上 下
33 / 50
第3章 貴族兼教祖時代

第33話 予想外

しおりを挟む
「なんだこりゃ。敵はとんだ腰抜けだな」
「ああ…… でも……」
 侵攻をするアントーン王国兵。

 中には目端の利く兵もいるようだ。
 そのような兵は、周囲に目を配り警戒をする。

 だが大多数は、気楽に進む。

 そうして、十日後ようやく敵が見えた。

 緩やかな丘陵の頂上付近、そこに陣を敷き、馬防柵ばぼうさくの様なものが見える。

 一人の騎兵がやって来る。

「ここを治める、辺境伯アルフレート=エックホーフだ。アントーン王国が何ようだ?」
「アウグスト=フィルップラ公爵だ、言わずとも理解できよう。この肥沃な土地我らが有効に使わせて頂く」
「では侵攻という事だな。どうなっても知らぬがよろしいか?」
「何を言う、ここまで逃げた腰抜け兵士しかおらぬのに」
 そう言って、嫌らしい顔でにへらと笑う。

「だから良いのだよ。時代は新しい時に突入をしたのだ、旧態依然きゅうたいいぜんとした考えは、破滅の元だ。じっくりと体験をして理解するが良いだろう」

 辺境伯アルフレート=エックホーフの言葉と、落ち着いた態度で、一瞬いやな予感がしたフィルップラ公爵だが、自軍に戻ると、進軍を開始をした。

 だが、坂の上にある自軍へ、まだエックホーフが帰り着く前に何かはじけるような音がする。

 飛来したそれは風魔法と火魔法が組み込まれた鉄の塊。
 先端が地面にぶつかると魔石が破壊される。
 その時放出される魔力を使い、魔導具が魔法を発動。

 風と炎。
 そうそれは、凶悪なことに、一気に十メートルほどの範囲を焼き尽くす。
 隊列を整えて並んでいた、アントーン王国兵にとっては、たまったものじゃない。

「おい逃げろ」
「誰か火を消してくれ」
 火薬による爆裂とは違い、それは広がり焼き尽くす。
 生きたまま焼かれるのは地獄。

 叫び声を上げながら散らばっていく。
 だが、飛距離は長い、少々走ってもその有効範囲からは逃げられない。

 その日、この世界の戦闘が一変した。

 ある程度撃ち込んだ後、掃討に入る。

 必死に逃げ惑うために時間はかかったが、数時間でアントーン王国兵は完膚なまでに殲滅された。

 生き残り、逃げられたのは数十名だったようだ。

 それは、王都へまで伝わることになる。
 軍務卿イレール=ヴァイヤンによる暴走。
 だが当然相手も居ること、アントーン王国だけの問題ではない。

 その後、素直に和平に向かえば良かったのに、腰抜けな王は、臣下の後押しにより再侵攻をすることになる。

 雪の降る前に急ぎ、再侵攻。

 だが今度は、国境である国境の川。
 いつの間にか、そこの堤に壁が作られており、そこから砲撃を受けた。

 そう、こんな事をするのは一人しか居ない。


 第一次アントーン王国侵攻作戦。
 圧倒的な勝利後、すぐに、ベルンハルト王国、王都シュヴァカルマンへ、そう国王アレクサンデル=エーヴァストの元に勝利の報がもたらされる。

 連絡兵は、ひどく興奮した様子で伝えられたと記されている。

「どう思う?」
「欲しいならまたくるし、調停を望む使者もまだない様子。どれ、防御だけは行いましょう」
 そう言って彼は立ち上がった彼の脇で、娘シャルロットは女の顔で彼をうっとりと見つめる。

 そう、色々とあった。

 功績により家を貰い、改修とお披露目。
 そこに、教皇、マリーナ=デルリオ=アプロディーテーがやって来て、王都大司祭マモンを更迭こうてつ、この王都には大司祭を置かないことに決まる。

「ええ? だって、あなた様がいるのですもの」
 前にあったときとは、随分違い、妙にかわいくなっていた。

 周りで、ハラハラとみていた、ヴァレリーとベルトーネが暴走をする。
 そう取られまいと、脇を固める。

 相手は権力者。
 方や冒険者、方や商店の娘とはいえ平民。
 相手は教会のトップ。
 そして、最近うろうろとしているお姫様。

 その不安は大きく、そして乙女心を締め付けて苦しむことになる。
 ヨシュートが偉くなるのは嬉しい。
 貴族になった時も、変わらず愛してもらえた。
 でも、身分差は気になる。

 そして今度は、王とため口。
 あげく、幾度も城に呼ばれて王が国政について相談をする。
 宰相もビックリだ。

 だが、専門家でもないのだろうが、資料を見せて説明をするとポンポンと解決案が出てくる。

 そう日本のサラリーマンを舐めてはいけない。

 複数の草案を一晩で用意して、少ない手間で最大の効果を上げるという離れ業で難問を解決をした。

 例えば、各領で通行税などを取るため、商人はそれを回避する。
 そのため、裏街道なるものが到る所に出来上がる。
 だがその分盗賊などの危険が増え、結局流通が滞る。

 調べると、ひどい領は入領と出領で金を取っていた。
 更に荷物が多ければ、街道維持費という名目で、重量税などと言う物まで。
 その金額は、国境から王都まで往復をすれば金貨が何枚も必要となる。

 そしてその領で、その金は何に使われているかと思えば、贅沢と賄賂である。
 そう、国に入るときに国へ税を払い、街道の改修が必要なら各領から予算申請をさせる。そういう風に変えた。

 それだけで、商品は安くなり裏街道は消えた。
 当然、一部の領主からは苦情が出たが、領の帳簿を調べ、脱税により幾つもの家が最悪取り潰しにまでなった。

 そして街道も、地盤を固め砂利を敷き込み石を敷く。
 それだけで、随分移動しやすくなった。

 王はその事を褒めまくる。そんな彼に、お姫様も興味芯々。
 そして二人は、近くでガードをしたために、彼に触れ引っくり返った。
 そう、それは姫様達二人の興味を引く。

 示し合わせた様に、姫様達はヨシュートに飛びつく……
 覇王となるべく与えられた力が発揮される。
「英雄は色を好むべし」
 どこかで、最悪な女神の高笑いが聞こえた気がする……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...