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第六章 魔王と獣人族

第103話 魔法使いは、王には勝てない

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 不定形の魔人族。

 目の前に彼が立っているが、『はじめ』の声と共にいきなり姿が変わり、セルビリへと変化をする。
 狙いは分かるが、無意味だ。

 俺はためらいなく拳を突き出し、電撃を見舞う。
 すると全身から煙を噴き、形が崩れた。

 テノフォー系。
 種族的には、クラゲのような有櫛動物から進化したと言われている。

「おおっと。一発だあぁ。暗殺や諜報を行う情報部門の長。プラトン=ルノフ。形が崩れたー。これは完全に意識がない。勝利はリギュウムディの王、山川殿。勝利」
 前回と違い、多少人気が出たようだ。
 どよめきだけではなく、歓声が混ざる。

「プラトン=ルノフ。彼の敗因は何でしょう?」
「彼は姿形を変え、刺されても切られても、殴られても平気なんです。ですが、のぞ…… 王のあれ、きっと電撃ですが、すべての細胞を一気に攻撃。いや素晴らしい。見事に、唯一ともいえる弱点を突きました」
 そう言う彼女だが、きっと今まで、魔王国の人間は見たことがないだろう。
 実に女性らしい笑顔を見せる。
 観客からも「ほうっ」という感じの、ため息のようなものが流れる。

「そうなんですね。解説の元四天王、エリサベト=オードラン様でした」
 どわーっと、会場から歓声と拍手が起こる。

 早速設置されたモニターが、役に立っているようだ。

「おつかれ、と言うほどでもないわね」
「ああ。まあな。だけどあれ反則だろ」
 当然俺の事ではない。相手だ。

「そうだな。奴ら半分なっても平気だからな。ほぼ無敵だ」
「よく今まで、四天王になっていないわね」
 美葉がそう言うと、セルビリが嫌そうな顔になる。

「獄炎。エドガーが最初に奴らの弱点を、知らしめた」
「弱点?」
「ああ。奴ら極端に火を怖がる。魔人族は子供でも火魔法は使える」
 全員がああっと言う顔になる。

 そこへ、好実達が帰ってきた。
 好実達は、掛けのチケットを交換をしに行っていた。

「お疲れ。どうだった?」
「二回戦の時より、圧倒的に減った」
「それは仕方が無い」
 そう言って、みんなが笑う。

「そう言っていたら、エドガーの出番だ」
 テラスへ出てみると、ステージ上で巨大な炎があがる。
 ここに居ても熱気が伝わる。

 当然そんな炎、相手は近寄るなんてもってのほか。
 徐々に下がり、ステージから落下。
 エドガーの勝利が確定をする。

「あれは仕方が無いね」
「望みたいに、干渉して魔法を消せないの?」
「力量に差があれば出来る。相手のコントロールを奪うのは、相手より強くないと出来ない」

 そんな事を言っていると、さすが魔人国。
 次の相手は、エドガーよりは落ちるが魔法使い。
 空気と水。
 まあ、温度をコントロール出来る、水使いと言ったところだろう。

 気化させて温度を下げたり、色々出来るから便利かもしれない。

「さあ、四回戦。七色の魔術師と名高い、カサンドラ=アードラー伯爵」
 結構な人気があるようで、大歓声が沸き起こる。

 白いタキシードに似た服とマント。
 シルクハットはかぶっていないが、杖を持っている。
 この世界、魔法を発動するのに、杖は必要ない。

 白と黒の木肌が絡みつく独特の杖。
 二つの木が絡まり一つとなる。
 それはつまり、『連理の杖』。
 いや、それだけ。
 
 後で、伽羅に聞いたが、「単なる杖です。足でも悪いのでしょ」そう言って、ぶった切られた。

「迎え撃つは、覇王。山川王」
 いつの間にか、覇王になってしまった。

 いつもと違い、相手も上品?

 うん? 陽炎か?
 試合開始前から、こそこそと姿を隠して動き回ってやがる。

 一見をすると、正面におとなしく立っているように見えるが、その像は、動き回る姿を補正しているのか奇妙に動いている。

「さあ、始めぇ」
 かけ声と共に、正面の像が消える。
 その瞬間、左側から蹴りが来る。

 うん。姿は消していたけれど、ずっと居たよね。
 シールドを展開してはじき返す。
 そして、伯爵の錬る魔力を解析して、干渉をする。

 本人も発動しようとしているようだが、俺の方が当然強い。
 完全に魔力の流れは此方が貰った。

 つかつかと、歩み寄り、腹に一発入れる。
 肉体系じゃないみたいだから、軽い奴。
「ごふっ」
 それだけ言って、蹲る。

「もう、終わりなのか?」
 そう聞くと、悲しそうなかをして見上げるが、さすが伯爵。
 密かに、魔力を錬っている。

 だが、そんな隙は与えない。集まった魔力が霧散をする。
「くっなぜ……。魔力が練れない……」
「――知りたいか?」
 つい、どこかのアニメのような問答が続く。

「まさか貴様……」
「そうだ……。私が、魔力を完全にコントロールをしている」
「――やはり。そうか……。無念だ……。魔力操作で負けるとは。ええい――殺すが良い……」
 思わず素に戻る。

「いや殺すどうこうより、退場をしてよ」
 そう言うと、伯爵はこちらを睨む。

「馬鹿者。動けんのだ。何とかしろ」
 芝居は終わったようだ。

 蹲っている伯爵の襟を掴み、引きずってステージ脇まで行く。
 ぽいっと捨てる。
「ぐわああ。馬鹿者。動けんと言っただろうがぁ」
 叫んでいる伯爵は、そのままドナドナをされていった。

 会場は、どよどよ言っていたが、伯爵が退場で一気に湧く。
 それはなぜか。

 解説をしているエリサベトが、伯爵のずるを説明したから。
「ほら、この開始前の伯爵は、すでに動きがおかしいでしょう」
 スクリーンには、過去映像が流れている。

「あっそうですね。なんだかギクシャクしています」
「この時水魔法と空気魔法で温度を変化させ、光を曲げてすでに、のぞ……山川王の横に来ていました。ですがそんなモノ。とうに見破っていたようです。流石です」
 わー!!と言う具合に。
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