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Shot04

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 マフィア『べニート・ファミリー』の事務所前で睨み合う俺たちだったが、状況は第三者の介入によって動き出した。

「何だこりゃ!? 事務所が!」

「おい! ありゃあ『吸血鬼』だ!」

「『魔弾』も居やがる!」

 道の向こうからゾロゾロと現れた集団。
 派手に事務所をぶっ飛ばしたせいで戻って来たファミリーの構成員達とファミリーに雇われた賞金稼ぎ共だ。
 ざっと五十人ってとこか。

「てめぇら! なにぼさっと見てやがる! 早く何とかしやがれ!」

「「「お、おう!!!」」」

 ソニーの怒声と共に奴らは武器を構えてこちらに突っ込んでくる。
 問題なのは奴らの中に魔導師が混ざっている事だ、炎の弾やら氷の塊やらが飛んで来る。

「ちっ!」

『ダァンッ! ダァンッ!』

 空中にばら蒔かれた氷の塊を両手で構えた二丁のモーゼルで撃ち落とす。
 しかし、その数があまりにも多すぎて迎撃出来ない、しかも炎の塊は鉛玉じゃあ撃ち落とせないと来てる。
 俺はたまらず物陰から飛び出し、別の遮蔽物へと走り出す。
 それを待っていたソニーが投げ付けるナイフを撃ち落とし、敵集団にも数発ぶち込む。
 魔法詠唱中の魔導師に確実に一発。
 致命傷では無いだろうが、痛みで詠唱が止まればそれで良い。

 すると、事務所の入り口に立っていた吸血鬼が動いた。
 破壊した事務所の残骸を掴むとそれを集団に向かって投げ飛ばした。
 残骸とは言っても縦横3メートルからある巨大な棚だ。
 弧を描くのでは無く、水平にぶん投げたそれは集団を叩き潰しながら飛んで行く。
 すると吸血鬼も恐ろしい速さで突撃する。

「おいおい、バーサーカーかよアイツは。んおっと!?」

 風切り音をとらえた俺は死角から投げられたナイフをギリギリで回避する。
 多対一の中、徒手空拳で戦う吸血鬼に気を取られた俺はソニーに背後を取られていた。
 投げられたナイフは右肩をカスめ、お気に入りのコートとスーツはスッパリと切り裂かれて血が滲んでいる。

「よそ見してる暇があるのか、コチニール」

「てめぇ、クメルジャ野郎! 大事な一張羅に傷つけやがったな!」

 ソニーを狙い銃を撃つ。
 しかし、ソニーは最小限の動きで弾道から身を逸らし、素早い動きで距離を詰める。

「ぐっ!?」

 懐に入られまいと銃撃を続けるが、ソニーは弾丸を躱し、あるいはナイフの投擲で相殺する。
 流石は異世界人、それも巨大マフィアの幹部クラスである。ステータスの基礎数値すら桁が違う。

 だが、異世界人はこちらも同じ。
 しかもコッチは異世界最悪の街、カミサマクソッタレ作りあそばされたとち狂った肥溜めの中の肥溜めで、某クライムゲーの主人公達もドン引きの日常を生き残って来た。
 こんな三下に殺られていてはこの先計画に不安が残る。

 ここで俺は、あえてコチラから距離を詰めた。
 相手を懐に『入らせる』のでは無く、コチラから懐に『入り込む』。
 ナイフを握った腕をグリップで殴りつけ、反対の腕で振られたナイフをバレル部分で受け流す。
 そして、体格差ゆえの立ち位置を利用して、飛び上がりながらの膝蹴りをソニーの顎に叩き込んだ。
 大きく仰け反ったソニーの鳩尾に一発、回転力を乗せた回し蹴りをお見舞いする。

「おっ、グェッ!!」

 潰れたカエルの様な声で蹲るソニー。
 しかし、ヤツも只者ではなかった。
 回し蹴りを食らった瞬間に降り抜いた腕が左手に構えているモーゼルをはじき飛ばした。

「クソっ!」

 モーゼルは吸血鬼のいる方へと飛んで行く。
 肩越しに振り返ると、五十人程の敵集団は既に四人まで減っていた。
 周りには体が有り得ない方向に曲がった奴や体の一部を失った奴、赤いシミに成り果てたヤツとまさに地獄絵図だ。
 すると、吸血鬼は自身の近くに飛んで来たモーゼルを目敏く見つけ拾い上げる。

「これは良いものを見つけた。さすがに肉体戦が面倒になって来たのでな。えーっと、確かこうやって……」

「おい! バカ、やめろ!」

 俺の制止も空しく、吸血鬼は既にモーゼルを敵に向かって引き金を絞っていた。

『ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!』

 吸血鬼の放った弾丸は、狙いはともかく敵の体のどこかに当たり動きを止める。
 銃の握り方、狙いの付け方、どれをとっても素人どころか触った事すら初めてに見える吸血鬼はその銃口をこちらに向ける。

「紫の娘! 後ろ!」

 撃ち返してやろうと銃を向けようとするが、吸血鬼から放たれた言葉にその場から飛び退いた。
 ソニーがダメージに耐えてナイフを振っていた。
 降り抜かれたナイフは俺の左腕を切り裂く。
 咄嗟に回避したおかげで大した事は無いが、さっきよりは深い、当分風呂に入るのに困りそうだ。

 俺が飛び退いたのを見た吸血鬼が発砲する。
 モーゼルに装填されていた弾は10発。弾き飛ばされた時点で9発。なら残弾はあと5発。

『ダァン! ダァン!』

 ソニーは吸血鬼の撃った弾を危なげなくナイフで迎撃する。
 一体何本ナイフ持ち歩いてんだコイツは。
 俺も吸血鬼の射撃が危なっかしすぎて迂闊に手が出せねぇ。
 しかも、そこで最悪の事態が起きる。

