37 / 40
第四章 帝国の滅亡へ向けて
第37話 調印式。そして帝国は消滅をする
しおりを挟む
一,シュプリンガー帝国は、すべての権利をネメシス王国へ移譲する。
二,帝国貴族も同様。すべての権利をネメシス王国へ移譲する。
調印書には、その二行。
事実上の無条件降伏。
これにより、帝国は事実的に滅んだ。
調印は、今現在皇帝もおらず、妃も魔人に殺されたため、子どもと思ったが、残念ながら子どもが居なかった。宰相では足りないから、各方面の行政官達も連名をする。
一応帝国の印は押されている。
その手前で、こんな話し合いがあった。
「おい皇帝がいない。ニクラスお前皇帝になれ」
「わずか一日だけの皇帝なんか、いやだよ」
「我が儘な奴だな。履歴書に前職皇帝ってかけるんだぞ」
「履歴書って何だ?」
「仕事を貰うときに、書いていく書類だ」
「ひどいな。俺首なのか?」
「それは困るな……」
「ならいい」
そんな茶番。
まあそんな事はあったが、無事に帝国は無くなった。
ひどくあっさりと事が終わったが、その道のりは長かった。
そして、暫定的だがフレーベ侯爵を侯爵のまま、元々の自領を含めて治めるように命令書を出す。帝都が丁度中間くらいだなと言うことで、北側すべても自治を投げる。
聞いた本人は、一瞬だけ喜んだがふと考える……
国の半分。
一体どうやって治めるのかと……
彼は途方に暮れる事になる。
今までの区分で代官を置き、何とかするしかないと考えていると、貴族の心得みたいな文書が渡される。
農奴を含め、奴隷は禁止。
代官などによる罪は、連座制として、上部貴族がその責を負う。
住民台帳を作り、きっちりと把握すること。
農地の広さを計測をして、収量の概算を計算して、税の収量をあらかじめ計算すること。
天候不順などは、係数を用いて推測し、隠蔽などの調査を行うこと。
等々……
意外と細かに決められていた。
問題は、地方税が最大二割。国税二割。
今までは、税が九割といいながら、結局農民からはすべて取り上げ、農民は雑穀や野菜で飢えをしのいでいた。
そして読めば、飢饉などの災害時は、領主が負担をして民を救済。
不足分は、国に必要分を請求すること。
その時、虚偽があればその罪を問う。
暫定法だと聞いたが、かなり細かに書かれていて、厳しい。
「これでは、貴族がまるで民の庇護者ではないか」
そんな言葉が、侯爵から出る。
これは、メーヴィス王国時代に失墜した貴族の威厳を取り戻す意味もあり、骨子はネメシス王国側でも実施されている。
そして、貴族に必要以上の力を持たせないためという意味もある。
「参勤交代させようかなぁ」
などと、ぼやいた事もあるくらいだ。
「王様、報告があります」
「何だ?」
王であるウェズリーは、いつもの様に手を伸ばす。
だが、それを無視して、言葉が続く。
「オネスティ様が、帝国を落としました。本国に土地を編入した旨と、これから領地を治める貴族を決めるから、承認をするようにとのことでございます」
「はっ? 帝国? 落とした…… どうやって?」
それを聞いて、王座から半分ズリコケながら聞いてくる。
「さあ? わたくしのような、浅慮な者には思いも及びません」
宰相も、考えが浅いと言われ続けて、とうとう本人も理解した様だ。
そして、帝国側では吟遊詩人とは別に、公布人という者が街角に立つ。
国民の識字率が低いためだ。
「帝国の皇帝は悪行からモンスターとなり暴れまわった。これに帝国では対応できず、助けを求める。ネメシス王国へと。依頼を受けたネメシス王国は強く、あっという間に魔人となった皇帝を封じ、国を救った。そして悪政のためボロボロだった我が国を救済するために、自国へと組み込んだ」
公布人は聞いている民の反応を見ながら続ける。
「ネメシス王国の決まりにより、税は半減。日照りなどの災害時は、その救済を貴族が行う事になった。貴族で力が及ばないときには、国が救済を行う」
「「「おおおっ」」」
耳障りのいい言葉に、民から反応があった。
「そのために、住民帳を作り、住まいを登録をする。何かあって援助をするときに困るからだ」
決して、税を確実に取るためだとはいわない。
そう、まるでどこかの国のようだ。
「冒険者などの人間はどうするんだ?」
「冒険者や行商人などでも定住出来る拠点がある者は、その領へ税金を払う代わりに、怪我を負ったときなどは生活の保障をもらえる。そして、現役で移動しまくる冒険者は、領を出るときに、ギルドに連絡すればギルド間で取りまとめをしてくれる。どうだ面倒は、移動時に書類を出す手間だけだ」
保障のための、保険料が税金とは別に引かれるが、そこはまあ良いか。
「それと病気や怪我のときのために、健康保険制度も始まる。何かあったときにその札を持っていれば、治療費を払わなくてよくなる。その代わり、月々幾ばくかの金は要るがな」
そんな感じで、各町や村に現れて説明をしていく。
そう日本で行われていた、社会保障制度をこそこそと組み込んでいく。
ただ年金は、老後貯蓄制度と名称を決め、収入から貯蓄分を非課税とした。
国として将来的な、物価や貨幣価値が予測できないからだ。
