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第4章 少しずつ変わって行く世界
第20話 壮二。修学旅行の報告
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壮二も無事に、修学旅行から帰って来た。
表情を見ると、楽しかったようで何よりだ。
皆にお土産まで買って来ていて、いま家中が大騒ぎになっている。
「最初は、新幹線で奈良からだったよな」
「うん。新幹線。最初に京都へついて、バスに乗り換えて結構大変だった。だけど、新幹線の窓から見える、標識とか看板の読みあいをしたんだけど、誰にも負けなかったよ」
みんなが顔を見合わせて、そりゃあそうだろうと納得。
「でもね、僕以外が読めないから、本当かどうか分からないって言われちゃって」
「そりゃあ、そうなるな」
「新幹線。あんなにゆっくりなのにね」
「中学生なら、ダンジョンへも入っていないからな」
うんうんと、みんなが同意する。
真魚だけが、キラキラした目で、壮二の話を聞いている。やっぱり行きたかったんだろうな。
京都、奈良は家族で行ったけれど、クラスメートと行くというのは別格なんだろう。俺なんか、中学校の修学旅行の事などほとんど覚えていないけれどな。
覚えているのは、どこかのホテルで、部屋の窓を開けると眼下に広がる墓地で盛り上がったくらいか。
あの時は、その話で盛り上がって、女の子たちを呼んで稲〇淳二独演会を流して楽しんだくらい……。
その時、かぶった布団の中で、誰かに抱き着かれて? あれはどうなったんだっけ? いや、そもそも、うちの学校の子じゃなくて「お待ちしていました」とか言われた記憶があるな? でも顔とか全然覚えていないし、話も今まで忘れていた。
「ねえ一司お兄ちゃん聞いてる?」
「ああ悪い、なんだ?」
「奈良公園には、ちゃんと鹿が居るんだよ」
「そうなのか? 俺たちが行ったときには、どこにも居なかったじゃないか」
「ちゃんと居て、鹿せんべいをあげると並んで順番待ちをしてくれるんだよ。なんだか、おせんべい売っていたおばさんが驚いていたけれど」
「へー行儀がいいんだな」
「みんなは一斉にたかられたって言っていたけど、僕はそんなことは無くって、友達から鹿使いとか言われちゃった。お座りもちゃんとできたよ」
うん? 壮二も何かの能力が生えているのか?
「それに、東大寺大仏殿とかも、みんなで行ったときみたいに、軋んだり変な音がしたりもしなかったし」
「ああ、変な軋みな。パキパキとかミシミシとすごく鳴っていたもんな」
「その後も、近くのお寺とかを回っても、あんなに音がする所はなかったよ」
「そうなのか? 季節の問題かね。朝が寒くて日が当たると温まって音がするとか?」
「それに、家族で行ったときは、どのお寺で手水舎(てみずや・ちょうずしゃ)に行ったら龍の口から水がすごい勢いで噴き出していたけど、今回は、ちょろちょろだったよ。それと、三十三間堂もざわざわと頭の中で声が聞こえたり、ゴトゴトって鳴ったりもしなくて静かだったよ。いろんな所にも、変わった着物の女の人が立っていることもなかったよ。一司兄ちゃんは、あの時サービスイベントだろうとか言っていたけれど」
「じゃあイベントが終わったんだろう」
そう言うと、みんなから変な目で見られた。
「あれ絶対、一司さんを追いかけてきていたよね」
なつみちゃんがつぶやいた言葉が実は当たり。羅刹女たちが、一司を見つけて喜んでいただけなのよね。大体普通の人間、水の上になんて、立てないでしょ。
美月はその時の事を思い出す。
「そういえば、伏見稲荷大社の「おもかる石」すごく軽かったよ」
壮二が嬉しそうに発表する。
「何をお願いしたんだ?」
にまっと笑い、突っ込んでみる。
「えっ、言わなきゃダメ?」
「ああ言いにくいような願いなら、いいよ」
なつみちゃんが胸の前で手を組んで、何かを期待しているようだが、
