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第4章 少しずつ変わって行く世界

第36話 混沌は混迷へ

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 私は今。何の話を聞いているの? 竜神? 玲己さんが…… 
 それに力? 昨夜取り戻した?

 今朝広がっていた、心地よさは、一司さんの力だったの?
 一司に抱っこされたまま、なつみは話の内容に困惑していた。

「それに、美月さんも放っておくの?」
「何かうだうだ悩んでいるみたいだな。その割に俺にお前をけしかけてみたり」
「私は良いのよ。多分認めてくれただけだと思うし……」
「勝手な言い分だ」
 そう言って、一司は笑う。

「フレイヤ達とも何かしているみたいだし、様子を見るさ」
「そう。それで、その抱っこしている調子の良い子はどうするの?」
「さあ? どうしたいんだお前?」
 一司は目の前にある、なつみの顔を覗き込む。
 当然、聞かれているのが自分だとわかっているが、自分自身もよく分かっていない。
 壮二の件があり、誰かに甘えたかっただけ。

「このまま、抱っこ」
 それだけ何とか答える。
「抱いちゃったら?」
「あん? こいつまだ高校生だぞ。学校に行けばやろーなんかいくらでもいるだろう」
「この家で暮らしちゃうともうだめよ。他の男なんか笑えるわ。ねえ、なつみちゃん」
 なつみは、うんうんと頷く。

「そうなのか?」
「圧倒的に強いオス。お金持ち。強すぎてこっちの体がもたないくらい。増やそうよ」

 なんか、そう言う玲己の顔が、切羽詰まった感じの顔になる。
「そりゃ失礼。ここの所、ベッドにお前しか来ないからだろう?」
「だって…… 癖になるんだもの。翌朝にはリフレッシュしたみたいに調子はいいし…… 昨夜は行ったら居なかったけど」
「ちょっと天界へ行っていた。鵜戸の家にある管理洞窟の歪みを見に行ったつもりだったが、古のポートがあってな。おかげで記憶と力をだいぶ取り戻した」

「ほうそれでか? なるほどなるほど」
 いきなり、玲己の雰囲気が変わる。
「竜神。なえるから出て来るな。玲己に体を返せ」
「良いものを見せてやろう」
 そう言った瞬間、玲己の顔が超絶美人に変化して体型も変わる。
「おお生身だと変化が辛いのう。どうじゃ。そそるだろう」
「あっああ。アリだな」
 その言葉を聞いて、なつみも見て驚く。

「だれ?」
「玲己だよ。今はわしの姿を写しているが。いかんな」
 そう言うと、姿と顔が元に戻って行く。

「骨格からいじると、負担が大きいな」
 そんな事を言って、額に汗を浮かべている。

「じゃあするな。玲己の体が壊れそうだ」
「さて、そこな小娘、こっち側へ来るのか?」
「うっ、うん」
 こっち側の意味が怖いけれど。

「よし。わしが許そう」
「ちょっと待て、勝手に許可するな。俺が捕まる」
「純愛なら良いんだろう?」
 ニヤッと笑いながら竜神が言う。

「そりゃこいつの親が納得して、約束でもすればだ」
「なんか言えば、金でも積めばよかろう」
「……そんなこと、何処で覚えたんだ?」
「こやつの知識」
「そうですか……」


 そんな馬鹿な騒動のあった、昼過ぎ。
 謎アプリにまた着信が来る。
〔ヨーロッパからの依頼も、通すことにした〕
〔どこですか?〕
〔ポーランド、ドイツそれとUKだ〕
〔良いですよ〕
〔準備が出来たら、通知するから。すまんな〕
 なんだか声が疲れているな、大丈夫か? 大統領。

 連絡を受けて時間を確認すると、午後4時には出発しないといけない。



  今回は、お姉さんとおっさんが立っていた。
 ゲートから出るといきなり話かけられた。
「神崎さん? 通訳のレオン・ノヴァックと協会のエヴァ・カミンスキです」
〔よろしく〕
 女子の方は、軍服を着ているな。
〔協会兼任、ポーランド特別軍特殊歩兵コマンド。ダンジョン特殊作戦中隊所属エヴァ・カミンスキです。今回は我が国の為、御足労をいただき、また我が国に対しお力添えありがとうございます〕
 と言って、びしっと敬礼をしてきた。名前を聞いて、エヴァ・カナリスキかと思ったのに。髪はダークブロンドに瞳は茶色だな。野郎の方はダークブラウンかな? そんなことを考えながら握手をする。

〔農耕地すべてに、モンスターが入り込み。非常に困っています。ぜひとも対処をお願いします〕
〔分かった。ポーランドの範囲を確認するから地図をくれ〕
〔これを〕
 と言って、びしっと差し出して来る。

 美人なのになぁ。

 範囲を確認して、この辺りはオークまでだな。
〔必殺技。斬撃のダウンバーストで対処する〕
 キリっとした表情で宣言すると、なぜか笑われた。笑うとかわいいな。


 神崎。アメリカの息がかかった、モンスター駆除の専門家。どんな人間かと思えば普通のアジア人。
 これと言った特徴もない。黒い渦から出てきた時は驚いたが『必殺技、斬撃のダウンバースト?』何それ? ジャパニーズサブカルチャー厨2病かしら? 思わず笑っちゃったわ。