そうして静かに、どさくさに紛れて内政を整えていく。
二,帝国貴族も同様。すべての権利をネメシス王国へ移譲する。
調印書には、その二行。
事実上の無条件降伏。
これにより、帝国は事実的に滅んだ。
調印は、今現在皇帝もおらず、妃も魔人に殺されたため、子どもと思ったが、残念ながら子どもが居なかった。宰相では足りないから、各方面の行政官達も連名をする。
一応帝国の印は押されている。
その手前で、こんな話し合いがあった。
「おい皇帝がいない。ニクラスお前皇帝になれ」
「わずか一日だけの皇帝なんか、いやだよ」
「我が儘な奴だな。履歴書に前職皇帝ってかけるんだぞ」
「履歴書って何だ?」
「仕事を貰うときに、書いていく書類だ」
「ひどいな。俺首なのか?」
「それは困るな……」
「ならいい」
そんな茶番。
まあそんな事はあったが、無事に帝国は無くなった。
ひどくあっさりと事が終わったが、その道のりは長かった。
そして、暫定的だがフレーベ侯爵を侯爵のまま、元々の自領を含めて治めるように命令書を出す。帝都が丁度中間くらいだなと言うことで、北側すべても自治を投げる。
聞いた本人は、一瞬だけ喜んだがふと考える……
国の半分。
一体どうやって治めるのかと……
彼は途方に暮れる事になる。
今までの区分で代官を置き、何とかするしかないと考えていると、貴族の心得みたいな文書が渡される。
農奴を含め、奴隷は禁止。
代官などによる罪は、連座制として、上部貴族がその責を負う。
住民台帳を作り、きっちりと把握すること。
農地の広さを計測をして、収量の概算を計算して、税の収量をあらかじめ計算すること。
天候不順などは、係数を用いて推測し、隠蔽などの調査を行うこと。
等々……
意外と細かに決められていた。
問題は、地方税が最大二割。国税二割。
今までは、税が九割といいながら、結局農民からはすべて取り上げ、農民は雑穀や野菜で飢えをしのいでいた。
そして読めば、飢饉などの災害時は、領主が負担をして民を救済。
不足分は、国に必要分を請求すること。
その時、虚偽があればその罪を問う。
暫定法だと聞いたが、かなり細かに書かれていて、厳しい。
「これでは、貴族がまるで民の庇護者ではないか」
そんな言葉が、侯爵から出る。
これは、メーヴィス王国時代に失墜した貴族の威厳を取り戻す意味もあり、骨子はネメシス王国側でも実施されている。
そして、貴族に必要以上の力を持たせないためという意味もある。
「参勤交代させようかなぁ」
などと、ぼやいた事もあるくらいだ。
「王様、報告があります」
「何だ?」
王であるウェズリーは、いつもの様に手を伸ばす。
だが、それを無視して、言葉が続く。
「オネスティ様が、帝国を落としました。本国に土地を編入した旨と、これから領地を治める貴族を決めるから、承認をするようにとのことでございます」
「はっ? 帝国? 落とした…… どうやって?」
それを聞いて、王座から半分ズリコケながら聞いてくる。
「さあ? わたくしのような、浅慮な者には思いも及びません」
宰相も、考えが浅いと言われ続けて、とうとう本人も理解した様だ。
そして、帝国側では吟遊詩人とは別に、公布人という者が街角に立つ。
国民の識字率が低いためだ。
「帝国の皇帝は悪行からモンスターとなり暴れまわった。これに帝国では対応できず、助けを求める。ネメシス王国へと。依頼を受けたネメシス王国は強く、あっという間に魔人となった皇帝を封じ、国を救った。そして悪政のためボロボロだった我が国を救済するために、自国へと組み込んだ」
公布人は聞いている民の反応を見ながら続ける。
「ネメシス王国の決まりにより、税は半減。日照りなどの災害時は、その救済を貴族が行う事になった。貴族で力が及ばないときには、国が救済を行う」
「「「おおおっ」」」
耳障りのいい言葉に、民から反応があった。
「そのために、住民帳を作り、住まいを登録をする。何かあって援助をするときに困るからだ」
決して、税を確実に取るためだとはいわない。
そう、まるでどこかの国のようだ。
「冒険者などの人間はどうするんだ?」
「冒険者や行商人などでも定住出来る拠点がある者は、その領へ税金を払う代わりに、怪我を負ったときなどは生活の保障をもらえる。そして、現役で移動しまくる冒険者は、領を出るときに、ギルドに連絡すればギルド間で取りまとめをしてくれる。どうだ面倒は、移動時に書類を出す手間だけだ」
保障のための、保険料が税金とは別に引かれるが、そこはまあ良いか。
「それと病気や怪我のときのために、健康保険制度も始まる。何かあったときにその札を持っていれば、治療費を払わなくてよくなる。その代わり、月々幾ばくかの金は要るがな」
そんな感じで、各町や村に現れて説明をしていく。
そう日本で行われていた、社会保障制度をこそこそと組み込んでいく。
ただ年金は、老後貯蓄制度と名称を決め、収入から貯蓄分を非課税とした。
国として将来的な、物価や貨幣価値が予測できないからだ。
そうして静かに、どさくさに紛れて内政を整えていく。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる