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【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章

「そこに心霊スポットがあるからさ」

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 次の日は、いつもより早く起きて学校に行った。
 飼育小屋の当番のためだけど、歩くうちに当番は来週だったって気づいた。

(さいあく……)

 ウツウツしながら歩くと、目の端っこに人影が映った。
 黒いしっぽみたいなポニテに、すらっとした立ち姿。

 とーごくんの妹・李夢だ。

 李夢は学校とは別方向、駅の方角に向かう。
 もしかして、と思いついて、迷った末に尾行することにした。
 案の定だった。
 李夢の目的地は、比良辻六丁目の――あの歩道橋だった。
 心臓がドキドキする。
 おれ、ここでの配信を観ただけで幽霊に狙われたんだよな。
 ノコノコ来ちゃってよかったんだろうか。カモネギ状態じゃね?

 でも、どうしても気になるんだ。

 李夢が階段をのぼりきってから静かに駆け上がった。
 いた。橋のちょうど真ん中でぼやっと佇んでいる。
 その足元で、可哀想なくらいに枯れ果てた花束が柵に立てかけられている。

 ……リン……

 ふと、鈴の音が聞こえた。晴れた空みたいに澄み切った音色。

 李夢は右手首に巻いた紅い紐をパッと握る。
 あのブレスレットについた鈴が鳴ったのかな。

 次に李夢は、ランドセルからスマホを取り出した。
 横向きに持ったその時、

「心霊写真、撮るのかい?」

 変な男が李夢に話しかけた。
 曇り空の朝なのにサングラスをかけて、ドクロTシャツとダメージジーンズが怪しいおっさんだ。

 李夢はちょっと驚いた後、男をぎっと睨めつけた。

「貴様には関係ない」
 
 おれはギョッとなった.
(キサマって、小学生の女が使う単語じゃねーぞ)
 いやそれよりやばいかも!

「り、李夢! 何してんだよー!」

 考えるより先に体が動いた。
 友達っぽく、李夢に駆け寄る。
 学校で『いかのおすし』と一緒に習った護身術。不審者に話しかけられている人がいたらその子は一人じゃありませんよアピールをしつつ交番まで逃げましょう、だ。

「気安く呼ぶな」

 氷の視線をくれて、李夢は背を向けた。
(いや置いてくなよおれを!)

 まんまと身代わりにされたおれを、おっさんがジロジロ見てくる。
 ランドセルの防犯ブザーってどう鳴らすんだっけ……と考えていたら、

「急に話しかけて怖がらせちゃったかな? お友達にゴメンネって謝っといてくれる?」

 知ってる声が降ってきた。
 思わず顔を上げて、その顔面をガン見する。

「〈よみっち〉……?」
「え! 俺のこと知ってるんだ、嬉しいなあ!」

 サングラスを外したその顔は、ステイホーム中、親の顔よりも見た〈よみっち〉だった。


「――じゃあ君も、心霊写真オークションに参加してくれるんだ?」

 歩道橋の上、朝の涼しい風に吹かれながら、〈よみっち〉と一緒に柵にもたれかかる。

「はあ、まあ……」

 正確には友達がだけど、違うって言いづらい。

 おれ、結構こういうとこある。

 言いたいことを我慢したり。
 お姉ちゃんからは「あんまし気ぃ遣うな」ってたまに言われる。
 そんなつもりはないんだけど。

「ならさっそく撮りなよ。スマホ持ってるでしょ? あ、小学生なら家かな」
「あ、ううん、ある」

 つい正直に答えた。おれのバカ。
 本当はスマホの持ち込みは禁止だけど、今日だけは……もしかしたらお父さんやお母さんから「今から帰る」って連絡が来るかも……って考えたら、つい。

 お姉ちゃんにバレたらケツバットされるやつだ。
 でも〈よみっち〉に言われるまま、おれはスマホを構えた。

「ここはね、ホンモノだよ」
「え?」
「ホンモノの心霊スポットだよ。俺が生き証人だ。ここなら絶対に心霊写真が撮れる。ジャンジャン撮ってね」

 満面の笑みの〈よみっち〉に、おれは訊かずにはいられなかった。

「〈よみっち〉は、ここで幽霊に祟られたんだよね?」
「うん。あの時は死ぬかと思ったな」
「それなのに怖くないの?」
「怖くはないなぁ。それより怖いものがあるからね」

 呪いや祟りより怖い?
 何それ?

「なんで一回引退したのに、また『〈よみっち〉の心霊チャンネル』を始めたの?」

〈よみっち〉は口の端を上げると、両手の親指と人差し指で長方形を作り、写真のアングルを決めるようなポーズで気取って答えた。

「そこに心霊スポットがあるからさ」
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