上 下
11 / 44
第三話 東京はショッピングモールですか?

03

しおりを挟む
 帰ると、家の前にトラックが止まっていた。

「あら、なにかしら」
「なんだろうな」

 そして、何人かの男性が家から荷物を運び出した。何事だろうと思っていると、家からヒロさんが出てきた。彼は何故かあの海亀の剥製を抱えていた。

「若、朱莉ちゃん、おかえりなさい! 今業者に荷物だしてもらってます。全部売っちゃいますけどいいですね?」
「ああ。……いや、待て、朱莉。海亀叩いておくか?」

 突然のフリにどう対応すべきだったのかわからず、とりあえず絶海さんに言われた通り、ヒロさんの抱えていた亀を叩く。ペン、と鳴った。ちょっと楽しかった。
 絶海さんはそんな私の顔を覗きこんで「楽しいか? 亀はとっておくか?」と言い出した。

「いらないわ。邪魔でしょ」
「そうか……ヒロ、全部処分してくれ」

 何故か絶海さんは少し落ち込み、ヒロさんはケラケラと笑った。

「今日中に上は空けられそうです。でもベッド入れるのは明後日ぐらいですね。……すいませんね、朱莉ちゃん。俺がちゃんと事前に準備しておけばよかったんだけど、聞いたのが一昨日だったもんで……」

 ヒロさんが申し訳なさそうに頭を下げるので慌てて「大丈夫だよ」と止める。こっちは置いてもらえるだけでありがたいし、そもそも悪いのはお母さんだ。私の言葉にヒロさんは頭を下げるのをやめると、不審そうに目を細めた。

「つーか若はなんで朱莉ちゃんと手を繋いでいるんですか? パッと見援交ですよ」
「私が朱莉の手をとることに理由がいらない。父親だからな」
「若がそれで楽しいなら俺はそれでいいですけど……とにかく、おかえりなさい。家入りましょう」

 私たちは荷物を運び出してくれている人たちの脇を通って家に入った。
 キッチンで買ってきたものを机に出しているとヒロさんは「参考書ばっかりこんな買ったんですか!」と驚いたように声をあげた。

「もっと女の子みたいなもん買ってあげたらよかったのに!」
「女の子みたいなもんってなんだ?」
「そりゃ少女漫画とかメイク道具とか! あ、でもワンピースは可愛いっすね。お嬢さんみたいで……待ってください、若、これ、値段……ゼロの数おかしくないすか……」

 震えているヒロさんを無視して、絶海さんは私の頬をムニムニとつまむ。

「朱莉はメイクするのか?」
「したことない。した方がいい?」

 絶海さんは「世界で一番可愛いからしなくてもいいと思うが、したいならしたらいい」と真顔で言った。思わずその手を引きはがしてしまった。

「朱莉?」
「気色悪い……」
「気色悪い⁉ 今、私のことを気色悪いと言ったか⁉」
「朱莉ちゃんは絶対メイクした方がいいですよ! 元が美人さんだからさらにあか抜けちゃいますよ! 高校生なんだから色々やってみてくださいよー」
「あはは、ありがとう。ヒロさんはお上手ね……」
「朱莉!」

 絶海さんが咎めるように私を睨んできたので、その目を睨み返すと「なんでヒロは気色悪くなくて私は気色悪くなるんだ?」と彼は悲しげに眉を下げた。

「……温度が……」
「温度?」
「マジっぽくてマジでキモい」

 絶海さんはダイニングチェアに腰かけると顔を伏せてしまった。どうしようこれと思いながらヒロさんを見ると、彼は両手で口をおさえて必死に笑いをこらえている様子だった。

「ヒロさん、なんでこの人すぐ拗ねるの?」
「ヒッ……やめてください! 笑っちまう! フハッ……」
「……絶海さん」

 笑い転げるヒロさんを無視して絶海さんに声をかけると、彼は少しだけ顔を上げてちらりと私を見上げた。そんなあざとい仕草が似合うのはこの人がイケメンだからだなと思いつつ、その目を見返す。

「そんなに可愛がらないで。私はもう十五歳なの」
「その年齢になんの意味がある?」
「もう子どもじゃないのよ」
「まだ子どもだ。それに今までずっと可愛がりたかったんだ。……やっとその機会がきたんだから、好きなだけ甘やかしてなにが悪いんだ?」
「じゃあ……なんで今までそうしなかったの?」

 私が首をかしげると絶海さんが顔を上げて苦笑した。

「私はヤクザだったからね。危ないだろう、そんなの……」
「ヤクザよく知らないからわからないわ。ヤクザって具体的になにしてるの?」

 絶海さんはぴたりと動くのをやめた。ヒロさんもぴたりと笑うのをやめた。

「……え、ふたりともなにをしていたの?」

 ふたりともたっぷり黙ったあと「『』していたな」「そうですね、『』です」と言い出した。

「『』ってなんなの? 危ないの?」
「『』と危ない」
「違法なこと?」
「前科はない」
「捕まってないってだけ?」
「これ以上は弁護士を通してもらおう」
「誰なのよ、弁護士!」
「あ。顧問弁護士は俺です」
「ヒロさんなの⁉」

 コントのような流れについキャラキャラ笑うと、ヒロさんもケラケラと笑った。絶海さんだけは気まずそうに襟を正した。

「とにかく今はもう……私には遠慮する理由がない。好きなだけきみを可愛がられる。だからきみは好きなだけ私にたかればいい」
「たからないよ! なに言ってるのよ、もう……」

 私が笑うと絶海さんは眩しそうに目を細めた。

「変な人ね、絶海さん」
「……マア、気色悪いよりマシだな……」

 絶海さんは眉を下げて苦笑した。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺様ヤクザと空手女子

ばくだん
恋愛
私、狼王子こと『狼谷美那』高校1年生 空手部のエースをやっています 昔から正義感は強く喧嘩っ早い性格で 男子に絡まれてる女子を救ったり していたら、いつのまにか 『狼王子』という謎の噂がたった 女子なのに!と内心思いながらも 女の子に好かれるのは悪くない そんな高校1年生半ば、事件が起こった

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

ヤクザとJK?!

あさみ
キャラ文芸
とある放課後、下校中に怪我をしているお兄さんを見つけ、助けたが何か急いでいる様で走っていった、数日後に親戚の結婚祝いに出席するとそのお兄さんと男の人が沢山居たのではなしかけると・・・?

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

処理中です...