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第二章 幼少期

第16話 ダンジョンの異常

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 三十一から三十五階では、火山帯になっている。
 この階へ来て、シンは異常に気が付く。
 他の階に比べて、急激に濃くなった魔素。

「この階じゃな」
 そう言ったら、すぐに異変はやって来た。
 ボス部屋にいるはずの、炎龍フレイムドラゴンが暴れ回っている。

 直ぐ脇にある溶岩の滝。
 その裏に存在する。洞へ向かうのをやめる。

 本当なら、次の三十六階へ行き、氷原で魔素濃度を見た方が良いのだが、明らかな異常を見た以上、必要ないだろう。


 この階は、溶岩など赤熱した石に紛れて、フレイムバードやサラマンダー火トカゲが襲ってくる。体に張り付かれると、それだけで大やけどを負ってしまう。


 体の周りだけ、魔素を冷気に変換をする。
 これにより、周囲の温度を適温にする。

 アイスジャベリンを、暴れ回っている炎龍フレイムドラゴンへと撃ち込む。
 だが意外と丈夫。
 冷気の塊を造り、ぶつける。
 だが、炎龍フレイムドラゴンの方が強い。

「ええい面倒だ」
 今回は仲間が居ないため、波状攻撃で沈静化させることが出来ない。

「冷気で駄目なら。ほい」
 意外とシンは短気だったようだ。

 でかい水球を炎龍フレイムドラゴンにぶち当てる。
 そう、こんな事をすると、何が起こるのか。十分に知っている。
 知識的にも、経験的にも……

 経験は、昔の仲間。エルナ=ミカエラによって、強制的に積まされた。
 あの女だけは本当に…… 何度皆が死にかかったか。
 おかげで、通ってきた近道を知ったのだが。

 初めてこのダンジョンへ来て、六階へ来たとき。
「きっと、幻だよ」
 そう言って、あろうことかレジアスを、崖に向かって突き飛ばした。
 崖下へ落ちるときの、レジアスがした絶望的表情……
 悪いが笑っちまった……

 あの二人が結婚をした時は、何の冗談かと思ったよ。

 そんなことを思い出しながら、体を完全に包み込むシールドを張る。

 熱せられた水は急激に水蒸気となり、一気に膨張して体積が約一千七百倍にもなる。それはこの空間を、爆発的に広がる。
 気圧も上がり、強風が吹き渡る。

 炎龍フレイムドラゴンも驚き、溶岩内へ落下をする。
 粘性のある業火の川で泳いでいるが、溶岩中で生きられないのは知っている。

 耐熱性ならフレイムバードやサラマンダー火トカゲの方が強いのかもしれない。
 もう数発。体に当てるように水の塊を落とす。
 徐々に、沸騰の仕方が緩やかになり、色も黒く落ち着いてくる。
 冷めてきたようだ。

 周囲にいたフレイムバードや、サラマンダーもダメージを受けたようで、空間や壁から剥がれて落ちる。
 その後も、せっかく少し冷めた空間だし、気温を下げながら下っていく。

「妙に活性化をした火山は、何が原因だ?」
 気を付けながら歩いていると、目の前は燃えさかる池になり先に進めなくなってしまった。
 こんな事は、ダンジョンでは起こりにくい。

 すると、見たことないモンスターが湧いてきた。
 炎のヒュドラっぽい。
 多頭の蛇。
 それも、マグマの中で存在をしている……

「変異種か?」
 また仕方が無いので、全体を冷ましていく。
 そう。マグマの溜まりに対して、水球をぽんぽんと投げる。

 水を創っては投げ、創っては投げ。

 だが固まると、水位というのか、活性化して流れの多い溶岩が、その上に流れ込んできて、マグマの高さが積み上がっていく。そうここは、言わば河口部分。
 これはどう考えてもやばいし、蛇の頭も、壊れた端から復活をしてくる。

 倒すには、マグマ中の本体を攻撃?
 どうやって……
 一度、外に出ていた五本の頭。すべてを破壊をしたが、あっさりと復活された。

 思い出す。
 ここは、元々マグマ溜まりの池だったが、もっと規模は小さかったはず……
 下へ降りる道筋の脇。
 頭の中で記憶を呼び覚まして、位置を決める。

 詰まっているのが異変だとして、ダンジョンが流れを管理しているならどうする。
 マグマが循環をしていて、戻ってくる所に、流れ込んできている量が少ない。これはおかしいとなった場合。
 流れている量が少ないのなら…… だから、ダンジョンは素直に噴火量を増やした?

