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第4章 少しずつ変わって行く世界

第1話 本日、所により騒動が降って来るでしょう

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 世界中の大陸部分で、春先に発生した、ダンジョンの氾濫が落ち着いてきた頃。
外務省経由ではなく、在日米国大使経由で総理大臣宛に連絡が入る。

〔こそっと行くけどさ、放っておいて〕
「…………」
「何だ、これは?」
 総理と、官房長官は首をひねる。
「来るのは、確かなのだろうが、予定はどうなっている? 放っておいてとは?」

 そんな事を言っていた、数時間後。
 監視レーダーに機影が映る。
 スクランブル対応する自衛隊機に先んじて、米軍所属F-35がすでに飛んで行っている。

各現場では、様子がおかしい事と、米軍の動きにより政府関係に確認が入るが、「もしかすると、アンノウン。正体不明機は、エアフォースワンかも知れない。対応注意」

 そんな、とんでもない回答が、不確定の枕詞付きで帰ってきて、更に現場は混乱をする。
「対象回答。Air Force Oneの無線コール確認。大統領が搭乗していると思われます。なお、ちょっと横田に寄るけど、放っておいてとの回答が繰り返し来ています。どうぞ」

 当然、関係各者パニックである。
 誰かが言った、
「ありえねー、どうすんだよぉ」
 そして、さらに数時間後。

〔ここで間違いないのか?〕
〔会社の、登記上はこちらですね〕
 目の前に広がる400坪の更地。事情を知っている人から見ると、周りを巻き込んで広がっているのだが、この二人は当然そんな事情は知らない。
 外ナンバー複数台と、アメリカ政府の番号標の付いた車が周りを囲んでいる。

〔これは、予想外ですな。とりあえず電話をしてみましょうか?〕
「はい、神崎」
〔やあ、ミスター神崎。今、会社の住所に来ているのだが、何もないんだ。どうしてだ? どこに行けば君に会えるのかね?〕
「あー、ぷりーずうえいと、あかっぷる、せこんど」
 おれは、焦った。念話で叫ぶ。
〈たすけて、美月えもん〉

〈どうしたの?〉
〈電話の相手が、英語を喋っている〉
〈ちょっと待ってね〉

 なぜかぐったりした、フレイヤを連れて美月が現れる。
 電話を渡して代わってもらう。
〔お待たせしました。特別指定外来種対策会社、松沼がご対応いたします〕
〔ああこれは、申し訳ない。私は、ジャレッド・バタツギと申します〕
 それを聞いて、聞いたことがある名前だと、美月は気が付く。
 
〔それで今、御社の住所に来ているのだが、何もないんだ〕
〔ああすみません。いま、ちょうど、社屋を立て替えていまして。すぐお迎えに伺います〕
〔ああじゃあ、お待ちしています〕

〔なんだって?〕
 空き地の前で、通話をしていたが終わったようだ。
〔来るってさ〕

 そんなことを言っている間に、目の前へ黒い渦が湧き出して来る。
 その中から、男と女が出てきた。

 その瞬間。
 男たちのそばにいた、屈強なSPが反応をする。
 片手に十字架を持ち、もう片方の右手にはSIG Sauer P225。
 装填されている9×19mmパラベラムには、なぜか銀の弾が使われている。
「Devil, I pray for your return to hell」

 そう叫ぶと、9発全弾撃ち尽くそうと、引き金を引こうとした。
 しかし、指が動かない。
〔なんだ? デーモンめ、何をした?〕



 男たちが待っている場所へ、ゲートを開き出た瞬間。
 弱いが、殺気を感じてシールドを展開。
 それと同時に、濃密な殺気が周辺に撒き散らかされる。

 空からはハトや雀が落下して、虫でさえ苦しみのたうつ状態。
 人間など、一瞬で意識消失である。
 そう、彼は銃を抜いた勢いのまま、前方へと倒れ、意識を手放した。

 まるで、悪魔でも降臨したかのような場面が、リアルに再現された。

「なあ、美月。今こいつ、俺たちを撃とうとしたよな?」
「えーと、銃は抜いて、悪魔よ地獄に帰れ。みたいなことを言ったのは聞こえた」
 ため息をつく、一司。

「これは、お父さんの案件じゃなくて、もっと上だな」
 俺がぼやくと、周りを見ていた美月が、
「そうね、丸外マークとアメリカンなナンバーだから米軍かな?」
 と、推論を仰る。

 俺は預かっている携帯端末から、俺だよ俺と書かれた番号をタップする。
「ああ、すいません、神崎です」
「神崎君ひょっとして、もめたのか?」
 ああっ? こいつら知ってやがったな? と理解する。

「ええ、いきなり撃たれそうになりました」
 呆れたように、言い放つ。
「なんでそんなことに、相手は生きているのか?」
 総理のそんな物言いにちょっとムッとする。
「先に、相手の心配ですか? まあたぶん。それで、片付けはどうします? 車ごと埋めますか? 丁度うちの会社……」
 そう言いかけて、やっと一司は妙に空き地が広い事に気が付く。

 空き地から目線を外さず、
「まあ、待っていますから、よろしく」
 と雑に答えて、電話を切る。

 まだ目線は外さない。
「なあ、美月……」
「なっ、何かな。一司きゅん」
「なんだよ、一司きゅんて?」

 きょどる美月。久々に見るほどの、盛大な目の泳ぎ方である。
「うちって、地上げも始めたのか?」
 冷や汗を、だらだら流しながら美月が答える。
「えーとねえ。井守先生が、事務所はやっぱり広いほうがいいわね。とか、走り回って連絡とるのが面倒くさいとか言って。関係事務所にちょっと連絡したら、うちもうちもって集まったのは言ったよね」
 小首をかしげて、あざとい真似をする美月。

「ああ聞いた。前の4階建ての時の話だよな」
「それで、計画しようとしたら、……お隣さんとかがね。自分の家も耐震工事とかしないといけないとか言っていたから、先生が土地を出してくれたら住居部分は分譲で、事務所とかが入ったら家賃収入が出ますよ。そんな事を、井守先生が言ったら、あっという間に、話が周りに広がっちゃった。って言っていたの」

 言われた記憶を呼び覚ます。
「お隣さんから、お礼も言われた記憶はあるが、横と裏の2軒じゃなかったのか?」
「多分、その後に増えた…… 井守先生が……。まだ、解体と整地が順番待ち……」
 と、どんどん声が小さくなる。

「井守先生もね。小さな事務所で苦労してきて、それが見たことないお金を見ちゃって、少しはじけているなーとは思っていたんだけど、強くは言えなくて」
「その金って、うちの金だよな?」
「うん、だからちょっとなら良いかなって、言われた気がする」
「そうかそれは、お前が許可したという事だな」

 冷や汗が、滝のようになってきた。
 面白いな。
「えっ。えっ…… うん」

「お前が許可したんなら。じゃあ、まあ良いか。何とかなるだろう」
 俺がそう言った、その瞬間……。 美月の目が、信じられないようなものを、見たような目になる。

 なんでだよ……。
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