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第五章 ネメシス王国

第40話 ゆっくりした世界

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「何か走ってきましたね」
 エヴァンジェリ王国軍から、使者らしきものが馬に乗ってやって来る。

「問題は、あの後ろで起こっている騒動だな」
 隊列の後ろの方で、騒動が起こっている。
 ひとまとまりのグループを、周りが攻撃をして、大騒ぎをしているようだ。

 そんな事は関係無いとばかりに、使者は近くへやって来ると、馬から飛び降りて、おもむろに頭を下げる。
「ネメシス王国の隊でしょうか?」
「そうだ」
 そう答えると、使者の表情が変わる。

「おお。ではやはり…… 帝国は無くなったのですね」
 そう言って、いきなり泣き始めた……

 思わず、ニクラスと顔を見合わせる。

「いや、突然申し訳ない。王から突然派兵の話が降ってきて、聞けば帝国が倒れたと言うではありませんか。―― みんな、半信半疑で兵を出し、ここまで来た次第。そちらの旗と兵装を見て、先走った者達があそこで、王の手先ともいえる者達を捕らえています」

 そう言って、辺境伯。テレンス=ホーキンズ侯爵は笑う。
 なんと、侯爵自身が我慢が出来ずに、自らが使者としてやって来たようだ。

 彼らの話はこうだ。
 のものが、謀略により王位に即くと、帝国から宰相であるアルチェミー=ムラヴィや、軍務卿フィリップ=ポズニャコフなどが次々に入ってきて、国政を帝国にとって良い様に操りだした。

 王は、見目の良い娘や特産物を各地の領主から供出させ、私腹を肥やす。
「集めた娘達を自分が味見。その後は、帝国からの使者に遊ばせ。最後には帝国へと売っていたのです」

 そう言って、悔しそうな顔をする侯爵。
 それは、主立った貴族に対してそれは行われ、文句を言ったり反旗を翻せば、国賊として一族ごと始末されたらしい。

「地獄のような、十数年でございました」
 そう言って、さめざめと泣いている。

「ここも同じか」
 つい口から出てしまった。

 子供の頃に見た帝国からの親書。
 双方にとってザルだが、こちらに余力がなかったために、好きなようにされてしまった。
 属国と言うよりは、搾取のための狩り場。

 ニクラス達に聞いてもそんな事は知らず、国の上層部。一部の人間だけが私腹を肥やすためのシステム。
 実際、書類を見つけて読むと、上級の貴族が搾取をして、派閥の者達に報償として配っていた。そう、皇帝たちに連なる者達のための仕組みだ。
 相当、楽しい生活だっただろう。

 当然こいつらは、すべて潰した。
 金の流れを見れば、芋ずる式に追うことが出来た。
「ああと。すまない」

 場に居る皆の目が、俺に注目をしたまま固まっている。

 知らない間に、あの時の悔しさを思い出し、どうも、涙を流していたようだ。
「大丈夫か?」
「何がだ?」
「話を聞いて泣いていただろう?」
「気のせいだ……」
 そう答えると、ニクラスがにまにましている。


 そんな頃。
「ふうむ。精霊まで味方につけたか…… やばい時用にチート能力を用意していたのだが、必要ないようだな」
 覗いていた神は、ため息を付くと、一振りの刀。
 聖剣をそっと消す。

 そして、チート玉も……
 それは、今使っている精霊魔法の上位版。
 苦労するようなら、与える用意もあった。
「しかし、知識があれば、精霊程度の力で魔人を殺せたのか。文系のわしには想像が出来んが…… やれやれ、勉強不足じゃな」

 そして、オネスティが寝ているときに、お告げがやって来る。
「魔人は、うぬの力により消滅をした。ご苦労。後は、この世界に安寧を与えよ。よろしく頼む」


「うわっ」
 思わず飛び起き、周りを見回す。

 そして頭を抱える。
 あの声は、目覚ましには持って来いだが、今何時だよ……

「魔人が消滅をしただって?」
 燃えている途中で。封印をしたはずだが……

「まあいい。後は、この世界に安寧を与えよ。か、どんだけ人使いが荒いんだ」
 まあ、言われなくとも、この世界はまだまだだ。

 だけど、精霊達は便利だし、持っている知識で何処まで近代化が出来るのか。
 火による急激な生活環境改善は、色々と問題があるし、どうしたものか……

 電気と言っても、発電を火力に頼れば一緒だしな。
 地球じゃ、EVだと言いながら、その充電のために火力発電で大量の石炭を燃やしていたが、あれじゃあ、蒸気機関と同じだ。

 火を起こし、水を沸騰させタービンを燃やす。
 そこで発電された電気を、車へ…… 送電や充電。そこで生まれるロスが、どうしたって深刻だよなぁ。

 そんな事を悩んでいたが、数年後。
 奇妙な蒸気機関車が走っていた。
 基本はピストンとシリンダーを使い蒸気圧で走るが、発電もして、シャフトの動力もサポートに使う。そして発進時や上り坂はさらにモーターでトルクをサポートして走る。機関車自体は、非常に大型になったが仕方が無い。

 国の中で、原油の自噴も見つけたが、国が秘匿をして一般には広げない。

 一般では、植林をして、計画的に薪を作り利用をする。
 蒸気機関を含む機械動力は、公共交通のみで、馬以外は個人所有を禁止。

 それでも、列車を使えば馬車よりは速いし、盗賊には会わない。

 オネスティは考えた。
 下手に、高速化をするから世界がおかしくなる。
 この世界は、ゆっくりと回そう。
 幾ら便利にしたって、人間の本質は変わらないんだ。
 衣食住と衛生環境を重点的に整備。

 そうして、流通の改革を行い、色々なところに色々な産地から物はくるが、大規模店ではなく、個人商店を増やして雇用を作る。
 昭和時代の、地元密着型の生活を基本として、ラインの効率化は天災や事故。不測時の混乱を招くから流通系統にわざと無駄を作る。

「ええと、衛生環境は作った。流通を公共サービスとして、国が管理。後は何だ?」
 基本は、蒸気機関による工業化を行い、必要なところに、小規模な火力発電所を設置。
 送電ロスをなるべくなくす。
 そうすることで、規模も抑えられる。

 問題は、薪が足りない……
 増やせば環境が……
「うがあぁ」

 気が付けば、百年が経過をして、皆はずいぶん前に…… 先に逝ってしまった。
 神様に、まだ世界の安寧を認められていないのか、俺はあれから年を取らず。ずっとこの世界をよくしようと試行錯誤をしている。

 あれから、戦争は起こらず。平和なのに。
 今日も、巡視がてら奇術団が巡業をしている。
 そして、オネスティは、荷車の上で寝転がりながら思い出す。

 ニクラスが言った、今際の言葉。
「人を騙して借用書にサインさせたり、色々やったが、お前は存在自体がペテン師だったのか」
 などと、最後の最後に言う言葉がそれだった。

 亡くなる少し前には、俺の秘密を皆に言ってからお別れをした。
 皆、今まで聞くに聞けなかったようで、納得をしてくれた。
 そして言う一言……

「あなたは、これからも人を騙して笑顔にしてね」
 とかさ、
「やっと言ってくれた。でも、あなたと暮らし始めてからは夢のようで、十分幸せだった」
 とか言われて、皆を見送った。

 彼らの希望だった、皆が幸せな世界を創ろう。

「そうしないと…… きっと、俺は死ねない気がする」



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 お読みくださり、ありがとうございます。
 展開をスピーディーにしてみようと思ったら、十万字に届かなかったという大誤算。
 後六千字くらい何とでも出来そうですが、この辺りで……
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