14 / 24
【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章
「そこに心霊スポットがあるからさ」
しおりを挟む
次の日は、いつもより早く起きて学校に行った。
飼育小屋の当番のためだけど、歩くうちに当番は来週だったって気づいた。
(さいあく……)
ウツウツしながら歩くと、目の端っこに人影が映った。
黒いしっぽみたいなポニテに、すらっとした立ち姿。
とーごくんの妹・李夢だ。
李夢は学校とは別方向、駅の方角に向かう。
もしかして、と思いついて、迷った末に尾行することにした。
案の定だった。
李夢の目的地は、比良辻六丁目の――あの歩道橋だった。
心臓がドキドキする。
おれ、ここでの配信を観ただけで幽霊に狙われたんだよな。
ノコノコ来ちゃってよかったんだろうか。カモネギ状態じゃね?
でも、どうしても気になるんだ。
李夢が階段をのぼりきってから静かに駆け上がった。
いた。橋のちょうど真ん中でぼやっと佇んでいる。
その足元で、可哀想なくらいに枯れ果てた花束が柵に立てかけられている。
……リン……
ふと、鈴の音が聞こえた。晴れた空みたいに澄み切った音色。
李夢は右手首に巻いた紅い紐をパッと握る。
あのブレスレットについた鈴が鳴ったのかな。
次に李夢は、ランドセルからスマホを取り出した。
横向きに持ったその時、
「心霊写真、撮るのかい?」
変な男が李夢に話しかけた。
曇り空の朝なのにサングラスをかけて、ドクロTシャツとダメージジーンズが怪しいおっさんだ。
李夢はちょっと驚いた後、男をぎっと睨めつけた。
「貴様には関係ない」
おれはギョッとなった.
(キサマって、小学生の女が使う単語じゃねーぞ)
いやそれよりやばいかも!
「り、李夢! 何してんだよー!」
考えるより先に体が動いた。
友達っぽく、李夢に駆け寄る。
学校で『いかのおすし』と一緒に習った護身術。不審者に話しかけられている人がいたらその子は一人じゃありませんよアピールをしつつ交番まで逃げましょう、だ。
「気安く呼ぶな」
氷の視線をくれて、李夢は背を向けた。
(いや置いてくなよおれを!)
まんまと身代わりにされたおれを、おっさんがジロジロ見てくる。
ランドセルの防犯ブザーってどう鳴らすんだっけ……と考えていたら、
「急に話しかけて怖がらせちゃったかな? お友達にゴメンネって謝っといてくれる?」
知ってる声が降ってきた。
思わず顔を上げて、その顔面をガン見する。
「〈よみっち〉……?」
「え! 俺のこと知ってるんだ、嬉しいなあ!」
サングラスを外したその顔は、ステイホーム中、親の顔よりも見た〈よみっち〉だった。
「――じゃあ君も、心霊写真オークションに参加してくれるんだ?」
歩道橋の上、朝の涼しい風に吹かれながら、〈よみっち〉と一緒に柵にもたれかかる。
「はあ、まあ……」
正確には友達がだけど、違うって言いづらい。
おれ、結構こういうとこある。
言いたいことを我慢したり。
お姉ちゃんからは「あんまし気ぃ遣うな」ってたまに言われる。
そんなつもりはないんだけど。
「ならさっそく撮りなよ。スマホ持ってるでしょ? あ、小学生なら家かな」
「あ、ううん、ある」
つい正直に答えた。おれのバカ。
本当はスマホの持ち込みは禁止だけど、今日だけは……もしかしたらお父さんやお母さんから「今から帰る」って連絡が来るかも……って考えたら、つい。
お姉ちゃんにバレたらケツバットされるやつだ。
でも〈よみっち〉に言われるまま、おれはスマホを構えた。
「ここはね、ホンモノだよ」
「え?」
「ホンモノの心霊スポットだよ。俺が生き証人だ。ここなら絶対に心霊写真が撮れる。ジャンジャン撮ってね」
満面の笑みの〈よみっち〉に、おれは訊かずにはいられなかった。
「〈よみっち〉は、ここで幽霊に祟られたんだよね?」
「うん。あの時は死ぬかと思ったな」
「それなのに怖くないの?」
「怖くはないなぁ。それより怖いものがあるからね」
呪いや祟りより怖い?
何それ?
「なんで一回引退したのに、また『〈よみっち〉の心霊チャンネル』を始めたの?」
〈よみっち〉は口の端を上げると、両手の親指と人差し指で長方形を作り、写真のアングルを決めるようなポーズで気取って答えた。
「そこに心霊スポットがあるからさ」
飼育小屋の当番のためだけど、歩くうちに当番は来週だったって気づいた。
(さいあく……)
ウツウツしながら歩くと、目の端っこに人影が映った。
黒いしっぽみたいなポニテに、すらっとした立ち姿。
とーごくんの妹・李夢だ。
李夢は学校とは別方向、駅の方角に向かう。
もしかして、と思いついて、迷った末に尾行することにした。
案の定だった。
李夢の目的地は、比良辻六丁目の――あの歩道橋だった。
心臓がドキドキする。
おれ、ここでの配信を観ただけで幽霊に狙われたんだよな。
ノコノコ来ちゃってよかったんだろうか。カモネギ状態じゃね?
