びましょうか?」
「でも今なら、助けられるかも。早く」
「ちょっと落ち着いて、あなたまで遭難をしたらどうしようもないでしょう」
スマホを取り出す。
初心者向けの山でも、アンテナが立つとは限らない。
現在地にピン留めをする。
大きく深呼吸。
行きましょうか。クッションをかぶるのは諦め、両手の自由を優先。
見たところ、斜面はそんなにキツくない。
そうそう、叫んでいたのは、若い大学生くらいの女の子。
身長は一六〇は無いくらいかな。
帽子をかぶっているから髪型不明。
ジャケットを着ているから、着ぶくれ中。
まああ、かわいい系と言えばいえる。
木の幹を押さえながら、ゆっくり下る。
なるべく、下りやすそうな所を、横に横に九十九折れの要領で下っていく。
だけど、いない。
余り下ると、命が危ないが。
死体はいやだなあ。
そんな不謹慎なことを、考えながら降りていく。
するとだ、いやなことに川の音が聞こえる。
大体において、川の両岸は浸食されて崖が多い。
下は岩だらけ。
そうなんだよ。危ないんだよ。
危ないというのに、俺の山側。
最悪なことに、さっきの子が足を滑らす。
俺の足もすくい上げ、崖から飛ぶ羽目に。
「どわあぁ」
「きゃああぁ」
きゃあじゃねえよ。
死ぬか怪我を覚悟する。
ドボーンと落水。
その上に女の子が振ってくる。
ぐえっ。
息をしようと顔を出したとこを、お尻で潰され、しこたま水を飲み、死にそうになる。
何とか、顔を出すと、まだお尻が目の前だ。
なんとか、押しのける。
流れに任せて、岩に取り付く。
そして、岩の所で、変な方に曲がった腕を抱え泣いている美人と目が合った。
「君が落ちた子?」
「えっ。ええ、多分そうです」
泣きながら、答えてくれる。
その時、一緒に来た、かわいい風な子のことを、すっかりと忘れていた。
「たすけて」
「あっ」
一応手を伸ばす。
そして、一緒に流されるが、俺は頑張る。
すぐ近くの岩を掴み、こちらへ何とか引き寄せる。
「ぶわー。死ぬかと思ったぁ」
鼻水とかすごいが、見なかったことにする。
岩に取り付かせて、先に上がり、また引き上げる。
いかん。さっきのかわいい子。
げはげは言っているが、岩の上だ。こっちは大丈夫。
放置して、さっきの子を見に行く。
そう、いま絶好調で雨が降っているんだよ。
こんな小さな沢は、増水すると一気だ。
何とか、逃げないとやばい。
「おい。足とかは大丈夫か?」
「はい。でも、手が…… 頭のてっぺんまで痛みが」
「そりゃそうだろう。折れているからな。とりあえず添え木をして固定すれば、少しはましになる」
そう言って騙す。
単純骨折で、皮膚を突き破ったりしているなよ。
そう祈り、見せて貰う。
なんとなく大丈夫そう。
なるべく真っ直ぐにして、適当な枝をあて、荷物をまとめるのに使っていた、面ファスナー付きの平織ロープで固定する。
「さて、もう一人は……」
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