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第五章 人は生き残れるのか?
第78話 光と影
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「いけぇ。一人も逃すな」
結局、王国兵団が仕切り始めた。
マクレーン伯爵が案内されてきたとき、彼は思いっきり驚いた。
そう、この店は王都でも有名な店。
貴族の客も多い。
その脇を通り、裏へ回ると、また見慣れない連中が集まっていた。
「隊長達が制圧中ですので、お待ちください」
そう言って情報局とやらに止められる。
「王都は我らのかん……」
見せられた書類。王印の捺かれたもの……
「王の直属部隊……」
それっきり黙っていたところに、娘達を連れた子どもが出てきた。
「この子達をたのむ。被害者じゃ」
そう言って、彼は戻ろうとする。
「あんたは?」
「私はシン。あんたは?」
「王国兵団の者だ」
そう答えると、なぜか上から下までみた後、命令された。
「なら来い。音は立てるな」
そして今、犯人達はこの通路の上だという。
「逮捕は我らの本分、お任せあれ。行くぞ」
多少すったもんだはあったが、相手は酔っ払い、あっという間に制圧をされた。
全員を引き連れ、詰め所に戻る。
そこからは、数日を掛けて関わる貴族達の繋がりと、金の流れを追う。
寄親で事実を知っていたか否か。
それにより粛正範囲が変わる。
調べていくうちに、契約書の偽造や脅迫、不当労働等々の証拠がドンドン出てくる。
そうして店共々、エチューギャは失脚。
この世界なら被害者救済など無いが、今回は給金や仕入れ先の損失補填まで行った。
寄親などにも、代官のしでかしは管理責任があると言って、罰金を納めさせた。
規模が大きかったこともあり、その金額は莫大なモノとなった。
札を買った者を救済と思ったが、この世界の人々では民度が低く、我も我もと人が大挙することが想像できるため、それはなくなったようだ。
さて、事が終わったとき、シン達は王に呼ばれて謁見を行った。
謁見の間へ赴いたとき、王は王座から降りてきて近衛達に驚かれる。
宰相は顔に手を当て、やりやがったという感じだったが……
「面を上げてください。そなたがシン殿?」
「はい」
「前世の記憶を持ち、ラファエル=デルクセン殿であるというのは誠であるか?」
「御意に」
「これに見覚えはあるかね」
王が出したのは一冊の本。
「これはわしが書いた指示書じゃな。なぜこれがこんな所に? ノエル=デューに預けライハラ連合国、いまは、クリスティアン共和国辺りにあるはずじゃが?」
「ええ歴史の中で、混乱がありまして、あそこは少数民族の集まった国、幾多の戦争を繰り返し、その時に保護をしてくれと、これが我が国にもたらされまして」
「カリスマ的な求心力を持った者が潰えると、後は烏合の衆か……」
シンの表情が曇る。
民族ごとの小国ではあるが、独自の技術を持ち一つにまとまればそこら辺りの大国に負けない力があった。ノエル=デューがまとめると言い始めて、努力の末、それをなしたというのに。
まあ今は、共和国という形でまとまっているようだが。
「それでですな、ラファエル=デルクセン殿。今は勝手ながら情報局の長官としてあなたを役職につけさせていただいています」
「なっ」
王の御前でつい叫んだのは、マッテイス。
いつの間にか、シンがオレの上司に……
「知らぬな? 長官?」
「ええ、辞令と、給金は学園の清掃員としての、給金口座へ入っているはずですが?」
王にそう言われてもピンとこない。
「清掃員としての、給金口座ってなんじゃ?」
「バカ、シン。入ったときに学園から言われて作っただろう?」
後ろから、マッテイスが説明する。
だがシンは?? 記憶にない。
そう、入ったときに九歳だったため、シュワード伯爵が後ろ盾となり、管理者となっていた。
月に一度、必要分もらい、急用のときには奥方の間者に言伝をすると用立てて貰っていた。
まあ伯爵とすれば、成人後に渡すつもりだったが、討伐討伐で忙しくて忘れていた。
ちなみに、役職も長官になったさいに、権利は限定的ではあるが、領地無しの侯爵と陞爵していた。