でも、どうしても気になるんだ。
李夢が階段をのぼりきってから静かに駆け上がった。
いた。橋のちょうど真ん中でぼやっと佇んでいる。
その足元で、可哀想なくらいに枯れ果てた花束が柵に立てかけられている。
……リン……
ふと、鈴の音が聞こえた。晴れた空みたいに澄み切った音色。
李夢は右手首に巻いた紅い紐をパッと握る。
あのブレスレットについた鈴が鳴ったのかな。
次に李夢は、ランドセルからスマホを取り出した。
横向きに持ったその時、
「心霊写真、撮るのかい?」
変な男が李夢に話しかけた。
曇り空の朝なのにサングラスをかけて、ドクロTシャツとダメージジーンズが怪しいおっさんだ。
李夢はちょっと驚いた後、男をぎっと睨めつけた。
「貴様には関係ない」
おれはギョッとなった.
(キサマって、小学生の女が使う単語じゃねーぞ)
いやそれよりやばいかも!
「り、李夢! 何してんだよー!」
考えるより先に体が動いた。
友達っぽく、李夢に駆け寄る。
学校で『いかのおすし』と一緒に習った護身術。不審者に話しかけられている人がいたらその子は一人じゃありませんよアピールをしつつ交番まで逃げましょう、だ。
「気安く呼ぶな」
氷の視線をくれて、李夢は背を向けた。
(いや置いてくなよおれを!)
まんまと身代わりにされたおれを、おっさんがジロジロ見てくる。
ランドセルの防犯ブザーってどう鳴らすんだっけ……と考えていたら、
「急に話しかけて怖がらせちゃったかな? お友達にゴメンネって謝っといてくれる?」
知ってる声が降ってきた。
思わず顔を上げて、その顔面をガン見する。
「〈よみっち〉……?」
「え! 俺のこと知ってるんだ、嬉しいなあ!」
サングラスを外したその顔は、ステイホーム中、親の顔よりも見た〈よみっち〉だった。
「――じゃあ君も、心霊写真オークションに参加してくれるんだ?」
歩道橋の上、朝の涼しい風に吹かれながら、〈よみっち〉と一緒に柵にもたれかかる。
「はあ、まあ……」
正確には友達がだけど、違うって言いづらい。
おれ、結構こういうとこある。
言いたいことを我慢したり。
お姉ちゃんからは「あんまし気ぃ遣うな」ってたまに言われる。
そんなつもりはないんだけど。
「ならさっそく撮りなよ。スマホ持ってるでしょ? あ、小学生なら家かな」
「あ、ううん、ある」
つい正直に答えた。おれのバカ。
本当はスマホの持ち込みは禁止だけど、今日だけは……もしかしたらお父さんやお母さんから「今から帰る」って連絡が来るかも……って考えたら、つい。
お姉ちゃんにバレたらケツバットされるやつだ。
でも〈よみっち〉に言われるまま、おれはスマホを構えた。
「ここはね、ホンモノだよ」
「え?」
「ホンモノの心霊スポットだよ。俺が生き証人だ。ここなら絶対に心霊写真が撮れる。ジャンジャン撮ってね」
満面の笑みの〈よみっち〉に、おれは訊かずにはいられなかった。
「〈よみっち〉は、ここで幽霊に祟られたんだよね?」
「うん。あの時は死ぬかと思ったな」
「それなのに怖くないの?」
「怖くはないなぁ。それより怖いものがあるからね」
呪いや祟りより怖い?
何それ?
「なんで一回引退したのに、また『〈よみっち〉の心霊チャンネル』を始めたの?」
〈よみっち〉は口の端を上げると、両手の親指と人差し指で長方形を作り、写真のアングルを決めるようなポーズで気取って答えた。
「そこに心霊スポットがあるからさ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【ホラー】バケモノが、いる。 ー湖畔の森ー
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
大学四年生の夏休み、七虹(ななこ)はH県のS高原にいた。
頼りない自分を変えたくて、たったひとりで、新しい世界に飛び込むために。
そこで出会ったのは、椿(つばき)という人懐っこい少女と、大和(やまと)という美少年。
謎の多い椿と大和、そして『グロススタジオ』という会社のメンバーと合流した七虹は、湖のある森の中のログハウスで過ごす。
その夜、湖に行った宿泊客のひとりが姿を消す。
その湖には、人間を喰う『人魚』がいるという噂があった……。
*
超弩級のB級ホラー(バトル要素もある)です。
志知 七虹(しち ななこ)
/主人公
木瀬 椿(きせ つばき)
大和 柊(やまと ひらぎ)
/謎の多い少女と少年
仁藤 健太(にとう けんた)
/グロススタジオの責任者
四条 剛樹(しじょう ごうき)
伍川 圭助(ごかわ けいすけ)
六人部 雄一(むとべ ゆういち)
/グロススタジオの関係者(男)
一ノ宮 蓮絵(いちのみや はすえ)
三井 果蘭(みつい からん)
/グロススタジオの関係者(男)
ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜
蜂峰 文助
ホラー
※注意!
この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!!
『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎
https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398
上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。
――以下、今作あらすじ――
『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』
ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。
条件達成の為、動き始める怜達だったが……
ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。
彼らの目的は――美永姫美の処分。
そして……遂に、『王』が動き出す――
次の敵は『十丿霊王』の一体だ。
恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる!
果たして……美永姫美の運命は?
『霊王討伐編』――開幕!
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
ナオキと十の心霊部屋
木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。
山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。
男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。
仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
短な恐怖(怖い話 短編集)
邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。
ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。
なかには意味怖的なお話も。
※追加次第更新中※
YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる