上 下
21 / 97
第三章 初等部

第21話 ちょっとした災難

しおりを挟む
「……と、言うわけでな。ダンジョンで死にかかったら、なぜか未知の能力と記憶があった。そして、前世の記憶も蘇ったのじゃ」
 なぜか、わしが椅子に座り、マッテイスが床で正座をして聞いて居る。

「そこで何があったのかは、全然覚えておられないのでしょうか?」
「ああ覚えているのは、オークに蹴り飛ばされたこと。その時には、まだ前世の記憶がなく。単なる幼子じゃった」
 ふうむと、考え込むマッテイス。

 悩んでいる間に、部屋の中を浄化する。
 いい加減、かび臭い匂いで、頭が痛くなってきた。
 きっと、体にも悪いじゃろう。

 その変化に、マッテイスも気が付く。
「聖魔法まで……」
「誰でも使えるじゃろう。単なる浄化じゃ」
 だが、マッテイスはふるふると首を振る。

「基本魔法から外れると、一握りの人間しか使えません」
「そうなのか? ああスキルに頼るからじゃ。魔力を錬ってイメージをしろ。そうすれば誰でも使える。病気の予防にもいいぞ。知らぬなら、皆に広めようか」
「おやめください」
 泣きそうな顔をして、止めてきた。

 こやつ、半泣きで、座っているわしの膝にすがりつく。
「ええい、鬱陶しい」
 思わず立ち上がると、ズボンと、下履きまでが一気に脱げてしまった。

「あっ」
 すがりつくこやつの眼前に、きっと今だけだが、わしの小粒でキュートなあれが、ちょろんと…… 第二次成長期を越えれば、きっと、見慣れた凶悪な物になるはず……

 そんな悪いタイミングで、ドアが開く。

 ガヤガヤと入ってきた者達。
 いつもの部屋だが、そこにいるのは、下半身を露出した小さな男の子。
 それにすがりついているマッテイス。
 もう、事案以外の何者でもない。

 彼らは、当然だが仕事から帰ってきた、同僚達。
 そう、明らかにいつもとは違う光景。
 それを目撃した瞬間、皆の動きが、その時止まった…………
 そう、まるで世界が、その鼓動をやめたように、ピシッとでも音が聞こえそうな感じで……

 だが、それも一瞬。わずかな時を置き、何もなかったように、皆が動き始める。
 まるで何も見ていない。何も無かったとでも言うように。
 あわてて、マッテイスは立ち上がる。

「皆待て、勘違いだ。俺にそんな趣味はない」
 彼は必死で、そう伝えるが……

「いや。大丈夫。はっきりと見たから。だが、良い趣味じゃないな。それに男の子か…… マッテイスお前、貴族みたいな趣味をしていたんだなぁ」
「そうか…… だから、二十五歳でも独身なんだ……」
 本人は無視されているが、皆は謎がすべて解けたとでも言う感じで、話で盛り上がる。

 これはいかんな。ちとフォローをしておくか。
「あー。われ…… ぼくは、今日から此処でお世話になります。シンと申します。よろしくお願いいたします」
 そう言って、ぺこんとお辞儀をする。
 ズボンを直しながら。

「坊主幾つだ?」
「九つです」
「本当にガキじゃねえか。先輩だからって、何でもかんでもは言うこと聞かなくて良いからな」
 そう言って頭をなでられる。ふむ、知らない者にされても、あまり気持ちいいものではないな。気を付けよう。

「でも、アビントンさんから、マッテイスさんが教育係だから、言うことを聞けと」
「ああ、大丈夫だ。アビントンさんには俺から言っておくから」
 ?? これはもしかして、よくない方向へ行っている気がするのう。

「大丈夫です。僕…… 気にしていませんから」
 そうフォローだフォロー。せっかくの協力者となる、こやつがいなくなると面倒じゃ。
「そうか? でも嫌なことは、きちんと嫌と言わないと駄目だぞ」
「はい」
 和やかに答える。

