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第5章 聖魔法を極めよう
第36話 リーポス先生の剣術教室
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――その晩。
なぜか安楽亭の食堂で、アシュアス達とクレッグ。そして、ティナが顔を突き合わせ、鹿肉のローストとシチューを頂いている。
「おお、美味いな」
クレッグがそう言うと、女将さんがやって来る。
「そうだろ。ほらこれ」
そう言って、置いていった紙には、食事代とアシュアス達の宿泊代まで、書き込まれていた。
「なっ…… まあ良いか。このくらいだそう。それでだな、あの剣技。教えてくれないか?」
「ふぇんぎ?」
リーポスが、骨付き肉を咥えながら答える。
骨付き肉というと、すぐに思い浮かぶのがラム、つまり羊だが、今日はディアーチョップのようだ。
「あんにゃもにょ、切れろっておみょって、剣を振ればだいじょびゅ」
「リーポス。食べながらしゃべっちゃ駄目」
フィアから、教育的指導が飛ぶ。
「剣技もよろしいですが、私からも一つ」
黙って見ていたが、ティナが口を開く。
皿の上は、綺麗に空になっている。
「アシュアス様」
「はい?」
「私に入れて……」
全員が凍り付く……
「失礼。『に』じゃなく『を』ですね。私をチームに入れてくださいませんか?」
そう聞いて焦るのは、当然クレッグ。
「おい。いきなりそれは困る」
「大丈夫です。その辺りで、適当に捕まえてきて、代わりを座らせておきますから」
真顔でそう仰る。
「あー。まあそれなら良いか……」
あっさり、クレッグは敗退。
「でも、ご家族とか、ギルドで勤めていた方が生活も安定しているし」
フィアがそう聞くと、軽く首を振りティナが答える。
「最低賃金で、相手をするのは糞ばかり。おっと失礼。話の通じない猿? ゴブリン? まあ、生活は本当に最低限でできますが、あまり未練はありません」
少し酔ったのか、地が出てきたティナ。クレッグを睨む。
「そりゃ給料は安いが、決まりがあるしな」
「新兵と同じくらいで、向こうは役が付くと上がりますが、こっちはずっと同じ。やっていられません。それに、人を本気で探さないといけなくて」
そう言って、少し彼女は伏し目がちになる。
「人?」
「ええ。母の願いで少し。そう言えば、アシュアスは精霊種の住まう森を見つけたの?」
早くも、呼び捨てで、ため口になってくる。
「あー。森は見つけて、奇跡の実もあったんだけど、弟の病気は治らなくって」
「―― 弟さんて、呪いでも受けているの?」
ティナの目には困惑なのか、悲しみなのか。それとも興味なのか、妖しい光が宿る。
「じゃなくて、その、自家性魔力中毒症で」
そう言うと、二人共、表情が曇る。
「そりゃ何だな。治し方、見つかれば良いな」
「ええまあ」
気になったのか、今度はフィアがティナに聞く。
「お母さん。具合とか悪いんですか?」
「いえ、元気です。ただ、動くなら元気なうちの方が良いでしょう」
それを聞いて、確かにと皆納得。
「手続きは、明日私が行いますので、よろしくお願いしますね」
誰も返事をしていないが、ティナのチームへの参加は決定のようだ。
その晩。
アシュアスに抱きつきながら、リーポスとフィアは考え込むことになる。
それとは違い、アシュアスは慣れたのか爆睡中。
翌日、クレッグに会いにいくと、
「本日から、こちらでお世話になるカトリナ。十六歳です」
そんな声が、カウンターから聞こえてきた。
その横に、ティナが立ち、何かを指導しているようだ。
ティナのプラチナブロンドとは違い、カトリナは亜麻色の髪。
ブラウンの目で、二重でくりっとした目で、ちょっとぽてっとした唇。
冷たい印象のティナとは違い、カトリナの妙に色っぽいところは、受けが良いようで、ギルド全体が妙に浮かれている。
「あっ。おはよう。来たわね」
ティナさんの表情が変わる。満面の笑み。
静かに、周りからどよめきが聞こえる。
「おっおい。笑ったぞ」
「ああいつもの、口角だけじゃなく。目まで笑っている」
普段は、冷たい目で口角のみが上がる笑顔。
その時は、ティナが切れる寸前として有名だ。
「私も行って、挨拶をするから」
そう言って、なぜかアシュアスは手を引かれていく。
「まあ。商家の娘らしいし、妹弟子? で問題ないようだ。それは良いとして、剣技はどうなった?」
「ああー。そうですね。町の外で見せましょう」
そう言って、皆で町の外へ出る。
当然、すでに登録されたティナも一緒だ。
「先ずは、風系統の斬撃」
アシュアスがそう言うと、リーポスが剣を振るう。
「剣技なら私が本職」
だそうだ。
「ふんっ」
詠唱も何もなし。
普通は属性とかを錬りながら詠唱を行ったりするが、そんなものは子供の頃に終わってしまった。
強力なイメージ。それのみ。
「それで、昨日使ったのは空間魔法系です。空間魔法を使えます?」
「はっ? 空間? 何だそりゃ」
アシュアスに言われて、首をひねるクレッグ。
「要するに、こう空気を切るだろ。そこに物があると切りにくいから、もっと切る」
そう言って、リーポスがぶんぶんと剣を振る。
纏う魔力が変化をして、色々な斬撃が飛んで行く。
そして、空間が軋む。
「ほらこれ。剣で空気を分けて、さらにその何もないところを分ける。するとさっきみたいになるんだよ」
腰に手を当て、胸を張る。