「うーん。安易だが。冷ましても駄目なら、熱してみよう。こいつがどのくらいまで、熱い風呂に耐えられるのか」

 マグマ溜まりの池。表面ではなく、溶岩内部くらいで、火球を創る。
 自身だけではなく、周囲の魔素を集めてつぎ込み、熱へと変えていく。
 エメリヤンだか、ノエルが言っていた。

 熱を加えるのは、物質が自由に動けるようにすること。
 ただ物によって、その限界はある。
 普段動ける生き物は温度が低く、動かないモノは高い温度で。

 そんな事を言っていた。
 今回、なんだか知らぬが頭の中に増えた知識。物質を構成しておる繋がりによって、それが決まっておるそうじゃ。
 固体、液体、気体。
 金剛石は、固体から気体へと変化するそうじゃ。

 火球へ周りの空気。
 その中でも、酸素と呼ばれる燃えるモノ。いや、燃えるという反応を補助するモノを、選択的に送る。
 とうとう、炎は普段見る赤ではなく青く輝き、周囲がドロドロに溶け始めてきた。
 流れの動きを見ても、普段よりもさらさらになってきた。

 もっと高い温度。もっと、もっと……

 中にいた、ヒュドラもどきが、暴れ始めた。
 シールドは、破れた瞬間に死ぬな。
 そちらにも気を付けながら、魔素を魔力としてコントロールする。
 気に入ってくれたなら、湯加減をもっと上げてやろう。

 火球だった物は、いつの間にか棒状の渦になってくる。
 わしから伸びる、竜巻。
 溜まった池に突き刺しながら、燃える元。
 酸素を、その筒の中を通して送る。

 先端では、青い炎が周囲を融かし、奥へ奥へと進んでいく。

 気のせいか頭痛がして、渦に向けている手の先から、指とかがなくなり、自分の体が崩れ始めたんじゃが…… これは、幼い体の限界かのう……
 そう、魔素の強引な流れ。魔力へと変換して、やったことが無いほどの、超高温の魔法。

 それは、頭の中に知識としてはあるが、きっと人間の扱える限界を超えていた。
 ダンジョン制御のために、高濃度になっていた魔素。
 それをほぼ使い切りながらの魔法。
 それも、連続使用。

 タングステンの融点である三千四百二十二度を超え、ダイヤモンドの融点三千五百四十八度に迫っていた。
 四千八百度を超えれば、ダイヤモンドは昇華してしまうといわれている。

 そこに至るまでに、彼の幼い体は分解を続けていく。
 そして、シールドが限界近くなり、輻射熱が体を襲い始める。

 シールドの強化に、体の再構築。
 そして、此処で熱するのをやめれば、元の木阿弥。

 その炎は、やっとヒュドラもどきの体ごと、溜まりの底を撃ち抜いた。
 その瞬間に、粘性の低くなっていた溶岩は、地中へと一気に流れ込んでいく。

「どわー…… 死ぬかと思った」
 そう言った彼は、顔まで焼けただれて、まるでリッチのようだった。

 問題は、服が焼けてしまったこと。
 亜空間庫に替えの服は持っているが、今回の遠征用は兵装としておそろい。燃えた一着しか持っていない。
「あーこれは…… 叱られるかなぁ」
 今回の遠征には参加していないが、頬を膨らませるヘルミーナの顔が脳裏に浮かぶ……

「おにいちゃま。メッです……」
 そして背後から聞こえる、「娘に心配をさせたわね」とまあ、怖そうな声が……
 そんな想像をしながら、頭を掻く。
 すると、炭となった髪の毛が、周囲に散らばる。

 彼は頭をかきながら、周囲の温度が安定し始めたダンジョンを、上階へ向けて歩き始める。
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