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第6章 フェルナンダ=トルエバ王国へ

第56話 関係者は呼ばれ、集う

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 フィアが音頭を取り、二人が従う。見た目は笑えるが、大真面目。
「綺麗になあれ。はい」
「「綺麗になあれ」」
「すべてを綺麗に。はい」
「「すべてを綺麗に」」
 そんな感じで、フィアから二人が浄化を習っている間に、適当に獲ってきた獲物で食事を作るアシュアス。

 リーポスはスルメをつまみに酒を飲みながら、周囲にシールドを張って、内部で浄化魔法を発動させる。

 フェルナンダ=トルエバ王国では一年半ほど前から、到る所で瘴気が噴き出していた。それにより、影響を受けた人々は体調を崩す。

 王達も例外ではなく、力のある教会の者を他国から招いていていたが、祓えることはなかった。

「これは一体? 誰か、何とかしてくれ」
「調査結果では、王都周辺が一番ひどいようです。そしてその…… 恨みを買っていないかと」
「恨みだと、そんなもの…… 関係者は、すでにこの世にいない」

 幾度かの王権争い。きれい事ではなく、裏で多くの血が流れた。
 だが、そんな事はどこでも多少ある。

 現王アルベルスも、王位継承まで宰相エジディオ=パローリと共に、幾人かをはめ。また、裏でも幾人かの暗殺を行った。

 だがそれは、この王国では普通のこと。
 そう、だが今回、現王アルベルスが就任をすると、すぐに事態が悪化した。
 王国各地で空気がよどみ、瘴気が噴き出した。

 教会に依頼をして祓って貰うが、根本の解決が出来ず。すぐに元のようになる。

「呪詛の元になる、呪具は見つからんのか?」
「それが、見つかりません。そもそも、石であったり札であったり、形状は様々である様でして、教会の人間も困り果てておりまして」
 兵からの報告も、決定打に掛ける。


 その頃、王都から外れた所。

 その屋敷は焼け、半壊して建っていた。
「お母様の恨み、思い知るが良いわ」
 その娘は、切り刻まれ、焼け焦げた母親の遺体を見つめる。

 奇しくも、その屋敷は元イルムヒルデ公爵家。
 王が代わり、その後にボールストレーム家が、公爵として此処に住んでいた。
 だが今回の王位継承権騒動で、踏み込んできた兵達。
 領主である、オットーと息子ブルーノは捕らえられるが、婦人エミリアが兵達によって目の前で陵辱された。その時、お付きの者に促され、娘クリスタは逃げ出す。

 そして、森の奥でかくまわれていた。
 森の奥には人が住んでおり、そこで世話になった。

 住んでいたのは、ベルナール=イルムヒルデとお付き兼護衛であったレイラ=ガウリー。そしてその娘ベアトリス、その時は十八歳だった。

 ガウリー家は、もともと、暗殺が得意な家であり、呪術にも見識があった。
 クリスタの願いにより、手を貸したが、ベルナールの心中はいかなる物だったのか。そう、ベルナールはサーシャの弟。

 イミティスの叔父である。

 一度は、東にあるフロスベロ王国へと逃げたが、追手は諦めなかった。
 そのため、伴の者達を失いながら、逆に舞い戻ってきていた。
 
 この森で、居を構え再興の時を思いながら、レイラと暮らしていた。

 そこに飛び込んできた、政敵だが、今は同じ境遇。
 十二歳の女の子に、イミティスは冷たくすることは出来なかった。

 そして、クリスタは、恨みを晴らすためには、手段を選ばなかった。

 屋敷の焼け跡。そこで黒焦げになっていたいくつかの骸。
 それを切り刻み、王国中へ振り撒いた。

 恨みを増殖し、遺体の欠片へ定着させる。
「こうすれば瘴気が噴き出し、その内病気の蔓延と、上手く行けばアンデッド達が生まれる」
 そう遺体を切り刻んだのは、クリスタ達。

 自らの恨みを乗せ、呪いへと昇華させる。


 アシュアス達は、とりあえず、イルムヒルデ公爵家が収めていた土地へ向かう。
 本人達には、何の記憶も思いも無い場所。
 今となっては、ティナのお母さんであるヴィニャー=トバイアスの、呪いが掛かっているような場所。

「えーと。王都の東側が領地。もっと東にはフロスベロ王国がある。と言う事は、丁度トンネルが開いた、このあたりが領地じゃないかしら?」
 ティナさんがメモを見る。

 雑だが、セントリアの大まかな地図とアレクサンデル王国と山脈。北西にあるアウストルギガ帝国とその北東フェルナンダ=トルエバ王国。そして東にフロスベロ王国がある。

「あーと、そうか。アレクサンデル王国の王都と、ヘルキニアの町。だとするとそうだね」

 皆で地図を眺める。
 適当な物だから確認をしないといけないが、まあいい。

「ねえ。あそこの森。あんな奥にシールドが張られている」
 山側から見ると、けっこう遠くまで見渡せる。農地に川。そしてかなり広大な森。
「本当だ」
 皆で顔を見合わせ、行くことに決める。
 どうせ、町中を大手振って歩く気は無かった。ギルドにバレると通知が行ってしまう。

 そうして、森の中で一軒の家を発見する。
「すみません」
 声をかけた瞬間、室内で殺気が膨れ上がる。

「はい、何でしょう?」
「道をお尋ねしたいのですが」
 そう言うと、ドアが少し開く。

 そして、逆に質問される。
「ヴィニャー様? あっいえ。そんなはずは…… 失礼しました」
「ヴィニャーは私の母です」
「えっ」
 ティナさんは、お母さんに似ているようだ。
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