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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む

第84話 勘違い。あるよね

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「なに? 精霊国に、リギュウムディの王が現れただと」

「はい。どうも詳細は分かりませんが、国境を越え精霊国に侵入をしていた者達に何かをしたようで、皆一様にうつろな目をして、帰るとしか言わず。かなり、おかしなことになっております」
 ここは、ウアベスティーエ=ビーバレ獣人国。
 王都ウルバスベスタ。獣人の王、獅子族レックス=レオナムは、報告を聞き唸る。

「マタタビでも撒かれたか?」
「いえ。ネコ属だけではなく、他の者達も同様ですので」
「ふむ。よく分からんな」
 獣人は基本脳筋。殴ることで何もかも解決してきた。
 当然。

「よくは分からんが、精霊国にリギュウムディ王国があることは分かった。軍を編制し突っ込む。お宝は根こそぎ頂く」
「やりますか?」
「当然だ」

 あーうん。宰相も同類だった。

 そうして勘違いから、精霊国に存在しないリギュウムディ王国を求めて、侵攻をすることになる。

 それも、参加した者の強奪品が褒美ということで、国民五十一万二千人の内。およそ半数が手を上げる。まるでイナゴの蝗害(こうがい)のようである。

 そして全員が、奪い陵辱することをいとわない。
 そう、とっても残念な国。


 その頃。
 女王を解任したから、リギュウムディの国王として、次の女王を任命しなければいけない。まあそんな話を公に流したし。
「仕方ない。行ってくるよ」
 そう言って、宰相に連れられ、部屋を出ようとしたが、美葉に止められる。

「嫌な予感がする。好実。それと、エリサベト一緒に行くわよ」
 美葉がそう言った瞬間、宰相リーディア=クリストの表情がちょっと曇る。
 
「まあいい。行こう」
 そうして、謁見の部屋へ入る。
 当然女王は、今空位。
 そのため、王座は空いているが……

 十人ほどの女性というか、その中に王女だな。まだ十歳くらいだろ。
 いや、それは良いのだが……

「やっぱり。望。回れ右」
 くるっと振り返る視界の端で、宰相までいそいそと服を脱ごうとしていた。

「あんた達、どういうつもり?」
「これは、この国の慣習でございます」
 そう言い切ったのは、まだ何もよく分からず、女王に洗脳に近い教育を受けた王女アンネマリー。

「女王たるもの、健康で美しく、濡れ濡れであれと」
 そう言い切りながら、胸を張る。

「「「はっ?」」」
「王女様。それは少し、違います。確かに、この国は水浸しで濡れ濡れの国ですが、女王が濡れ濡れでは……」
 そこまで、宰相が言うと、ハンという感じで呆れたような笑顔を出す。当然相手を見下したもの。

「そんな事だから、あんたは宰相なのよ。国と国。特にこの国は圧倒的に武力では弱い。馬鹿みたいに力で突っ走る男が兵隊としていないからね。だけど、相手は所詮男。戦地に乗り込み、体を差し出すと言いより暗殺すれば、幾ら力が合っても意味はない。だから女王はいつでも濡れ濡れにならなければならない。お母様がそう言っておりましたわ。女王の勤めだと」
 そう言って、少し天を仰ぎ、恍惚とした表情をする王女。

「それってあれかな、敵を欺くのに、自分が濡れ濡れよって見せれば、敵の男もコロッと騙されるの?」
「まあ戦争中で、禁欲して。そこに美女が現れる。国のために体を差し出すと言ってくれば。そうだなあ…… 指揮官によっては、ある程度効き目があるかなぁ? この世界。文化レベルというか、民度が低いし。うちなら女王を捕まえて、前へ出して、敵兵に降伏を迫るな。女王から、降伏の意思を受け取ったとか言って。武器を降ろせ。それで終わりだろ」

 ちなみに俺は、ドアに向けてしゃべっている。
「それで早く、服を着させろ」
「あっうん。でもあれね。人によって胸の形とか色々違うし、腰の位置が高い。羨ましいわ。あっ、太ももにまでつたってる。この状況で本当に興奮をしているんだぁ。すごーい」
 一体、美葉達は何を見ているのだろう? 言葉だけで聞いている方が気になる。

「もう良いか?」
「まだ、もうちょっと。決まりがどうこう、身体チェックは必須要件だぁーとか言っているから」
 言い争いが結構ひどいな。
 姦しいとはとは、言い得て妙だな。

 少し息を切らした状態で、美葉がそばに来た。
「お待たせ」
 俺はすでに、床へ座り込んでいる。

 騒ぎ出してから、結局三時間。

 振り返ると、いい加減みんながぐったりしている。
 一体何があったんだ?

「まあいい。じゃあ女王選抜試験。第一問」
 いきなり問題を出してみる。

「武勲を立てたものが三人居る。与えられるものは三種類。だがその価値には差がある。そうだな土地、金、役職。それを、お互いに角が立たないように分けるにはどうすればいい?」
「はい」
 いきなり、手を上げる王女。

「言ってみろ」
「女王の名において下賜する報償。文句を言う方が間違っています。ありがたく賜れ、文句を言うなですわ」
 そう言ってまた胸を張る。

「まあ、良いけどな。他には?」
「あーはい」
 宰相さんだ。

「与えて、各自で話し合い。好むものを取らせます。どうやって武勲を得たのか分かりませんが、準備とか必要だったでしょう。今すぐ何とかしたいものにはお金を。余裕があるが食料が欲しいものは土地を。もっと余裕がある者は役職を与えれば、済むのではと思います。ですが、実際は、お金と土地は半分で与え、残りの一人は役職でも良いかと思います。そんな感じで状態によりですわね。本国では、土地と言っても湿地帯でしたから、誰も喜ばないでしょうし」

 そう言って次第に、ぼしょぼしょと声が小さくなっていく。

「まあ良いのじゃ無いか? 民の声も貴族の声もきちんと聞いて差配をする。それが王だろ」
 そう言うと、宰相リーディア=クリストの顔が明るくなる。

「それでは、私が? では、閨へ」
 それを聞いて、ざわっと雰囲気が変わる。

「なんでそうなる?」
「へっ? リギュウムディ王国が、フラニェク王国の王女を任命と言うことは、属国ですよね。属国の女王ならば、もてあそばれる悲しい定め。物語でよく読みました」
「そんな気は無い。そもそも、属国とは思っていない」
「では。国の改良工事のお金は、不要だと言うことでしょうか?」
 手の平を合わせ指を組む。それを胸の前に構えて祈るような感じだが、その向こうの口元が上がっているのが分かる。

 そうか、この国は、そういう所なんだ。
 従順に見えて狐。
 きっと王女の言った言葉は本当で、その手管が自然の流れの中に組み合わされ、気がつけばと言う奴だな。

「当然請求をする。頑張れ」
「ぐっ」
 そう言うと、呻きながら、宰相は片膝をつく。当然、わずかに膝を開いて……
 あざとい、これも武器だ。きっと見せるだけで、借金が無くなると良い。それを狙った行動だろう。
 ああっ駄目だ。ここに居ると、心がささくれる。

 数学と、一般常識の試験で選抜をしよう。

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