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第四話
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翌日、殴られた頰をさすりながら研究室に行くと、そこにはもう先輩と絵里がいた。
「どうだった?」
「見ての通り。健がいなかったらどうなってたことか……」
「私が連絡しておいてあげたんだからね!」
絵里が笑みをこぼしながらそう言った。私も笑いながら答えた。
「ありがと。おかげで助かったわ。でもまさか、あの後あんなに時間食うとは……」
「ちょっとまってよ、なんの話?二人ともあの後一緒に泊まったんじゃないの?」
先輩が困惑した顔で聞いてきた。あ、そういう勘違いしたんだこの人。去り際の笑顔はそれだったか。そういう展開を望む的なあれだったか。
「先輩、私たちは付き合ってませんよ。あと、こいつ彼氏持ちで、その彼氏ってのは私たちの幼馴染」
私が先輩に言ってやる。絵里が割り込むように、それは秘密だって!と言ってきたがもう遅い。私をネタにしたバツだ。
「なーんだ。二人のムフフな関係見れると思ったのになー」ここまでは笑いながら喋っていた先輩が、顔は笑ったまま声を落とし、「あと絵里あとで話あるから」
私は、先輩にそっちの気があるのは意外だと思いつつ、この後根掘り葉掘り聞き出されるであろう絵里の身を案じた。まあ、私が仕組んだけどね。
「あ、そうだ。昨日言ってたロボットの話は?」
まじかよ、本当に覚えてたよこの人。
「ああそうでしたね、そんな話してましたね」
さて、どんなのを思いついたんだったか。
はやくはやく、と先輩がお茶目に急かしてくる。
待ってくれ、子供かあんたは。……いや、人のこと言えないか。ああ、そうだ思い出した。
「有人ロボットのことなんですけどね、やっぱり胸部中央にコックピット置いておいた方がいいと思うんですよ。それで、その下の腹部にエンジン部分を載せたら重心がいい感じになるんじゃないかって」
「ふむふむ、なるほど、悪くないかもね。ま、なんにせよ二足歩行ロボットの基礎研究をもっとやらないと」
と、パソコンと向かい合った先輩だったが再び私の方を向いて、
「そいえば、クロってなんでこんな研究してるの?聞いたことなかったけど」
「あれ?言いませんでしたっけ。私、人一倍正義感強いんですよ」
自分で言うか、と絵里と先輩から突っ込まれたが、気にせず続ける。
「最近、治安が日本でも世界でも悪いじゃないですか。だから、強さとかっこよさの象徴みたいなロボットを使って世界を変えようかと。有効性があるかなんてわかりませんけどね。それができなくても、平和的に土木作業にも使えると思うし」
「……いいと思うよ、私は」
先輩がペンを回しながら答えた。
「え、何がです?」
私は、何が言いたいのかよく分からなかったので聞き直した。
「その夢、絶対忘れないで。それはあなただけの自分が生きる目的で人生の指針だから」
えっ、と思わず言ってしまった。あの先輩からそんなかっこよさげなセリフを聞くとは。少し先輩を見直した瞬間であった。
「なんてね、ちょっとカッコつけてみただけ」
前言撤回、そんなことはない。
「始めましょ、やる事」
珍しく、最近そんなことはないかもしれないが、静観していた絵里が急に立ち上がって言った。
「そうね、始めましょっか」
先輩も立ち上がって言った。
……流行ってるの?そういうの。二人が謎の眼差しをこちらに向けてくる。いや、やらないから、私そういう劇画タッチなことしないから。
「始めますか」
仕方なく座ったまま答えた。二人は黙ったままこちらを見つめている。
……なんだなんだこの沈黙は。やめてくれ、私を追い込むな。
「分かりましたよぅ、立てばいいんでしょ、立てば」
私は観念して立ち上がった。そしてなぜか二人の間から拍手が送られてきた。もう、やだこの人たち。
「ところで、ロボットで世界を変えるってことは、なんか会社作るつもり?」
作業をしながら片手間に絵里が聞いてきた。
「うん、そうだよ。名前はねぇ、そうだな、“B.W.M.”かな」
「なんの略?」
「どうせあれでしょ、黒柳 楓 の直訳の頭文字」
急に先輩が話に割り込んできた。別にそれは構わないんだけども。
「なんでわかったんですか?」
「だってさ、クロだよ?」
おいそれどういう意味だ。
「ああ、たしかに」
絵里も先輩に同意した。だから、どういうことなんだってば。
「会社ってことはロボットとかに名前つけるの?商品名みたいなの」
「つけたいな」
「どんなの?」
「うーん、“Humanoid exoskeleton manipulator”って事で 人型外骨格マニュピレーターとか?」
「うん、さすがはクロ。そういうところ単純で好きよ」
「つまらないって言わないでくださいよ~」
「そこまでは言ってないでしょ」
「思ったんですね」
「……それは、企業秘密」
あ、思ったんですね……。というか、そんな話をしていたらだいぶ時間をくってしまった。時間を確認しようと、ふと携帯を見た。ニュースの知らせがきていた。どうやら近くで強盗があったらしい。
絵里の方を見る。絵里も同じものを見たようだった。こちらを向き、頷く。こちらも頷き返した。