そして今回の手柄があったため、都合よく領地が空いたし、それをシンに渡そうとしていた。普通なら論功行賞の場で宣言するべきだが、情報局の長官という立場を加味して、それは行わないことにした。
せっかく、関わる貴族の少ないシン。
余計な横やりや義理がなく、公平な職務が行える。
そんな話をして最後……
「あー、ラファエル=デルクセン殿。あなたのような英雄にお会いできて嬉しく思います。またお話を聞かせていただいてよろしいでしょうかぁ」
王はキラキラした、少年のような目をしてシンに尋ねる。
「ああ。問題は無い。そなた王であろう。もちっと毅然とした態度を見せんと、臣下になめられるぞ」
「はっ、肝に銘じます。ご指導ありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
宰相は思った。
私がいつも言っていることなのに……
これからは、シン殿を頼り、王に命じていただこう。
そうして、不思議な権力組織が出来上がった。
そしてシンは、顔合わせとして幹部を集めて訓練をする。
こうして、最強国家への道がまた一歩前進する。
そして、シンの貴族位叙爵はひょんなところに影響があった。
すっかり影の薄くなったヴィクトル君。
学園を今年卒業をするが、今だ就職先が決まっていない。
金魚のフンのように上位の貴族子弟にくっ付いていたが、性格の悪さが災いをした様だ。
そして、なぜ就職が必要かというと、ヘルミーナとシンから幼少期のことについて伯爵が説明を受けたから……
ただまあ、それだけなら渋々ロナルドも叱責で納めたかもしれない。
シンが出世をした。そのおかげで彼が成人のとき、貴族籍は残されたが、跡取りとしては認めないと宣言された。
なんだかんだと言い訳をしたが、自分の能力をきちんと見られない彼は墓穴を掘る。
「私は悪くない、父上の教えが悪いんだ……」
そう、彼はすべての責任を、自身にでは無く、周りに押しつけた。
「卒業後は好きに生きなさい。屋敷に戻ってこずとも良い」
そう言って、ロナルドはシュワード伯爵家として、笑顔で彼に離縁状を出した。
「こんな家なんて…… ぐれてやるー」
そんな声が、屋敷前の森に響いたとか……
結局、王国兵団が仕切り始めた。
マクレーン伯爵が案内されてきたとき、彼は思いっきり驚いた。
そう、この店は王都でも有名な店。
貴族の客も多い。
その脇を通り、裏へ回ると、また見慣れない連中が集まっていた。
「隊長達が制圧中ですので、お待ちください」
そう言って情報局とやらに止められる。
「王都は我らのかん……」
見せられた書類。王印の捺かれたもの……
「王の直属部隊……」
それっきり黙っていたところに、娘達を連れた子どもが出てきた。
「この子達をたのむ。被害者じゃ」
そう言って、彼は戻ろうとする。
「あんたは?」
「私はシン。あんたは?」
「王国兵団の者だ」
そう答えると、なぜか上から下までみた後、命令された。
「なら来い。音は立てるな」
そして今、犯人達はこの通路の上だという。
「逮捕は我らの本分、お任せあれ。行くぞ」
多少すったもんだはあったが、相手は酔っ払い、あっという間に制圧をされた。
全員を引き連れ、詰め所に戻る。
そこからは、数日を掛けて関わる貴族達の繋がりと、金の流れを追う。
寄親で事実を知っていたか否か。
それにより粛正範囲が変わる。
調べていくうちに、契約書の偽造や脅迫、不当労働等々の証拠がドンドン出てくる。
そうして店共々、エチューギャは失脚。
この世界なら被害者救済など無いが、今回は給金や仕入れ先の損失補填まで行った。
寄親などにも、代官のしでかしは管理責任があると言って、罰金を納めさせた。
規模が大きかったこともあり、その金額は莫大なモノとなった。
札を買った者を救済と思ったが、この世界の人々では民度が低く、我も我もと人が大挙することが想像できるため、それはなくなったようだ。
さて、事が終わったとき、シン達は王に呼ばれて謁見を行った。
謁見の間へ赴いたとき、王は王座から降りてきて近衛達に驚かれる。
宰相は顔に手を当て、やりやがったという感じだったが……
「面を上げてください。そなたがシン殿?」
「はい」
