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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第76話 そうは言ったが、空へ

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「そう言うことで、此処は宇宙だ」
「えっいま、竜司様の自室でしたよね」
 いきなり変わった周囲。

 困惑をしている悠月をつれて、一段上階の展望室へ向かう。
 壁を透過して景色を見せる。

「ふわぁ、すごいです。此処って重力はどうなっているんですか?」
「床に向けて一Gが掛かっている。切ることもできるしすべての壁に対して重力を与えられるが、人間だと酔うかもしれない。さて下へ行こう」
 下ではマイリが準備を終えていた。

 衝立は残してあるので、脱いでポッドへ入って貰う。
 その辺りのフォローはマイリに任せる。

「大丈夫でしょうか?」
「どうした?」
 少しマイリが困惑顔だ。

「さっき来た時に、コンソールに通知が来ていて、この宇宙船…… 基本システムが、大幅なアップデートが行われていたようです。それが、ログによると高速飛来が増えた隕石等への防空システムと、その、ポッドに対する変更が見られます。そのユニット名が人類補完機能というのが入っていたんです。それは、地球人が入ると勝手に動作するようで切れなくって。多分賢者様が、何かを思って追加されたと思うのですが」
 そう言って不安そうなマイリ。
 そっと抱きしめて、背中をさする。

 だが竜司も報告を聞き、内心では、とってもやばいタイミングで、悠月を入れたのではないかと少しドキドキする。いわゆる人柱的な。
「まあ大丈夫だろう。基本は遺伝子の調整と、強化かな。ひょっとすると上位エネルギーとの親和性を強化したのかもしれないし。丁度俺が、昨日言った寿命についての調整かも知れない」
「そうですよね」

 そうは言ったが、これまでに集められたデータから、劣勢因子の排除や筋組織の効率化。免疫システムの見直しと改善。
 人として、一歩先を行く生物としての強化が行われていた。

 それは脳のシナプスの流れまで変更され、脳梁のデザインにまで改造が及んでいた。
 脳梁とは左右の脳半球を繋ぐ神経の束である。大脳では女性の方が繊維数が多く小脳では、男性の方が多い。
 そして、新皮質の外側にもう一層、細胞が追加されていた。

 此処に、初の人類を越えた人類。
 ハイヒューマンの悠月が創られた。

 起き上がった悠月は、臆することなくポッドから出てくる。

 世界がクリアに見え、今までと違うことを理解できる。
 そしてその知性と落ち着きは、他者を魅了する。

 体を廻るエネルギー、それは上位の力。
 体にシールドを纏いながら、軽く正拳を打ち出してみる。
 その拳は音速を超える。
 生物的限界は、エネルギーを用いた言わば補助魔法がサポートをする。
 心肺機能の強化により、効率的に酸素をエネルギーとして使用し行動をする。
 それプラスで、上位のエネルギーを代謝に使える。
 まさに完全体。

 身長は、骨格の補正により五センチほど伸び胸囲も差が一五センチほどになっていた。カップはCへと進化。
 むろん、後日それに気がついた、風夏は泣くことになる。

 そして、その変化は、かぐや達を勘違いと混乱に陥らせることになる。
 そう、竜司に抱かれると、人として一足飛びに進化をすると。

 まあ前後の流れを見ると、ポッドに入った情報が抜けている彼女達。
 混乱をしてもおかしくはないが、上昇志向の強い者達が、そう思い込み、そのままにしておく訳がない。
 虎視眈々と、そして結構あからさまに竜司は狙われ始める。

 その前に、マイリと竜司。そして伶菜はポッドへ入りに来た。
 すると、マイリの方はドラガシメルの因子を入れられたようだ。
 多分保存されていた本人のものだろう。


 さて、変わってしまった四人。
 マイリと竜司。そして伶菜はまあいい。
 一人混ざった、悠月。

 聞けばまだ、お手つきになっていないと本人は告白をする。
 だが、その変化は明らかで周囲を圧倒する。

「最近、お付きであるはずの神馬さまが、なぜか大きく見えません?」
「そうですわね。光が強く神宮路様達が、少しくすんだように見えますわね」
 おじいさまが開いた園遊会での会話。

 それは学校でも同じ。
「テストを返す。佐藤グループと神馬。百点だ」
 そう竜司達、調整を受けてから彩まで百点を取るようになっていた。
 むろん、地頭が変わってから、伶菜とまどかに囲まれて、小学校から勉強をやり直した結果だ。

「次点は、神宮路。久賀そして織戸が一点差。その下は堀部が三点下。後は適当に取りに来い。点数を発表したい奴は言ってくれ。発表してやる」
 そう言って、教壇の上にどさっと置かれる。

「しかし、いつの間に鈴木は、そこまで賢くなったんだ? あんなに残念な奴だったのに。もう少し賢ければ良い女性だと常々先生は思っていたぞ。よかったなあ。残念な奴から抜け出せて。これで魅力的な女性として、胸が張れるな。前は残念だった……」
 細矢先生のお褒め? がドンドン彩に突き刺さる。

 そして、驚愕は神宮路グループでも。
「悠月が百点?」
 そう一言言って、呆然とするのはもちろん都賀風夏。
 今まで、日々の鍛錬に重きを置くため、二人とも五〇点前後をうろうろしていた。

 親たちからの、主人に恥をかかせるな。
 それが、イベント事に言われていた。
「赤点だと。ふぬけが、滝行をして気を引き締めてこい」
 そう言って、家から蹴り出されたこともある。

 神宮路達も、表情を変えないが。
「神馬さん。素晴らしいですわね。努力なさったわねぇ。やはり殿方のためにかしら?」
 そう言って、チラリと目だけが竜司に向く。
 竜司は、彩の頭をなでて、慰めている。

 ほんの少し前まで、こんな状況になれば、恐縮をしていた悠月だが、そんな事は些細なことと、高みから皆の行動を見つめていた。
「そうですわね」
 ただ一言、そう返す。
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