上 下
5 / 66

5. とられちゃった

しおりを挟む
 中学生の頃の話です。
 当時、私は幼い弟と同じ部屋――和室に布団を並べて一緒に寝ていました。

 ある夜のことです。

 ナニカの音が耳に届き、私は目を覚ましました。
 豆電球がぽぅっと灯り、ほの暗いなかで目を凝らすと、上半身を起こした弟が、しくしく泣いてしました。

「どうしたの?」

 私は寝ぼけまなこで尋ねます。
「お姉ちゃん……」
 弟はしゃくりあげます。

「あのね、ぼく、お布団とられちゃった」

 そう答えて、弟は、



 天井



 を、指さしました。

 私はついその先を仰ぎ見ました。ですが何もありません。何もいません。
 何なのよ? と思いましたが、確かに弟の掛け布団は見当たりませんでした。寒そうにガタガタと震えています。
 きっと部屋の隅にでも蹴飛ばしたんだろう――そう考えました。事実、朝起きたら、弟の掛け布団はちゃんと室内にあったのです。

 その時は、眠くてたまらなかったので、弟を引き寄せて自分の布団に入れました。
 弟の小さなからだはとても冷えていました。
 翌日も同じことが起きて、私は目覚め、弟を布団に招き入れました。
 その次の日も、更に次の日も。

 きっと弟は寂しいのだろうと思いました。

 私たちの両親は忙しく、ほとんど家にいません。
 せめて姉である私にだけは構ってほしくて、布団が無くなったと嘘をつき、一緒に寝ようとするのでしょう。
 困ったものです。けれど愛しくも感じていました。
 こんなことが続いた、ある真夜中でした。

 私はふと、目を覚ましました。

 弟の泣き声に起こされたのではありません。
 目線を隣にうつすと、弟は眠っていたのです。安らかにすぅすぅと寝息を立てて。
 ちゃんと掛け布団を頭までかぶって、寝顔は見えませんが熟睡しているようでした。
 ああ今日は大丈夫なのか――と安堵した、その時でした。


 ……弟のすすり泣く声が、ふと、耳に。


 弟は隣で眠っているのに。

 私は目を瞬かせて、ゆっくりと、天井を見ました。
 そこには、泣いている弟が、ぴったりと、張りついていました。
 弟はしゃくりあげて、手足をぶらんぶらんさせて、私を見下ろして、哀しげに訴えました。


「お姉ちゃん、ぼく、とられちゃった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

強制調教脱出ゲーム

荒邦
ホラー
脱出ゲームr18です。 肛虐多め 拉致された犠牲者がBDSMなどのSMプレイに強制参加させられます。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

処理中です...