その、リーポスの横で、ティナは目を落っことしそうになっていた。
「空間魔法師…… 伝説の……」
空間魔法は伝説らしい。
なぜか安楽亭の食堂で、アシュアス達とクレッグ。そして、ティナが顔を突き合わせ、鹿肉のローストとシチューを頂いている。
「おお、美味いな」
クレッグがそう言うと、女将さんがやって来る。
「そうだろ。ほらこれ」
そう言って、置いていった紙には、食事代とアシュアス達の宿泊代まで、書き込まれていた。
「なっ…… まあ良いか。このくらいだそう。それでだな、あの剣技。教えてくれないか?」
「ふぇんぎ?」
リーポスが、骨付き肉を咥えながら答える。
骨付き肉というと、すぐに思い浮かぶのがラム、つまり羊だが、今日はディアーチョップのようだ。
「あんにゃもにょ、切れろっておみょって、剣を振ればだいじょびゅ」
「リーポス。食べながらしゃべっちゃ駄目」
フィアから、教育的指導が飛ぶ。
「剣技もよろしいですが、私からも一つ」
黙って見ていたが、ティナが口を開く。
皿の上は、綺麗に空になっている。
「アシュアス様」
「はい?」
「私に入れて……」
全員が凍り付く……
「失礼。『に』じゃなく『を』ですね。私をチームに入れてくださいませんか?」
そう聞いて焦るのは、当然クレッグ。
「おい。いきなりそれは困る」
「大丈夫です。その辺りで、適当に捕まえてきて、代わりを座らせておきますから」
真顔でそう仰る。
「あー。まあそれなら良いか……」
あっさり、クレッグは敗退。
「でも、ご家族とか、ギルドで勤めていた方が生活も安定しているし」
フィアがそう聞くと、軽く首を振りティナが答える。
「最低賃金で、相手をするのは糞ばかり。おっと失礼。話の通じない猿? ゴブリン? まあ、生活は本当に最低限でできますが、あまり未練はありません」
少し酔ったのか、地が出てきたティナ。クレッグを睨む。
「そりゃ給料は安いが、決まりがあるしな」
「新兵と同じくらいで、向こうは役が付くと上がりますが、こっちはずっと同じ。やっていられません。それに、人を本気で探さないといけなくて」
そう言って、少し彼女は伏し目がちになる。
「人?」
「ええ。母の願いで少し。そう言えば、アシュアスは精霊種の住まう森を見つけたの?」
早くも、呼び捨てで、ため口になってくる。
「あー。森は見つけて、奇跡の実もあったんだけど、弟の病気は治らなくって」
「―― 弟さんて、呪いでも受けているの?」
ティナの目には困惑なのか、悲しみなのか。それとも興味なのか、妖しい光が宿る。
「じゃなくて、その、自家性魔力中毒症で」
そう言うと、二人共、表情が曇る。
「そりゃ何だな。治し方、見つかれば良いな」
「ええまあ」
気になったのか、今度はフィアがティナに聞く。
「お母さん。具合とか悪いんですか?」
「いえ、元気です。ただ、動くなら元気なうちの方が良いでしょう」
それを聞いて、確かにと皆納得。
「手続きは、明日私が行いますので、よろしくお願いしますね」
誰も返事をしていないが、ティナのチームへの参加は決定のようだ。
その晩。
アシュアスに抱きつきながら、リーポスとフィアは考え込むことになる。
それとは違い、アシュアスは慣れたのか爆睡中。
翌日、クレッグに会いにいくと、
「本日から、こちらでお世話になるカトリナ。十六歳です」
そんな声が、カウンターから聞こえてきた。
その横に、ティナが立ち、何かを指導しているようだ。
ティナのプラチナブロンドとは違い、カトリナは亜麻色の髪。
ブラウンの目で、二重でくりっとした目で、ちょっとぽてっとした唇。
冷たい印象のティナとは違い、カトリナの妙に色っぽいところは、受けが良いようで、ギルド全体が妙に浮かれている。
「あっ。おはよう。来たわね」
ティナさんの表情が変わる。満面の笑み。
静かに、周りからどよめきが聞こえる。
「おっおい。笑ったぞ」
「ああいつもの、口角だけじゃなく。目まで笑っている」
普段は、冷たい目で口角のみが上がる笑顔。
その時は、ティナが切れる寸前として有名だ。
「私も行って、挨拶をするから」
そう言って、なぜかアシュアスは手を引かれていく。
「まあ。商家の娘らしいし、妹弟子? で問題ないようだ。それは良いとして、剣技はどうなった?」
「ああー。そうですね。町の外で見せましょう」
そう言って、皆で町の外へ出る。
当然、すでに登録されたティナも一緒だ。
「先ずは、風系統の斬撃」
アシュアスがそう言うと、リーポスが剣を振るう。
「剣技なら私が本職」
だそうだ。
「ふんっ」
詠唱も何もなし。
普通は属性とかを錬りながら詠唱を行ったりするが、そんなものは子供の頃に終わってしまった。
強力なイメージ。それのみ。
「それで、昨日使ったのは空間魔法系です。空間魔法を使えます?」
「はっ? 空間? 何だそりゃ」
アシュアスに言われて、首をひねるクレッグ。
「要するに、こう空気を切るだろ。そこに物があると切りにくいから、もっと切る」
そう言って、リーポスがぶんぶんと剣を振る。
纏う魔力が変化をして、色々な斬撃が飛んで行く。
そして、空間が軋む。
「ほらこれ。剣で空気を分けて、さらにその何もないところを分ける。するとさっきみたいになるんだよ」
腰に手を当て、胸を張る。
その、リーポスの横で、ティナは目を落っことしそうになっていた。
「空間魔法師…… 伝説の……」
空間魔法は伝説らしい。
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