 横で会話を聞き、マッテイスは青くなったり、赤くなったりしていた。
 器用な奴。

「もう、今日のお仕事は、終わりでしょうか?」
 話題を変えねば。

「ああ、そうだな。まだ学生がいないからな」
「そうそう。あいつら、人が掃除をしているのを見かけると、わざとゴミをばら撒く奴らが居るからな」
「へぇ。貴族なのに?」
 こてんと首を倒してみる。この時に発展技として、軽く握った右拳を右頬につけるとか、色々な派生技がある。普通の子どもぽく見える技。第何号か忘れた……
 わしのことが判った後、ムキになったドミニクに指導された。
 口元にかわいく握りこぶしなどは、何度やっても何処の戦闘民族と叱られたものじゃ……
 ポーズ的に、どうもわしの場合、目に殺気がこもるらしい。

「半数は、スキルを持ったからって、平民が急に貴族になった奴らだ。普段肩身が狭いから、もっと下の立場。俺達みたいな人間に、八つ当たりをしているんだよ」
「そうそう。中等部の途中入学の奴らは、もっとひどいぜ」
「そうですか」
 
 その後、自己紹介として、彼らからぶわーっと名前を言われた。
 トムが、二十二歳。平民。七年前、町で生活に困っていたところを、同僚となっているワイトとブラハムと共に拾われた。
 拾ってくれたのは、ジミー=グレイディという、伯爵家の三男。今高等部の二年だそうだ。
「坊ちゃんのおかげで、今人並みに暮らせるんだ。そんなお方も貴族には居るんだよ」
 嬉しそうに、教えてくれた。へー。そのような者が? 覚えておこう。

 ヴィートとプラーシェクは、共に十六歳。父親が騎士爵。 
 スキル無しだが、なんとか学園に潜り込ませたタイプ。授業をのぞき見て覚えろ。
 そう言われたらしい。

 だが、初級と中級は基本として、スキルの使用を繰り返すだけ。
 見ても何の役にもたたないとぼやいていた……

 ダスティとアンヴィは十五歳。こやつらも平民。探索者になろうとしたら、登録をしに行ったギルドで、丁度人手が欲しいと言われて、ここを紹介された。

「ひどいんだぜ。『平民でスキル無しが二人だ? 死にてえのか?』 なんて言われてさ」
「そうそう。結局ギルドには、登録をしてもらえなかったんだよ」
 お怒りと言うよりは、困った感じで教えてくれた。

「僕はシンです。お世話になっているお屋敷のお嬢さんが、今年初等部に入学をしまして、伯爵からの紹介ですね」
 そう言うと皆が、なぜか驚いた顔になる。

「貴族の世話? スキルがあるなら、入学をすれば良いのにケチなのか?」
 ああ、そういう事か。平民が貴族と関わりがあるということは、必ずスキル持ちとなるんだな。

「いえ、スキルはありません」
 そう答えても、やはり驚かれる。

「ああ、使用人なのか? それは幸運だったな」
 まあ面倒。だが、そうだな。それで良いか。
 使用人の子どもということで、これから説明をしよう。

「ええ、本当に」
 一通り話はしたので、業務のことを聞いてみる。

「朝の出勤とか時間の割合は、どうなっていますでしょうか?」
「学生がいるときは、日の出前に出勤。鍵を開けながら異常がないかを点検。夕方は掃除と施錠。昼間は休み。何か壊れたとか汚れたら連絡が来るから、此処で待機…… あれ、そういえばこの部屋、なんか綺麗になった気がするな?」
「そういえば、匂いも無くなっているな?」
 皆が騒ぎ始める。

「ああ、それは、もが……」
 浄化のことを説明しようとしたら、後ろから、マッテイスに口を押さえられてしまった。
 躱せたが、皆の前で力を見せるのはまずい。

「やっぱり、アビントンさんに、教育係の変更を言ってやろうか?」
「大丈夫です…… たぶん」
 周りの皆から、冷たい目がマッテイスに向けられる……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...