メーヴィス王国は騙された。

久遠 れんり

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第四章 帝国の滅亡へ向けて

第25話 帝国の怒り

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「なに? メーヴィス王国からの親書? 随分久しぶりだが、懲りずに兵を引けという願いか?」
 皇帝カリスト=ウルバーノは、けだるそうに答える。

「ですが…… 封蝋の形が違います」
「ふむ」
 パキッと、蝋を割り、手紙を出す。
 手紙の裏には、見たことのない紋章が入っている。
 手紙にざっと目を通し、一言だけ宰相に伝える。

「潰せ」
 皇帝はそう言うと、手紙を宰相に投げる。
 受け取った宰相も目を通し、呆れた顔を浮かべる。

「うーん。こざかしい…… この王の名。たしか、第二王子ですな。ほうほう。王国の名を変え別の国だと。浅はかな。条約を破った罪。理解させましょう」

 礼をして、執務室を出て行く宰相。

 だが今は、丁度エッカルト王国とエルドランド王国に派兵して、兵の数が少ない。
「どうしましょうかねぇ?」
 宰相は考え、いいことを思いつく。

 見捨てられていた適当な貴族。今まで戦争に出ず、手柄のなかった伯爵級に声をかける。
 対象は三家。各家が兵をだして、全体で四千人ほど。

 だが、今まで徴兵されていないということは、素地が無い為、ほとんどの農民は棍棒くらいしか装備していない。

 エーリク=マクシミリアン伯爵家。およそ一千五百人。ナサリオ=ガルドス伯爵家。同じく一千五百人。レオンハルト=エッシェン伯爵家。一千人。

 だがこの中で、一番の狸はレオンハルト=エッシェン伯爵。
 最低の労力で、最高の功績を求める彼は、農民を減らし、兵と冒険者を起用。
 だがまあ、今回の相手がメーヴィス王国ということで、少し舐めていたきらいがある。

 そして、一月後。国境の町へと、兵達がやって来た。

 だが、国境の町はその雰囲気がすっかり変わり、静かになっていた。
 あるときから、いきなり商人の往来が途絶えた。
 この半年くらいは特に帝国側から、商人達の往来がかなりの数あった。だが、この一月ですっかり様子が変わる。その中の多くは、メーヴィス王国側へ武器を運んでいたオネスティの手の者だが、用事が済んだために当然来なった。

 町から見える距離に、メーヴィス王国側は、突貫で関所兼砦が建造されているようだ。
 昔在ったが、調印時のどさくさで壊された場所。
 むろん、帝国側にもあったが、言い訳と老朽化もあり同時期に壊された。
 そう自国の要塞がボロかった為、壊すからお前達も壊せと命令をした。
 それを深く考えずに、従った前王達。

「また砦を、建造中ですかな」
「どうやらその様だ」
「生意気な、一当たりしてくる」
 ナサリオ=ガルドス伯爵が、鼻息荒く飛び出していく。

「さあてと、どうなりますか?」
 他の二人は、傍観を決めるようだ。

 手前にある、高さ三メートルほどの岩が、国境線。境付近には、大きな岩がゴロゴロしている。

 その境に、木製の櫓が組まれている。
 そして、声がかかる。

「そこの帝国兵。こちら側は、ネメシス王国。何用があって侵入してくる。それ以上進めば攻撃するぞ」
「ネメシス王国だと? こざかしい。国としての約定を一方的に破棄しておいて、何を言う」
「約定? 知らんな、我が国と帝国が何かを交わしたとは聞いておらん。帰って頂こう」
「なんだとぉ」
 そう言って、ナサリオ=ガルドス伯爵は、国境線を踏み越えてしまった。

「無許可侵入を確認。敵国と認定をする。これより自国防衛行動を取る。敵、帝国軍。狙えー。放てぇ……」
 ネメシス王国側で、構えていた矢が放たれる。

「ふん素人め。矢の射程も把握…… がっ……」
 運悪く、ナサリオ=ガルドス伯爵は、一発目で頭を射貫かれて死んでしまう。

「伯爵様……」
 兵達はあわてて、遺体を引きずり帝国側へと戻る。
 被害者は、先頭に居た十人程度。
 だが、大将がいきなり死んでしまった。

「なんということだ」
 エーリク=マクシミリアン伯爵は激高する。
「ええい。メーヴィス王国のくせに」
 
 激高するマクシミリアン伯爵とは違い、レオンハルト=エッシェン伯爵は砦を睨んでいた。
「あそこからは、四百メートルから五百メートル。普通の矢がギリギリ届く程度。それなのに鉄製の兜を貫いた?」
 副官シモン=ミュレッセに耳打ちをする。

「はっ。少し、矢を回収して参ります」
「気を付けろ」
「はっ」

 何かを探す振りをしながら、両手はあげておく。
 国境からは、二十メートル手前にまで矢が刺さっている。
「信じられん」
 素早く引っこ抜き、自領へと戻る。

 抜くときに、かなり力が必要だった。

 自国側に戻りゆっくりと見ると、刺さった後、抜こうと引っ張ると鏃の裾が広がり、抜けなくなる構造のようだ。
「色々と考えているようです」
「だが、基本部分の見た目は、帝国の物と変わらん様だ」
 矢のバランスを見ながら、伯爵は答える。

「そうですね」
「だとすると、飛距離は弓の問題ですね」
 んーという感じで、考えている伯爵。

「弓が欲しいな」
 伯爵はつぶやく。

 だがそれを聞いて、副官は嫌そうな顔になる。
「無論、帝国のじゃなく。敵さんのですよねぇ」
 副官シモン=ミュレッセは、確認の為だろう。口に出す。

「当たり前だろう。この話の流れで、よく知っている、自国の弓をどうして欲しがる?」
 伯爵は眉間に皺を寄せて、呆れたように聞いてくる。

「伯爵ぅ。そんなもの。当然楽だからに決まっているでしょう。敵の要塞へ忍び込んで弓を取ってくる? それがどんなに危険なことか分かります?」
「解っているつもりだが?」
 当然だろうと、伯爵は答える。

「じゃあ、お願いします」
 そう言って、大仰に腕を大きく回して、どうぞとでも言うように手の先は要塞に向く。

「なんだ? 俺に行けと? 流石にそれは駄目だろう。俺は大将だ」
「部下の見本となるべく。さあさあ、威厳を見せるなら今です」
 嬉しそうに進めてくる。さあ行け、ほら行けと。

「あー。いやいい。急に興味が無くなった。拾えたら拾ってこい」
 それを聞いて、副官は胸をなで下ろす。

「そうですね。あの雰囲気なら、マクシミリアン伯爵が夜間にでも何かをする様ですし、少し様子を見ましょう」
 なんとなく、布にくるまれて運ばれていく、ナサリオ=ガルドス伯爵を見つめる。

「あんな事にならない為に、様子見をするか」
「そうです。得られるときには、こうやっているだけで、もらえるかも知れませんし」
「それなら楽で良いが、来そうなのは弓じゃなく矢の方だよな。普通」
「妙なことを言わないでください」

 そんな事を言ったせいか、夜襲に行った自軍の頭を越えて、レオンハルト=エッシェン伯爵の部下にも被害が出る。
「なんてこった。一キロ近くの距離。ここまで届くじゃないか。シモン。やっぱり貰ってきてくれ」
「いやです……」
 かれは、腰に手を当て、ふんぞり返って、きっぱりと否定する。
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