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第三章 奇術団

第11話 それは、災難でしたね

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 その小屋に明かりが点ったのは、二週間も過ぎた頃だった。


 それまで俺達は、町中で冒険者兼小屋をやり、奇術を見せる。
 は好評で、毎日のようにエーミル達は、猪や鹿を獲ってくる。
 ギルド分と販売用。

 ギルドの仕事は、個人ではなく俺達のチームで取ることにした。
 ニクラスに教えて貰った。
 個人で受けると、個人に点数が付く。チームならチーム。

 狩猟の場合は、売った金額。
 そこは、商業ギルドなどと同じ。
 ギルド内で、どのくらいの金が動いたのか?
 それが実績となる。シンプルで良い。
 ランクは、その金額で上がっていく。

 最初が、見習い。金貨一枚の仕事をしたところで、正式なギルド員となり鉄級。
 ランクを数字や文字で表記をしても、みんな判らないらしいので、金属や宝石でランクを示している。

 石コロとか、木札。これが見習い。
 正式なギルド員は鉄、黄銅、銅、銀、金、白金、金剛の八つ。
 そして、一つ上がるには、各十倍の金貨が必要。
 つまり鉄から、黄銅には金貨十枚の仕事が必要。
 銅に上がるには年間百枚分だね。

 そう実績は、一年で計算する。
 つまりサボれば、貢献度未達で、ランクが下がる。

 その分、上のランクは仕事は単価が高く、難しくなっていく。
 意外と割が良いのが、盗賊退治。
 賞金がかかっていると、一気にランクアップ。

 でだ、チームで受ければ、人数が多いから当然上がりやすい。
 だが何かあって、解散でもすると、実績はあるから見習いからではないが、鉄からまた、始める事になる。

 その辺りも考えたが、チームで頑張る。
 チーム名は『夢の奪還者』。
 国の奪還と、俺の夢。マジシャンとなり大きな舞台に立つ。
 そしてどちらも、人を喜ばせる。

 登録をしてから、皆が気にするらしく夢はなんだ? なぜ奪還と聞かれる。本当のことはいえず、言い訳をするが、『俺達は戦争孤児で、皆と幸せに暮らすために頑張るんだ』と、ストーリーを作った。だが、人に言うたびに仲間達皆が嬉しそうな顔をして俺を見る。結構恥ずかしいことが判った。だが、まあ良い。


 でだ、家に帰って見ていると、林の中でランプの灯りが揺れる。
 あの揺れは馬車だが、この世界、普通夜に馬車は使わない。
 危ないからな。

 見えないし、動物も出てくる。
 人が居れば、人身事故だし面倒。
 貴族などは、たまにひき逃げをするが……

 年長男組で、様子を見に行く。
 むろん剣を持って。
 俺の剣は黒く塗ってみた。
 草を焼いた灰を水に溶かして、それを刀身に塗り焼いてみた。
 アルカリ液だから…… 意外と何とかなった。
 ついでに、石けんも作った。
 単なる趣味だ……

 そして剣は、皆には告げないが、宵闇の大刀と名付けた。
 冥夜の剣としばらく悩んだが、真っ黒だから宵闇が勝った。
 まあ、そんな事は良い。

 エーミルとルカネン。俺とスヴェトとイサーク。
 足音を抑えて、林へと向かう。

 すでに馬車は、小屋へたどり着き、やっぱり人を運び込んでいる。
 ちらちらと、灯りに浮かぶ服装は商人ぽい。馬車も貴族のものとは違う。

 奴らは運び込むと、見張りも立てずに居なくなってしまった。
 すぐに次が来るのかと思ったが、かなり待っても来ない。
 
 小屋に近寄り、中の灯りを伺う。
 だが、やはり誰も居ない様だ。

 スヴェトに街道の方を見て貰い、灯りが見えたら呼んでくれと頼む。

 小屋に入り、机などをずらすと、床下からうめき声が聞こえる。

 階段を降りて、檻の中を見回すと紐で縛られ、猿ぐつわまでされた人間が八人も居た。
 紐をひどき、騒がないようにお願いしながら助けていく。
 紐や布は、貴重品だから持っていく。

 鍵の状態は元に戻し、何もなかったようにする。
 ひょっとして、同じような場所があるのであれば、そこと間違えたと別のアジトへ案内をしてくれるかもしれない。

 助けた人達は、暗くてよく分からないが、かなり小柄だ。

 遠回りをして、さらに足跡をごまかして家に帰り、ランプの灯りで助けた連中を見ると、見覚えのある顔が……

「あれ? 数日ぶり」
「えっあれ。オネスティ」
 銀翼の傭兵団、エステリさんとアウッティだった。
 他は見知らぬ子供達。
 身なりと汚れ具合から、農村の親無しかも知れない。

「ねえ、オネスティ悪いけれど水場は何処?」
「ああ、井戸はこっち」
 家の脇にある、井戸小屋へ案内する。
 エステリさん達が謝ってくる。
「ごめんね。匂うよね」
「いやまあ、想像は付くけど、命があってよかった」

 縛られてから漏らしたのではなく、彼女達、仕事中にニクラス達と離れ、川の方へちょっと用足しに行ったら、無防備な状態で攫われたらしい。

「それは、災難でしたね。着替えがないか、ジャンナ達に聞いてみるよ」
「ありがとう」

 そう言って、子供達はエーミル達に世話を頼み、あの小屋を見張る。

 だが結局、誰も来なかった。
 と言う事は、飲まず食わずで放っておくつもりだったという事。攫った人間の扱いが分かるというものだ。
 人さらいどもは、攫ったら、物としか見ていない様だな。

 昼間のうちに、俺達はいつもと同じく小屋は出したが、エーミル達はエステリさん達を送っていく。
 大体彼らは、町に来れば常宿を決める。犯人が分からない以上、ギルドには行かず宿へと送っていく。
 宿へ行くと、死にそうな顔をしたニクラス達がいたようだ。

 そして、エステリに抱きつき。とうぜん蹴られて、今度からはトイレでも横で見張るからと言って、また蹴られたようだ。

 そして彼らは、夕方になって、家に来た。

「ありがとう助かったよ」
 そう言うが、持っていた装備が二人分なくなり、痛手が大きいようだ。

「あの林に、小屋がある。昨日は来なかったから、今日は来るだろう」
「殺してやる。人さらいめ」
 ニクラス達が燃え上がる。

「殺すな。泳がしてアジトとかを教えて貰うんだよ」
 つい、頭を叩いてしまった。
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