『ダァン! ダァン! ガギッ!』

「な、なんじゃ!? 動かん!」

 弾詰まりジャム

 自動拳銃オートマチックピストルを使う上で付きまとうリスク。
 弾丸を発射したあとの薬莢の排出。その空薬莢が排出口に詰まる事が稀にある。
 それは自動拳銃であるなら常に起こりうる物であり、さらに今回は状態が良好とは言え使い込まれたモーゼル、しかも使用者は初めて銃を握った吸血鬼。
 詰まった弾丸を取り除くには、モーゼルの場合、手動で撃鉄ハンマーを起こし遊底スライドを後方に引っ張る必要がある。
 当然、あの吸血鬼が知っているとは思えない。
 それに、ソニーもこの機会を逃さない。

「がっ!」

 次の瞬間、吸血鬼の眉間にナイフが突き刺さっていた。
 力が抜けた体はゆっくりと崩れ落ちる。

 俺は吸血鬼が倒れるのを見届けること無く、ソニーに銃口をむけていた。

『カチャッ!』
『ガチャッ!』

 しかし、そこには懐から銃を取り出しコチラに向けるソニーの姿があった。
 お互いに銃口を向け合い、睨み合う。

「知ってるぜ、コチニール。こいつァ、てめぇが市場で弾を込めたんだってなぁ?」

「あのジジイ。いや、誰に売ろうと商売人の勝手か……」

 ソニーが握っていたのは俺が遺物市で弾を込めたライヒスリボルバーM/79だった。
 勝ち誇った顔で優男が言う。

「ずいぶんとやってくれたが、これでおしまいだクソ女」

「ひとつ、勘違いしてるみたいだから言ってやる」

 俺は一欠片も臆すること無く言い放ってやる。

「おめぇにゃ、俺は、殺せねぇ」

「……ふ、ふざけんじゃねぇ!」

 その言葉に激昂したソニーは引き金を引いた。

 引いたハズだった。

「あ、あれ? え?」

 いくら引き金を引こうとしても引き絞れない、当然弾も発射されない。
 慌てふためく優男に向けて、現実を突き付けてやる。

「だから、使い慣れてねぇもんに命は預けねぇ方が良いっていったんだぜ? そいつァ、撃鉄を手動で起こさなきゃ弾が出ねぇんシングル・アクションだ」

「っ!!」

 ソニーが何かを言う前に、モーゼルから打ち出された9mm弾はヤツの眉間に風穴を空けた。
 投げナイフの名手は脳漿をぶちまけながら、血溜まりへと水っぽい音を立てて崩れ落ちる。
 持っていたリボルバーは使われること無くその手から虚しくもこぼれ落ちていた。

「しかも、そいつは安全装置セーフティ付きでな。レバーが掛かりっぱなしだぞ初心者ルーキー

 懐からタバコを取り出し火をつける。
 今更、切られた腕に痛みを感じてきた。
 どうせロッソも逃げた後だろうし、何よりこの瓦礫の中から金を探すのも億劫だ。
 さっさと帰ってファンの店で酒でも飲むか。
 そう思って歩きだそうとした俺に想定外の事が起きる。

「やるなぁ、紫の」

「っ!」

 背後から掛けられた言葉に銃を向ける。
 そこには額にナイフを生やして、顔面と言わず身体中を血だらけにした吸血鬼が立っていた。
 フード付きのボロのマントも返り血やら自身の血やらでどす黒く変色している。

 ソニーのナイフに殺られたハズの吸血鬼。
 それが何事も無かったかのように平然としている。
 なにか今日は背後にやたら回り込まれる日だ。ちょっと気が緩んでるのかもしれねぇ。

「待て待て待て待て! 別に、やり合うつもりは無いぞ?」

 そう言って吸血鬼は額のナイフを引き抜いた。
 どう考えても致命傷のソレを事も無げに取り去って、あさっての方向に投げ捨てる。

「見ての通りこの有様じゃ、もうここには用はない。それよりも我はお主に興味がある」

「俺はおめぇにゃ興味ねぇよ。とっとと失せろ」

「そう言うな、ほれこれも返す。それにコレも欲しくないか?」

 吸血鬼はモーゼルを投げて寄こした、俺は受け取ったモーゼルから詰まった薬莢を取り出して腰に収める。
 そして吸血鬼がボロマントの下から取り出したのはジャラジャラと音が鳴る袋だ。
 おそらく事務所にあった金の一部だろう。
 それなりの大きさの袋であり、吸血鬼が袋から取り出したのは金貨である、あれ全部が金貨だとするとかなりの額になるだろう。

「行く宛が無くてな。邪魔するぞ、魔弾」

「てめ、ふざけ」

「実はもうひと袋ある。しかも、見ての通り、我を殺すのはちょっと面倒だと思うがの?」

「くっ……勝手にしろ。ただし、ちゃんと働いてもらうからな!」

「当然! アウレア・アウローラじゃ、よろしく頼むぞ。あとお主の使っていた武器の使い方も教えて欲しいんだかの?」

「調子に乗んな腐れ吸血鬼」

「ちょっと待て、置いて行くでない! それに、まだ名前を聞いとらんぞー!」

 いつの間にか夕暮れ時になっていたトルーチュの街に、二人の少女が並んで歩く。
 それはまるで姉妹の様だった、二人ともボロボロで血塗れで無ければ、だが。
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