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第三章 初等部

第20話 のろまな清掃人。実は監視者

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「シン君か。幾つだい?」
「今年九つです」
「へー。どうしてまた。こんな仕事に?」
 そう聞かれて、シンは少し考える。
 ふむ。まあ良いか。

「おぬし。いや、マッテイスさんと同じで、少し目的があるんです」
「ほう」
 そう言って、一瞬彼の目付きが鋭くなる。

「家は?」
「孤児。ですが、今はシュワード伯爵家で、お世話になっています」
「ほう。なるほど。親馬鹿か……」
 娘を見張るためとか、スキルのない子供を、何とか学園の授業を受けさそうと、この仕事につけさせる親もいる。
 実際、ヴィートとプラーシェクは、いま十六歳で、父親達が騎士爵で我が子を何とかしようとこの仕事につけさせた。
 実際は、数年で皆やめてしまうがな……

「そうですね。あなたは?」
 そう聞いてみる。

 ピクッと反応し、悩み始める……
「うーん…… 何か? いやぁ? 俺を見て…… 何かおかしな事でもあったのか? あー…… まあ良いか。君は、俺の何に気が付いて、そんな事を?」
 すごく悩んでいるようだ。かれは、冷や汗をたらしながら聞いてきた。

「そりゃ気配と、それだけ警戒心がダダ漏れでは、普通は気が付くだろう。学園の監視人か、もっと上か?」
 そう言うと、がっくりとうなだれる。

「ああ。両方だ…… 貴族の子弟とかが通っていると、誘拐とか色々あるからなぁ。その時になって、急に人員が増えれば不審がられる。一般の人間が知っているかは知らんが、王家直属の調査室だ。学園に説明をしたら、普段の監視もたのまれてね」
「ああ。昔の王国にもあった。国家安全管理局とか言う奴かのぅ」
 そう言うと、雰囲気が本気で変わった。

「お前、本当に見かけ通りの年か? それとも何かのスキル。幻術系か精神操作系か?」
「いや、何も使っておらん。魔力を見ればよかろう」
 そう言った瞬間、マッテイスの目がまた鋭くなる。

「なぜ、その事まで知っている。魔力操作による魔力の視覚化は、一般には秘匿されているはずだ」
 やれやれだ。しゃべればしゃべるだけ機密に引っかかるようだ。

「あー…… そうだな。あのな…… あー」
 シンは言おうかと思うが、言えば確実に国に伝わる。
 そうなると、大騒動にはなるだろうが、許されれば動きやすくなる。
 心の中の天秤が、超高速で傾きを変える。

 悩んだ末に、つい言葉が出てしまう。
「面倒じゃな、処すか……」
「はっ? ナニをする気だ?」
 ついに、暗器でも持っているのか、腰の後ろに手を持っていき、殺気まで出始めた。

「のう。ラファエル=デルクセンという者を知っておるか?」
 そう言うと、拍子抜けした顔はするが、まだ背中に回った腕は何かを握っている。

「はっ? 当たり前だろ。スキルシステムの祖だ。この学園でも習うぞ」
「習うのか?」
 シンは思わず驚く。

 そう。ついやってしまうエゴサーチのように、内容が気になり始める。
「当然だ」
「そうか、それはどのよ…… いやいい」
 どんな感じに書かれているのかを、聞こうかとしたが、ぐっと我慢をする。
 前の時代から千年と聞いた。
 情報が、どちらに歪んでいても、聞けば耐えられない様な気がする。

「それで、デルクセン様がどうした?」
「その記憶を持っておる。我は、前の人世では、ラファエル=デルクセンじゃった者だ」
「はっ?」
 そう言って、少し惚けたかと思ったら、質問をしてきた。

「じゃあ、仲間の名前を言って見ろ」
 見た目通りの年なら、知らないだろうと予測をしたようだ。

 だが……
「仲間と言えるのは、レジアス=オーケルフェルト。エルナ=ミカエラ。こいつは女だが、無茶苦茶やりやがって苦労させられた。ドミニク=ライナスとザシャ=エンフィールド。エメリヤン=スヴャトス。少数民族のノエル=デュー。エミリアーナ=デメトリア…… このくらいだな。他に支援者がいたが、そいつらは仲間かと聞かれれば別だ」

 それを聞いて、マッテイスは驚く。
「エルナ=ミカエラ? オーケルフェルトではなく…… それに、単なる奥方ではなく、仲間だった?」
「ああ、そうだ。きっと、レジアスは寝込みでも襲われて子を成したんだろ」
「寝込み? 襲われた?」
 そう言って、呆然とし始める。

 ふと思い出したように、質問をしてくる。
「自分しか知らない。証明になるような、秘密が何かあるだろ。言って見ろ」
 そうして、彼は、パンドラの箱を開いてしまった……

「うむ。そうだな…… スキルには限界がある。あれは初心者向けの補助機能だ。一般にも触れていたはずだが、なんでこんな世になっている?」
「なっ……」
 それは、一部の者しか知らない禁忌。

 実際、王家の者は知っている。
 何かあったとき、王の偉大さを見せるため。

 そう…… 国は知っている。その事と修行方法を。
 公開すれば、国民の底上げが出来て、国が強くなることも。
 ただ管理が、面倒になる。

 野良。つまり在野に居る強力な魔法使いは、国家にとって脅威となる。
 スキルこそ強力で、力を得た者は優遇するとした方が管理しやすい。
 実際発現する者は、知れている数。

 だが、そこから外れて、長年の修行の上に力を得た者は、とてつもなく強力で、しかも突然現れる可能性がある。

 十二歳でスキルがなく、独学で修行をし始めても、体ができあがる十八くらいまで鍛えたくらいでは、広がる魔力量も上限が予測できる。
 それとは違い、子供の頃から、魔力操作を行って修行すれば、手がつけられないレベルの能力者になってしまうことがある。
 それこそ、英雄と言えるような。

 国が恐れるのはそれだ。

 まさか、その状態が、すでにシュワード伯爵家とドラゴンダンジョンのスラムで行われているとは思ってもいなかった。

 そして禁忌と言われる、魔力枯渇からの魔力復活法。
 これは非常に苦しく辛い。

 だが、シュワード伯爵家の一部の人間は、抜いてくれぇーとやって来る。
 限界を超えた先に、よく分からないが、光が見え。すごく気持ちが良いらしい。

 神を見たとか……


 マッテイスは、刹那の時間に考える。とっさに、この場を逃げ、彼は王国へ報告することを選択する。

 だが、シンは早い。
 マッテイスが動き出した瞬間に、襟首を捕まえられて、耳元で聞かれる。
「逃げんでもよかろう。おぬし色々と知っておる様じゃし、お話をしよう。わしの教育係のようじゃしな」
「教育係…… だが、そっちは何かが違う。俺はまだ死にたくないんだぁ」

 そんな声が、密かに学園の片隅で響いた。
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