さて、今回はどんな風にして相手をやろうか。
これは、私のちょっと変わった日常のお話。
「どうだった?」
「見ての通り。健がいなかったらどうなってたことか……」
「私が連絡しておいてあげたんだからね!」
絵里が笑みをこぼしながらそう言った。私も笑いながら答えた。
「ありがと。おかげで助かったわ。でもまさか、あの後あんなに時間食うとは……」
「ちょっとまってよ、なんの話?二人ともあの後一緒に泊まったんじゃないの?」
先輩が困惑した顔で聞いてきた。あ、そういう勘違いしたんだこの人。去り際の笑顔はそれだったか。そういう展開を望む的なあれだったか。
「先輩、私たちは付き合ってませんよ。あと、こいつ彼氏持ちで、その彼氏ってのは私たちの幼馴染」
私が先輩に言ってやる。絵里が割り込むように、それは秘密だって!と言ってきたがもう遅い。私をネタにしたバツだ。
「なーんだ。二人のムフフな関係見れると思ったのになー」ここまでは笑いながら喋っていた先輩が、顔は笑ったまま声を落とし、「あと絵里あとで話あるから」
私は、先輩にそっちの気があるのは意外だと思いつつ、この後根掘り葉掘り聞き出されるであろう絵里の身を案じた。まあ、私が仕組んだけどね。
「あ、そうだ。昨日言ってたロボットの話は?」
まじかよ、本当に覚えてたよこの人。
「ああそうでしたね、そんな話してましたね」
さて、どんなのを思いついたんだったか。
はやくはやく、と先輩がお茶目に急かしてくる。
待ってくれ、子供かあんたは。……いや、人のこと言えないか。ああ、そうだ思い出した。
「有人ロボットのことなんですけどね、やっぱり胸部中央にコックピット置いておいた方がいいと思うんですよ。それで、その下の腹部にエンジン部分を載せたら重心がいい感じになるんじゃないかって」
「ふむふむ、なるほど、悪くないかもね。ま、なんにせよ二足歩行ロボットの基礎研究をもっとやらないと」
と、パソコンと向かい合った先輩だったが再び私の方を向いて、
「そいえば、クロってなんでこんな研究してるの?聞いたことなかったけど」
「あれ?言いませんでしたっけ。私、人一倍正義感強いんですよ」
自分で言うか、と絵里と先輩から突っ込まれたが、気にせず続ける。
「最近、治安が日本でも世界でも悪いじゃないですか。だから、強さとかっこよさの象徴みたいなロボットを使って世界を変えようかと。有効性があるかなんてわかりませんけどね。それができなくても、平和的に土木作業にも使えると思うし」
「……いいと思うよ、私は」
先輩がペンを回しながら答えた。
「え、何がです?」
私は、何が言いたいのかよく分からなかったので聞き直した。
「その夢、絶対忘れないで。それはあなただけの自分が生きる目的で人生の指針だから」
えっ、と思わず言ってしまった。あの先輩からそんなかっこよさげなセリフを聞くとは。少し先輩を見直した瞬間であった。
「なんてね、ちょっとカッコつけてみただけ」
前言撤回、そんなことはない。
「始めましょ、やる事」
珍しく、最近そんなことはないかもしれないが、静観していた絵里が急に立ち上がって言った。
「そうね、始めましょっか」
先輩も立ち上がって言った。
……流行ってるの?そういうの。二人が謎の眼差しをこちらに向けてくる。いや、やらないから、私そういう劇画タッチなことしないから。
「始めますか」
仕方なく座ったまま答えた。二人は黙ったままこちらを見つめている。
……なんだなんだこの沈黙は。やめてくれ、私を追い込むな。
「分かりましたよぅ、立てばいいんでしょ、立てば」
私は観念して立ち上がった。そしてなぜか二人の間から拍手が送られてきた。もう、やだこの人たち。
「ところで、ロボットで世界を変えるってことは、なんか会社作るつもり?」
作業をしながら片手間に絵里が聞いてきた。
「うん、そうだよ。名前はねぇ、そうだな、“B.W.M.”かな」
「なんの略?」
「どうせあれでしょ、黒柳 楓 の直訳の頭文字」
急に先輩が話に割り込んできた。別にそれは構わないんだけども。
「なんでわかったんですか?」
「だってさ、クロだよ?」
おいそれどういう意味だ。
「ああ、たしかに」
絵里も先輩に同意した。だから、どういうことなんだってば。
「会社ってことはロボットとかに名前つけるの?商品名みたいなの」
「つけたいな」
「どんなの?」
「うーん、“Humanoid exoskeleton manipulator”って事で 人型外骨格マニュピレーターとか?」
「うん、さすがはクロ。そういうところ単純で好きよ」
「つまらないって言わないでくださいよ~」
「そこまでは言ってないでしょ」
「思ったんですね」
「……それは、企業秘密」
あ、思ったんですね……。というか、そんな話をしていたらだいぶ時間をくってしまった。時間を確認しようと、ふと携帯を見た。ニュースの知らせがきていた。どうやら近くで強盗があったらしい。
絵里の方を見る。絵里も同じものを見たようだった。こちらを向き、頷く。こちらも頷き返した。
さて、今回はどんな風にして相手をやろうか。
これは、私のちょっと変わった日常のお話。
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