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5. SNS奇談 ~#FF外から失礼します~
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下校のチャイムが鳴り、中学校の校門から出たと同時に、松尾はスマホを取り出した。
自転車にまたがり、夕陽がさした通学路を悠然と走り出す。だが、意識はツイッターの画面を追っていた。毎日のタイムライン巡回は、彼の日課を通り越して『癖』だった。
「まーたコイツ、アホなこと言ってら」
今日の昼頃に『不適切発言』のツイートで炎上したタレント――それまで松尾はそいつの名前すら知らなかった――のホームを開くと、アンチにみっともなく反論している。元は自分が悪いのに、ネット民を論破しようと必死だ。ウケる。
(スクショとって晒そっと)
そのタレントが反論ツイートを削除した時のために、発言を画像として保存した。
無かったことなんかにさせるもんか。
一度出た発言、やらかした行動は決して取り消せないんだから。
ついでに自身の「このオッサンいい加減にしろww」というつぶやきも添える。
ひとつの正義を執行したかのような心地だ。気持ちよかった。反対側から自転車を走らせてきた見知らぬおばさんが、チリリンとイヤミったらしくベルを鳴らしてきたが、心底どーでもいい。
ゴキゲンで向かい風に吹かれていると、さっそく通知が来た。――が。
【FF外から失礼します。
やめた方がいいですよ。】
リツイートの通知に混ざって、そんなリプライが来た。
この『FF外からー』とは「あなたとは繋がっていない通りすがりですが、あなたに意見します」の意が込められた定型句だ。要はおせっかいである。
何だよコイツ。松尾はスルーすることに決めた。
続いて他の、炎上中の芸人のホーム画面に行った。同様に火種になりそうなツイートを保存して、「もうコイツ死ねよww」の言葉と共に全世界に発信する。
すると、
【FF外から失礼します。
やめた方がいいですよ。】
そんなリプライが、また。
「……ハァ?」
さすがにムカついた。松尾は自転車のハンドルを握りしめ、唇を噛んだ。
(うるせーな正義厨が。俺は正しいことやってんだよ!)
苛立ちを込めてペダルを踏み、やにわにスピードを上げた――次の瞬間、
ドン!!
凄まじい衝撃が松尾を襲った。バランスを崩したが、足を踏ん張ってどうにか転倒は免れた。命ほどに大事なスマホはしっかり握ったままで。
何が起こったか認識する前に、耳をつんざく金切り声が響き渡った。
「きゃあああ! ケンちゃん!」
松尾が乗る自転車のタイヤの先に、幼い子どもが倒れていた。近所の幼稚園の園児だ。小さな頭から血を流し、黄色い帽子を赤く染めている。
「どうしたんだ!」
「うちの子がっ、あの中学生の自転車にぶつかって……っ!」
あっという間に松尾の周りに人だかりができる。
スマホに釘付けのままスピードを上げた時、道を歩いていた園児にぶつかったのだ。園児が撥ね飛ばされた先はゴミ捨て場で、運悪く割れたガラス板があった。
松尾の思考は完全に止まった。それでもなお、彼はスマホを離さなかった。
彼の手の中で、スマホがツイッターの通知音を伝えた。
【FF外から失礼します。
だから言ったのに。】
自転車にまたがり、夕陽がさした通学路を悠然と走り出す。だが、意識はツイッターの画面を追っていた。毎日のタイムライン巡回は、彼の日課を通り越して『癖』だった。
「まーたコイツ、アホなこと言ってら」
今日の昼頃に『不適切発言』のツイートで炎上したタレント――それまで松尾はそいつの名前すら知らなかった――のホームを開くと、アンチにみっともなく反論している。元は自分が悪いのに、ネット民を論破しようと必死だ。ウケる。
(スクショとって晒そっと)
そのタレントが反論ツイートを削除した時のために、発言を画像として保存した。
無かったことなんかにさせるもんか。
一度出た発言、やらかした行動は決して取り消せないんだから。
ついでに自身の「このオッサンいい加減にしろww」というつぶやきも添える。
ひとつの正義を執行したかのような心地だ。気持ちよかった。反対側から自転車を走らせてきた見知らぬおばさんが、チリリンとイヤミったらしくベルを鳴らしてきたが、心底どーでもいい。
ゴキゲンで向かい風に吹かれていると、さっそく通知が来た。――が。
【FF外から失礼します。
やめた方がいいですよ。】
リツイートの通知に混ざって、そんなリプライが来た。
この『FF外からー』とは「あなたとは繋がっていない通りすがりですが、あなたに意見します」の意が込められた定型句だ。要はおせっかいである。
何だよコイツ。松尾はスルーすることに決めた。
続いて他の、炎上中の芸人のホーム画面に行った。同様に火種になりそうなツイートを保存して、「もうコイツ死ねよww」の言葉と共に全世界に発信する。
すると、
【FF外から失礼します。
やめた方がいいですよ。】
そんなリプライが、また。
「……ハァ?」
さすがにムカついた。松尾は自転車のハンドルを握りしめ、唇を噛んだ。
(うるせーな正義厨が。俺は正しいことやってんだよ!)
苛立ちを込めてペダルを踏み、やにわにスピードを上げた――次の瞬間、
ドン!!
凄まじい衝撃が松尾を襲った。バランスを崩したが、足を踏ん張ってどうにか転倒は免れた。命ほどに大事なスマホはしっかり握ったままで。
何が起こったか認識する前に、耳をつんざく金切り声が響き渡った。
「きゃあああ! ケンちゃん!」
松尾が乗る自転車のタイヤの先に、幼い子どもが倒れていた。近所の幼稚園の園児だ。小さな頭から血を流し、黄色い帽子を赤く染めている。
「どうしたんだ!」
「うちの子がっ、あの中学生の自転車にぶつかって……っ!」
あっという間に松尾の周りに人だかりができる。
スマホに釘付けのままスピードを上げた時、道を歩いていた園児にぶつかったのだ。園児が撥ね飛ばされた先はゴミ捨て場で、運悪く割れたガラス板があった。
松尾の思考は完全に止まった。それでもなお、彼はスマホを離さなかった。
彼の手の中で、スマホがツイッターの通知音を伝えた。
【FF外から失礼します。
だから言ったのに。】
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