上 下
32 / 55
第2章 周辺国との和解へ向けて

第32話 外も中も

しおりを挟む
「何故、追いかけさせた」
 文句を言うのは、当然ながら裕樹だ。

 目の前には、インフィルマ=パリブス王と宰相マルムベルム=アスセナが、青い顔で小さくなっている。

「いや、そうは言ってもだな。すでに、佐々木殿がメリディオナル王国へ渡っておるだろうし、もしかすると、オリエンテム王国に拿捕されとるかも知れんのだ。その場合、武器の技術が渡ったかもしれん」
 裕樹は、頭を振る。

「もし渡っても、再現をするには素材の問題もある。簡単には複製はできない。たとえ鉄だとしても、混ぜる物や純度、その後の火入れや焼き鈍しという作業で、全く違った物になる」
「それはそうかもしれんが。わしはどうしても怖かったのじゃよ」
 王と宰相は疲れたように、共に頭を下げる。

 思わず、裕樹は天を仰ぐ。
「もう、行ったものは仕方が無い。被害を出さない事と、武器が敵側へ渡ることが無いように伝令を出せ。俺も出る」

 そう言って、謁見の間を退室する裕樹。

 当然、謁見中の貴族達が、その場には居る。
「いやいや、失礼な奴ですな」
「馬鹿者。彼らがいなければ、この国はとうに滅んでおったわ」
「そんなことは…… 金は問題ですが、民の千や二千出したって問題はないでしょう」
「――それは、今回適当に向こうが言ったこと。はなから我が国を…… 我が国を滅ぼすつもりだったのじゃ。奴ら、特にオリエンテム王国は、完全にそのつもりだった」
 そう言っても、まだその貴族は、理解ができないようだ。

 王は、頭を抱える。
 条件による想像が、全く出来ていない。
 ここでもまた、基礎教育の重要性を痛感する。

 ただ、幾人かの貴族は、未来が見えていないわけではなく、自分たちの都合が絡んでいた。

 そう。オリエンテム王国が、パリブス王国を取った後、統治をする貴族が必要。
 それを、任せるという約束を受けていた。当然、本当かどうかの保証はない話だが。

 どこにでも、腐った者達がいるという事だ。
 その者達にしてみれば、裕樹達は非常にジャマな存在。
 オリエンテム王国の間者を手引き、そして、拠点を用意して色々と便宜を図った。
 だが、大した結果は残せていない。

 そして、主要部隊が動いたこの機会に、彼らの思っている知識だけの弱者達を攫う予定を立てた。

 そう、馬鹿なことに彼ら貴族は、オリエンテム王国が撤退したことしか聞いていなかった。

 丁度、裕樹が王都を出発をしたとき、貴族連中の攻撃が始まった。
 暗闇に紛れ、数百名ほどのフルプレートを着込んだ兵達。

 遠方からでも、ガシャガシャと音がする。
「何か聞いていたか?」
「いや、聞いていないぞ」
 のんきなことを言っていた雄一達だが、兵の下品な言葉が耳に入る。

「幾人かで良い。女は好きにしろ」
 そう。とっても物騒な言葉。

「おい、慎也。みんなに言ってこい。敵襲だ」
 ライトのスイッチを入れる。
 封入してある不活性ガスは窒素。
 酸素が欲しかったみんなは、アンモニアによる冷却ユニットを作成。
 それを使い、空気中の水分を除去し、それを圧縮。
 液化してそれを冷媒として、酸素と窒素を分離した。
 空気が溜まったタンク内を冷却すると、液化温度の違いで酸素が先に液化をする。そして、副産物として窒素を手に入れた。

 もったいないので、電球の不活性ガスとして封入した。

 突然、昼間のような明るさになる中州の研究所。
 初めてのことに、驚く兵達。

 妙な棒きれを持った雄一が、姿を表し兵に問いかける。
「お前達。物騒なことを言っていたが、どこの者だ? オリエンテムにしては鎧が違うな?」

「聞いて驚け。我らは、ラーシュ=ヨーナス=ヘーグストランド公爵、マリオ=アウグスティーノ=リナルディ侯爵、バジーリオ=エドガルド=ガリエ伯爵、リオン=ユリシーズ=ウェイン伯爵。各家の精鋭だ。おとなしく投降すれば男は奴隷。女は適当に楽しんだ後、商館へ売ってやる」
 雄一はあきれ顔で、家名をすべて控えたか、秀明に聞く。
 
「秀明。四家のようだな。控えたか?」
「多分な。細かな所は違うかも」
「お前なぁ。じゃあ足を撃つよ」
 そう言うと、雄一は腰だめに発砲を開始をする。

 なるべく話を聞くために、足を狙う。

 当然相手もフル装備。クイスと呼ばれる、モモ当ては付けてある。
 だが、そんな物は全く意味がなく、撃ち抜かれていく。

 今使っている弾は、細めのフルメタルジャケット弾。
 殺傷力を落とし、貫通力を上げた物。

 あたると、痛い。
 だが、よほど当たり所が悪くないと死にはしない。

 一発で数人ぶち抜いたようで、効率が良い。
「こりゃいい、五ミリ弾で正解だな」
 連射をしても、振動が少ない。

 一人で百人。あっという間に倒してしまった。
 相手は、夜間のため弓を装備していなかったし、剣術はかなりの腕前だと本人達は思っていた。

 だが、持っていた金属を張った木の盾は、全く役に立たず。

「おおい。気を付けて縛れ。先に剣とかを遠くへ避けろ」
「「「へーい」」」

 そうして縛り始めたが、至る所で銃声とうめき声が聞こえる。

 最近は護身用にみんな銃を持っている。
 多分抵抗されて、腕でも撃ち抜いたのだろう。

 青木達三人が死んでから、みんなの意識が変わり、殺す練習をした。
 最初は魚から、鳥、猪。そして熊。場合により鹿も。

 今は女子でも、猪まではいける。
「出来なきゃ、攫われていかがわしいお店行きだからな」
 そんなこの世界の常識が背中を押す。

「おお? 何があった」
 裕樹が帰って来た。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ
ファンタジー
始発電車で運命の恋が始まるかと思ったら、なぜか異世界に飛ばされました。 世界は甘くないし、状況は行き詰ってるし。自分自身も結構酷いことになってるんですけど。 それでも人生、生きてさえいればなんとかなる、らしい。 マッタリ行きたいのに行けない私と黒猫君の、ほぼ底辺からの異世界サバイバル・ライフ。 注)途中から黒猫君視点が増えます。 ----- 不定期更新中。 登場人物等はフッターから行けるブログページに収まっています。 100話程度、きりのいい場所ごとに「*」で始まるまとめ話を追加しました。 それではどうぞよろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...