「このまま、みんなで楽しく暮らせますように。ってお願いした……」
最後は、ぼしょぼしょ言っていたが、壮二らしい願いだな。
「大丈夫だろう。きっと……」
「一司さん。そこは、言い切ってくださいよ」
「まあ、石が軽かったなら、叶うんだろう」
パンと手を打ち、適当なことを言ってみる。
「まあ、壮二が楽しかったなら、よかったじゃないか。真魚も高校では行けよ」
「はい」
と言って、うんうんと頷いている。
その後、壮二は自身の部屋へと戻り、荷物を片付けながら、思い出す。
伏見大社で、女の子3人が一時間経っても千本鳥居から出てこない。
そう言って、行方不明になった子たちと、同じ班の子たちがおろおろしていた。
それが目に留まり捕まえて説明を聞くと、何度もくぐってみたけれど中にも居なくなっている。
先生に言っても、どこかへ出ただけだろう。
探してみろとだけ言って、戻ってしまった。
話を聞き、その慌てた様子を見た壮二は、放っても置けず、みんなの入った側の入口へと近付き、中を覗き込む。
だが中には、幾人かの観光客が、スマホを片手に動画や写真を撮っている平和な光景。
「どこからも、出てきてないんだね」
そう聞くと、残された3人はそろって頷く。
壮二はダンジョンシステムにアクセスする感じで、意識を広げる。
鳥居の入り口に空間の境目がある? これか? 魔力を体に巡らせて、両手で押し込んでみる。
その瞬間、見えない何かがはじけた。
すると、動画を撮っていた観光客の前に、女の子が突然現れて、ぶつかってしまった。
「きゃあ」
「うわっ」
人にぶつかった女の子は、
「出られた。あっ、いや、ぶつかってすみません」
と謝る。
だが、男たちは、
「らっきー。いやぁ、ねーちゃん。かいらしなぁ。ぶつかったわびに、茶でもしばかん?」
下卑(げひ)た笑いを浮かべて、そんなことを言い出した。
表情を見ると、楽しかったようで何よりだ。
皆にお土産まで買って来ていて、いま家中が大騒ぎになっている。
「最初は、新幹線で奈良からだったよな」
「うん。新幹線。最初に京都へついて、バスに乗り換えて結構大変だった。だけど、新幹線の窓から見える、標識とか看板の読みあいをしたんだけど、誰にも負けなかったよ」
みんなが顔を見合わせて、そりゃあそうだろうと納得。
「でもね、僕以外が読めないから、本当かどうか分からないって言われちゃって」
「そりゃあ、そうなるな」
「新幹線。あんなにゆっくりなのにね」
「中学生なら、ダンジョンへも入っていないからな」
うんうんと、みんなが同意する。
真魚だけが、キラキラした目で、壮二の話を聞いている。やっぱり行きたかったんだろうな。
京都、奈良は家族で行ったけれど、クラスメートと行くというのは別格なんだろう。俺なんか、中学校の修学旅行の事などほとんど覚えていないけれどな。
覚えているのは、どこかのホテルで、部屋の窓を開けると眼下に広がる墓地で盛り上がったくらいか。
あの時は、その話で盛り上がって、女の子たちを呼んで稲〇淳二独演会を流して楽しんだくらい……。
その時、かぶった布団の中で、誰かに抱き着かれて? あれはどうなったんだっけ? いや、そもそも、うちの学校の子じゃなくて「お待ちしていました」とか言われた記憶があるな? でも顔とか全然覚えていないし、話も今まで忘れていた。
「ねえ一司お兄ちゃん聞いてる?」
「ああ悪い、なんだ?」
「奈良公園には、ちゃんと鹿が居るんだよ」
「そうなのか? 俺たちが行ったときには、どこにも居なかったじゃないか」
「ちゃんと居て、鹿せんべいをあげると並んで順番待ちをしてくれるんだよ。なんだか、おせんべい売っていたおばさんが驚いていたけれど」
「へー行儀がいいんだな」
「みんなは一斉にたかられたって言っていたけど、僕はそんなことは無くって、友達から鹿使いとか言われちゃった。お座りもちゃんとできたよ」
うん? 壮二も何かの能力が生えているのか?
