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第2章 異変の始まりと世界の終焉

第18話 寂寥感(せきりょうかん)

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「先生、かっこいいわよね。ねえ、告るの? ねえ、壮夫くんが口を滑らして、私があなたのこと。……その ……す、す、す。……まあ。私の気持ちを言ったわけじゃない。それなのに。その返事もなく。先生、かっこいいですって、何かのフェチなの?」

 すでに、一志はボロボロで、息絶え絶えとなっている。

「そこな、子ども達、おやめなさい」
 なぜか、遠巻きに見ている、じいさんと、その他門下生。
 見かねて、声をかける。

「誰あんた?」
 そう言って、水希は眉間にしわを寄せ、険しい顔で振り返り、和を見た瞬間、表情が柔らかくなり、後ろにいた凪海を見て、舌打ちをする。
 そして、てんちゃんを見て、動きが止まる。

「あんた達が、一志の言っていた、ラブラブ、バカップルね」
「ひどい、言いようだね。そんなにじゃれついてる、つもりはないのだが」

「一志が言っていたわ」
「嘘だ、そんな事は言っていない」
 むっくりと起き上がった一志君。意外と平気そう。丈夫だね。

「まあ、一志君も、平気そうだけれど、そのくらいにすれば? それこそいちゃついているとしか思えないし」
 そう言うと、門下生達が、頷く。

「そうだ、そこのお姉さん、無手の組み手をお願いします。見ての通り一志は弱いし」
 それを聞いて、凪海は首をひねる。

「いやねえ。一志君は、あなたと遊びたいから、手を抜いているだけなのに。私が取っちゃったらかわいそうよ」
 そう、凪海が言った瞬間、水希ちゃんの首が凄い勢いで回転し、一志君を見る。

「本当なの?」
「あーうん。おまえブランクがあるし、道場に居たときの二つ名。破壊の女王と言っても中学生レベルだしな。今も空手をやっているみたいだけど、重心も何もかも違うし、当て身は痛いけど、逃がせばどうということはない。家は、逃げないようにはじくように衝撃を置いてくるけど、それができなくなっているな。空手は型を見せるために残心をするから」
 それを聞いて、理解したようだ。
 さすが、破壊の女王。

 ぶわっと、顔が赤くなったと思ったら、いきなり前蹴りから左右のワンツー。
 だが蹴りあげた瞬間も、足を内側に流され、重心が狂った。その後、狂った重心での左正拳さらに、それも内側へ流され、右正拳は、かなり無理な体勢で打たれた。
 まあ、よろよろと突きだした右手は、そのまま手首を取られて引っくり返される。
 肩甲骨脇に、膝を入れられ動けなくなる。

「こんな、まさか一志なのに」
 今ので、手玉に取られたのを理解できたようだ。つまりずっと本気じゃなかった。

 技を解かれた水希ちゃんは、立ち上がらず。ぼーっと放心状態。

 ふと見た視線の先で、さっき浦島太郎のようなこと言っていた男が、もう一人、女と共に組み手をしているが、始動から先が見えない。
 拳は、真っ直ぐ突き出したのに、ブロックを見ると、フック用。
 つまり、あのスピードで、軌道を変化させている。

 と、言うことは、遊んでいるのか、特殊な技があるのか?
 蹴りでは、前に向けて太ももを振り上げ、その後膝から先をけり出すときに、まっすぐ行くか腰をひねり、足先を回転させることで蹴り方向を変えることができる。

 だが、拳でそれは難しい。

 一体どんな鍛錬をすれば、と思ったら、よく見ると二人ともにこやかな笑顔。
 雰囲気は、えーい、和。やったなあぁ、こいつぅ。おかえしだあぁ。
 そんな感じ。
「あーうん。ラブラブね。やっていることは、非常識なんだけどね」
 スピードと、踏鳴(ふみなり)。中国武術で震脚(しんきゃく)と呼ばれるものも、床が抜けそうな勢い。

 それに、途中で入る、あの動きが止まるのはなに?
 見ていると、何かの折にふと、女のほうの動きが止まり、男がニヤける。
 あっ。見えないけど、分かった。きっと、抜き手か何かで胸の先をいじってる。
 受けた後、女のほうが、ちょっと頬を膨らませ胸を隠す。

 やっぱり、ラブラブね。楽しそう。


 見ていると、礼をした後。
 こんどは、棒術?
 それが終われば、刀剣?
 馬鹿なの?

 でも、やっぱり楽しそう。
 あれ、あの二人が完全に組なの?
 普通相手を変えて…… そうよ。あの二人、休みなし。
 ずっと、あのスピードで動いている。
 そして、あのおふざけは、必ず入ってくる。
 それも疲れたのか、彼女の意識が散漫になった時。

「凄いだろ。あれでも型と、体の使い方の練習だから、全力じゃないんだぜ。俺も大学生くらいになれば、あのレベルになれるかな」
 脳天気に一志が言ってくる。

「大丈夫よ。絶対あの二人、普通の人間じゃないから。あのレベルにはなれない」
「そうかなあ? 行けそうなんだけどなあ」
 一志はやっぱり一志ね。あんなの無理に決まっているじゃない。

「てんちゃん。相手して」
「ぬっ。一志殿か、なら本気でお相手いたそう。何分持つかな?」
 そう言いながら、謎の生き物がやって来た。

 そしてお互いに礼。
 あーうん。分かっていなかったのは私だけ。
 変な生き物も、本気の一志も化け物だった。
 だが、その本気の一志を、変な生き物はコロコロと転がす。
 的確な、指導付で。

 この時、水希が見える人なら、周りの数人が光に包まれて、動き回っていることに気がついただろう。念の強化をするためにずっと力を流したまま鍛錬をしている。
 その後、水希は道場へ帰ってきた。
 そして、コロコロと転がされる日々を送るようになる。
 それはそれは、楽しそうに。
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