「前世の記憶を持ち、ラファエル=デルクセン殿であるというのは誠であるか?」
「御意に」
「これに見覚えはあるかね」
王が出したのは一冊の本。
「これはわしが書いた指示書じゃな。なぜこれがこんな所に? ノエル=デューに預けライハラ連合国、いまは、クリスティアン共和国辺りにあるはずじゃが?」
「ええ歴史の中で、混乱がありまして、あそこは少数民族の集まった国、幾多の戦争を繰り返し、その時に保護をしてくれと、これが我が国にもたらされまして」
「カリスマ的な求心力を持った者が潰えると、後は烏合の衆か……」
シンの表情が曇る。
民族ごとの小国ではあるが、独自の技術を持ち一つにまとまればそこら辺りの大国に負けない力があった。ノエル=デューがまとめると言い始めて、努力の末、それをなしたというのに。
まあ今は、共和国という形でまとまっているようだが。
「それでですな、ラファエル=デルクセン殿。今は勝手ながら情報局の長官としてあなたを役職につけさせていただいています」
「なっ」
王の御前でつい叫んだのは、マッテイス。
いつの間にか、シンがオレの上司に……
「知らぬな? 長官?」
「ええ、辞令と、給金は学園の清掃員としての、給金口座へ入っているはずですが?」
王にそう言われてもピンとこない。
「清掃員としての、給金口座ってなんじゃ?」
「バカ、シン。入ったときに学園から言われて作っただろう?」
後ろから、マッテイスが説明する。
だがシンは?? 記憶にない。
そう、入ったときに九歳だったため、シュワード伯爵が後ろ盾となり、管理者となっていた。
月に一度、必要分もらい、急用のときには奥方の間者に言伝をすると用立てて貰っていた。
まあ伯爵とすれば、成人後に渡すつもりだったが、討伐討伐で忙しくて忘れていた。
ちなみに、役職も長官になったさいに、権利は限定的ではあるが、領地無しの侯爵と陞爵していた。
そして今回の手柄があったため、都合よく領地が空いたし、それをシンに渡そうとしていた。普通なら論功行賞の場で宣言するべきだが、情報局の長官という立場を加味して、それは行わないことにした。
せっかく、関わる貴族の少ないシン。
余計な横やりや義理がなく、公平な職務が行える。
そんな話をして最後……
「あー、ラファエル=デルクセン殿。あなたのような英雄にお会いできて嬉しく思います。またお話を聞かせていただいてよろしいでしょうかぁ」
王はキラキラした、少年のような目をしてシンに尋ねる。
「ああ。問題は無い。そなた王であろう。もちっと毅然とした態度を見せんと、臣下になめられるぞ」
「はっ、肝に銘じます。ご指導ありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
宰相は思った。
私がいつも言っていることなのに……
これからは、シン殿を頼り、王に命じていただこう。
そうして、不思議な権力組織が出来上がった。
そしてシンは、顔合わせとして幹部を集めて訓練をする。
こうして、最強国家への道がまた一歩前進する。
そして、シンの貴族位叙爵はひょんなところに影響があった。
すっかり影の薄くなったヴィクトル君。
学園を今年卒業をするが、今だ就職先が決まっていない。
金魚のフンのように上位の貴族子弟にくっ付いていたが、性格の悪さが災いをした様だ。
そして、なぜ就職が必要かというと、ヘルミーナとシンから幼少期のことについて伯爵が説明を受けたから……
ただまあ、それだけなら渋々ロナルドも叱責で納めたかもしれない。
シンが出世をした。そのおかげで彼が成人のとき、貴族籍は残されたが、跡取りとしては認めないと宣言された。
なんだかんだと言い訳をしたが、自分の能力をきちんと見られない彼は墓穴を掘る。
「私は悪くない、父上の教えが悪いんだ……」
そう、彼はすべての責任を、自身にでは無く、周りに押しつけた。
「卒業後は好きに生きなさい。屋敷に戻ってこずとも良い」
そう言って、ロナルドはシュワード伯爵家として、笑顔で彼に離縁状を出した。
「こんな家なんて…… ぐれてやるー」
そんな声が、屋敷前の森に響いたとか……
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