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第5章 聖魔法を極めよう

第40話 思惑

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 ティナは、躊躇して出遅れてしまった。
 リーポスとフィアは当然のように、アシュアスの隣へと潜り込む。

「ぬうう。これが経験の差か。頭で分かっていても、てっ、てれにより動きが制限されるとか、己が心の未熟さよ。不甲斐ない」

 八畳ほどの寝室。ランプは消されているが、青白い月の光が刺し込んでいる。
 その光の中で、幸せそうに眠る三人。ティナは仁王立ちで腕を組み、その光景を見下ろしながら、ぶつぶつと反省中。

 リーポスとフィアどちらを寄せるか。
 アシュアスの左側が良いわね。頭の中で寝ている姿を妄想する。
 多少顔が崩れ、でゅふふな感じになっている。
 一応貴族のたしなみとして、そういう教育も受けているティナ。

 そう決めて、キングサイズベッドの上に乗り、フィアの背後へと回り込む。
 そっと、布団を捲りフィアを壁側に転がす。

 そして、できた隙間に、自身の体を潜り込ませ、アシュアスへ抱きつく。

 ふおおぉ。何という至福。これが同衾と呼ばれるもの。


 フィアは横にアシュアスが居るため安心していた。
 普段は、意識を半覚醒させて警戒をしている。
 だが、少しの疲れと、安心。
 そのため、気を抜いた。

 流石に、体を動かされれば、意識は覚醒をする。
 目を開けると、アシュアスではなくプラチナブロンドの髪。
 生意気にも、アシュアスの左手を伸ばし、それに頭を乗せるなどという不届きなことを。
 宿だから良いようなものの、とっさの時に動きが鈍るじゃないか。
 と思いつつも、やってみたいと考える。

 
 フィアもリーポスと幾多の戦いを繰り広げてきた。
 そう、なぜか、皆アシュアスの左を狙う。
 アシュアスの右手は、利き手のため。空けておかねばならない。
 そのため、寝るときには、注意が必要。

 リーポスは、布団へ潜りアシュアスに寄り添う。
 まるで、ねこのように丸まって寝る。

 このポジションに落ち着くまで、その戦いはひどい物だった。
 基本女の子の方が早熟。
 初期はポジションの奪い合い。だが、それはアシュアスの睡眠をジャマする。
 なら、声を出してはいけない、我慢大会という形で落ち着いた。
 そう、大好きなアシュアスの横で、お互いの体をまさぐり弱点を探す。

 それは熾烈な物だったが、ある日フィアは編み出す。
 魔力を人に流すと火傷をするなら、調節すれば刺激を与えることが出来る。

 凶悪な、マジックウェーブマッサージ。
 それにより、リーポスは完敗し、左の領地を放棄した。

 暗い部屋の中。全身に、調節をした魔力を纏い、フィアは薄赤く光り始める。
 いま、相手を効率的に、いかせる為の魔法が発動をした。
 そう、名付けてNT―D。にゅーたいぷ。ですとろいやー。
 これによりリーポスは、我慢した結果、朝立ち上がれないほどのダメージを受けた。まさに破壊魔法。

 ティナは、背後で起こった魔力変化は感じていた。
 だが、流石に攻撃魔法は放ってこないだろうという、信用はある。

 そのため、意識は背後二割、アシュアス八割。

 だが、やって来たそれは、生やさしいものでは無かった。
 そう、リーポスと違い。幾多の戦いをすっ飛ばし、新兵の一回目がいきなり魔王戦のような物。

 彼女は、一瞬で完敗をした。

 体中を、幾多もの蠢く何かが、這いずるような快感。それも触れている部分、すべてに刺激がくる。
 一応、歳上だが、ティナはそういう経験はない。
 そこにぶち込まれる、マジックウェーブ。

 いきなり嬌声を上げ、色々と濡らしてしまう……
 そう、アシュアスの目の前で。
 体が勝手に痙攣し、腰に力が入らない。

 永遠ともいえるような刺激から冷め、目を開けると、声に驚いたアシュアスの目。

 実際は数十秒だったが、ティナには永遠ともいえる時間だった。
 あまりの反応に驚き、フィアがすぐやめたからだ。

「えっ、なに。うっ。きゃあ」から始まって、「だめよ。駄目。くる、何かがくるー」とか「なんだこの快感は…… 駄目だやられる。あああっ」とかまあアシュアスに聞かれるには恥ずかしい声が色々。

 腰は勝手にかくかくして、洪水を起こしていた。

「どうしたの? ティナさん」
 そう聞かれる始末。
 一瞬で、汗をかき、少し涙を浮かべ、そうものすごく色っぽい。

 だが本人にすれば、横にいて、いかされまくりましたなど、当然言えない。

「あううっ。だっ。だいじょうぶぅぅ」
 体中のゾクゾクが止まらない。
 敏感なところが、一気に刺激を受け、それが未だに収まらない。

 何とか、ベッドから這い出して、トイレに向かう。
「あちゃー。盛大に濡れてる」
 わざとそう言ってから、フィアは布団を浄化して、意識のあるアシュアスにすがりつく。

「どうしたんだろ?」
「うん? アシュアスの横で、エッチな夢でも見たんじゃない」
 さらっと、そんな事をいう。

「えっち? ああ、そうか。女の人でもそんな事あるの?」
「あるわよ。あまりにもアシュアスの反応が薄いから、こっちがビックリ。村の男の子達かなり意識をしていたのに、どうしてアシュアスは反応が薄いのかな? 私たち。その、異性として魅力無い?」
 この際だからと、聞いてみる。

「いやかわいいし、好きだよ。大切に思っているけど、なんか妹とか家族のように感じて」
 いや嬉しいけれど、家族ってあんたね。中間をとばすんじゃないわよ。
 そうして……
「むうぅ。こうしてやる」
 むぎゅっと掴む。するとまあ、刺激を受ければ反応はする。

「反応を、するじゃない」
「そりゃそうだけど、子供が出来たら、旅も出来ないし」
「それは、そうだけど…… あっ、じゃあ。気を付ければ良いのね。なんか調べてみる」
「あっいや、そう言うわけでも……」
 アシュアスはオロオロするが、フィアはする方向へと進める。
 宣言はした。後は実行のみ。

 そう言っている、アシュアスの右側。布団の中でリーポスの目が、怪しく光っていた。

 そして、ティナはもう一つのベッドへ潜り込むと、収まりのつかない体を、一人で慰め、疲れ果てて眠りにつく。

 そして翌朝。当然ながら起きられず。その恥ずかしい格好を、朝陽の中で見られることになる。
「もう、恥ずかしいものはない」
 そう、開き直ったようだが……

 たしかに、チームの中で、ギルドの受付で凜とした姿だった、ティナの姿は薄くなったようだ。
 どんな人かと聞かれれば、少し残念な人。そう答えるだろう。
 まあ仲間として、垣根がなくなったと言えばいえる……
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