「それに、東大寺大仏殿とかも、みんなで行ったときみたいに、軋んだり変な音がしたりもしなかったし」
「ああ、変な軋みな。パキパキとかミシミシとすごく鳴っていたもんな」
「その後も、近くのお寺とかを回っても、あんなに音がする所はなかったよ」
「そうなのか? 季節の問題かね。朝が寒くて日が当たると温まって音がするとか?」
「それに、家族で行ったときは、どのお寺で手水舎(てみずや・ちょうずしゃ)に行ったら龍の口から水がすごい勢いで噴き出していたけど、今回は、ちょろちょろだったよ。それと、三十三間堂もざわざわと頭の中で声が聞こえたり、ゴトゴトって鳴ったりもしなくて静かだったよ。いろんな所にも、変わった着物の女の人が立っていることもなかったよ。一司兄ちゃんは、あの時サービスイベントだろうとか言っていたけれど」
「じゃあイベントが終わったんだろう」
そう言うと、みんなから変な目で見られた。
「あれ絶対、一司さんを追いかけてきていたよね」
なつみちゃんがつぶやいた言葉が実は当たり。羅刹女たちが、一司を見つけて喜んでいただけなのよね。大体普通の人間、水の上になんて、立てないでしょ。
美月はその時の事を思い出す。
「そういえば、伏見稲荷大社の「おもかる石」すごく軽かったよ」
壮二が嬉しそうに発表する。
「何をお願いしたんだ?」
にまっと笑い、突っ込んでみる。
「えっ、言わなきゃダメ?」
「ああ言いにくいような願いなら、いいよ」
なつみちゃんが胸の前で手を組んで、何かを期待しているようだが、
「このまま、みんなで楽しく暮らせますように。ってお願いした……」
最後は、ぼしょぼしょ言っていたが、壮二らしい願いだな。
「大丈夫だろう。きっと……」
「一司さん。そこは、言い切ってくださいよ」
「まあ、石が軽かったなら、叶うんだろう」
パンと手を打ち、適当なことを言ってみる。
「まあ、壮二が楽しかったなら、よかったじゃないか。真魚も高校では行けよ」
「はい」
と言って、うんうんと頷いている。
その後、壮二は自身の部屋へと戻り、荷物を片付けながら、思い出す。
伏見大社で、女の子3人が一時間経っても千本鳥居から出てこない。
そう言って、行方不明になった子たちと、同じ班の子たちがおろおろしていた。
それが目に留まり捕まえて説明を聞くと、何度もくぐってみたけれど中にも居なくなっている。
先生に言っても、どこかへ出ただけだろう。
探してみろとだけ言って、戻ってしまった。
話を聞き、その慌てた様子を見た壮二は、放っても置けず、みんなの入った側の入口へと近付き、中を覗き込む。
だが中には、幾人かの観光客が、スマホを片手に動画や写真を撮っている平和な光景。
「どこからも、出てきてないんだね」
そう聞くと、残された3人はそろって頷く。
壮二はダンジョンシステムにアクセスする感じで、意識を広げる。
鳥居の入り口に空間の境目がある? これか? 魔力を体に巡らせて、両手で押し込んでみる。
その瞬間、見えない何かがはじけた。
すると、動画を撮っていた観光客の前に、女の子が突然現れて、ぶつかってしまった。
「きゃあ」
「うわっ」
人にぶつかった女の子は、
「出られた。あっ、いや、ぶつかってすみません」
と謝る。
だが、男たちは、
「らっきー。いやぁ、ねーちゃん。かいらしなぁ。ぶつかったわびに、茶でもしばかん?」
下卑(げひ)た笑いを浮かべて、そんなことを言い出した。
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