 でも…… 。

 彼が、技を使ったのはすぐわかった。
 突風が吹き抜ける。耳に装着していた軍事用戦術無線機のイヤホンから驚きの後に、モンスターが消えたという報告。
 私たちが1月以上一所懸命対応しても、少しも減らなかったモンスター。それが一瞬で消えた。

 彼の力は本物だわ。技名は変だけど…… 。

 思わず彼に抱きつきキスをしちゃったわ。もちろんあいさつの頬にするもの。
 彼は、びっくりしていた。
 ふふっ、意外とシャイなのね。

〔あー次に行くから、連絡してくれないか〕
 彼はそう言ったまま、黙ってしまった。

 ヤポーニアに興味がわいたわ。

〔神崎。連絡はしたわ。座標はこれよ〕
 そう言って、座標とプライベートフォーンナンバーを書いて渡すと驚いていた。
 電話をしてとメモにPlease call me.と書いたけど間違ったかしら?

 呼んでって、どういうことだ? 入社希望か?
 そう考えながら、ゲートをくぐる。
 ドイツの真ん中あたりにある 、ゲッティンゲンの運動競技場だった。

 立っていたのはおっさん2人。どうもおっさん率が高いな。

 来るのを、待ち構えていたようで、
〔神崎?〕
〔そうだ、待たせたのか?〕
〔こちらが、早めに待機していただけだ。ポーランドでの作戦開始時間を聞いていたのでね。私は協会のレオンハルト・メーラー〕
 と言って握手をする。
〔私は通訳のデニス・ヘンスラーなんだが、君ドイツ語を喋れるのだな〕
 と言って握手をする。
〔自分でも、よく分からん〕
 と言うと、2人が変な顔をする。

〔とりあえず地図をくれ。国土内のモンスター殲滅で良いんだよな?〕
〔それでいいが、本当にできるのか?〕
〔冗談を言って、どうする?〕
〔しかし、本国の軍が1月間に、延べ幾人従事したと思っている。それでも大した成果は上がっていない〕
〔まあ、見てもらってのお楽しみだな〕
 そういうと、2人が顔を見合わせる。

〔斬撃のダウンバースト〕
 そう宣言して、魔法を発動する。

 当然、周りに突風が発生する。
 協会のレオンハルトが耳を抑えて、変な顔をする。
〔ちょっと待て〕
 そう言って、突然駐車場から飛び出していった。
〔彼はどうしたんだ?〕
 通訳に聞くと。
〔さあ?〕
 変な顔をして、返事が帰って来た。

 15分ほどして、変な顔をしたレオンハルトが帰って来た。
〔本当に、モンスターが居なくなっていた〕
 そう言って、さらに何かを言おうとしたが、口をつぐんだ。

〔次はイギリスだな。連絡をする。座標はこれだ〕
 と言ってメモを渡して来た。

 座標は、嬉しいことにマン島だが、行ったところは、単なる空き地だ。
 だが、移動をしてきて耳をすませば、バイクのエグゾーストノートが聞こえてくる。サイドカーかもしれんが。

 やっぱり、おっさんたちが立っているが、どうでもいい。モンスターを何とかしないとレースをしている選手が危ないじゃないか。さっさと済まそう。
〔神崎? 私は……〕
〔地図をくれ。まずはそこからだ〕
 憮然とした、おっさんの一人が地図をくれた。

 うーんと、風はまずいから雷だな。
〔よし〕
〔ダーン〕
 と凄い音が鳴り響く。

〔神崎だ。よろしくな〕
 と言って手を差し出す。
〔ああ、通訳のセオドア・スミスだ〕
 握手をする。
〔協会のサイラス・エバンズだ〕
 握手をする。

〔もう対処はした。確認してくれ〕
〔先ほどの轟音か?〕
〔そうだ〕

 サイラスはあきれながらも、確認を開始する。

〔クリアだそうだ〕
〔じゃあもう良いな〕
 と言って、2人にバイバイと手を振りながら、音のする方へ俺は歩き始める。

 それを見て、2人は納得したようだ。
〔彼は、マン島TTのファンだったようだな〕
 サイラスが笑いながら、セオドアに伝えると
〔ここに参加するレーサーもクレイジーだが、彼も相当だぞ〕
〔ああ連絡を聞くと、すべてが一瞬だ。国土全体に、雷が降ったと報告が来た〕
 そうサイラスが答えると、セオドアが驚き。
〔あの一瞬で? 彼本当に人間かい? それはもう神の領域では? 〕
〔俺もそう思う。だが、今は単なるレースファンだな。スキップしながら走っていったぞ〕
〔ちがいない〕
 二人は、神崎の向かった方向を見ながら笑い出す。
 周囲には、クレイジーな排気音だけが響いていた。

 レースをやっている奴ら、どこか壊れているな。
 どこからともなく、お前が言うなと声が聞こえた気がした。

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